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幕間 長女スザンヌの末路

 私は天才だった。

 少なくとも他の子どもよりも頭が良かったし、状況に応じて臨機応変な対応が素早く出来た。だから両親は、そんな私に期待をしてくれたのだ。

 魔導具技師。『僅かな魔力で魔導具を作ることで生活を豊かに出来ないか』そう考えたのはリーニャ商会の長男クルトと、次男のジェレミアだった。二人とも当時から少し変わった子どもで、私は頭が良かったから彼らのしたいことがなんとなく分かった。

 リーニャ商会を立ち上げた初代会長は元貴族で、魔導具研究所を追放された人物だったらしい。そのため魔導具の知識など代々子や孫に受け継がれていったとか。


 湯を沸かすのに井戸からくみ上げて、竈の火を起こして──とお湯を沸かすだけでもかなりの労力がかかる。それを魔導具でいつでもお湯が沸騰できれば、冬にとても便利だ。クルトが先祖の書物を読み解き、ジェレミアが構図を考えて作り上げる。


 この国で魔力持ちは王侯貴族に比べたら微量だけれど、日常生活用魔導具を作るだけならさほど必要としない。

 この商品は絶対に売れる。そう確信めいたものがあった。

 私は天才。魔導具技師としての才能もある。急に育てることになったロゼッタが三歳にして私を凌駕するまでは──。


 魔法術式を即座に理解していることも驚いたが、なによりも魔力量が異常だ。王侯貴族と同等かそれ以上の力を持っている。両親は素晴らしいと喜んだが、冗談じゃない。私を超えるなんて、私のプライドが許さない。


 貴族の家の養子に出せば大金が手に入る。両親はそう考えていたが、それでは一時的なもので後続的な収入ではない。それならいっそ言うことを聞くように育てれば良いのではないか。

 古い本に禁止された奴隷紋の術式があったので、何も分からない妹に「これ描ける?」と渡してみた。腹立たしいのは完璧に誓い形で模写したことだ。魔力もしっかり通っていて使える。

 その時、ちょっとした嫌がらせで私はロゼッタに奴隷紋を施した。


 妹の才能に嫉妬して、妬ましかったから。

 太陽のように笑う妹が腹立たしかったから。

 私が努力して手に入れた物を最初から持っていたことが──何もかもがムカついた。だから私が取り立てた。妹は私が成功するための道具。道具に心は必要ない。

 大切にはするわよ。死なない程度に。

 私が輝くための道具だもの。

 それからは全てが順調だった。私は国一番の魔導具技師として賞賛され、夫にも恵まれて贅沢な暮らしに、羨望の眼差し。

 全てが完璧だった。それなのに、どうして私が投獄されるの!?



 ***



「チッ、それなのに……なんで私が投獄なのよ」


 奴隷紋が利用禁止だって分かっていて使ったこと、それを次女に黙って作らせたこと、次女の功績を全て横取りしたこと、虐待など諸々の罪で私はこの狭くて暗い場所で地味な仕事を毎日毎日繰り返す。食事は質素で味も薄い。

 一日十時間の労働、食事は三食でるけれど質素なものばかり。

 外に出られず、誰とも会えない。最後に会えた両親は「お前のせいで」と罵詈雑言の嵐だった。私のせい? はああああ!?

 私のしてきたことを肯定してきたくせに!

 自分たちだって良いように使っていたくせに!

 私に会いに来たジェレミア()は助けてくれると思っていた。

 でも──。


「スザンヌ……結婚式にロゼッタが来ていなかったのは、彼女が癇癪起こした訳でも、我が儘でもなく、君と両親が虐待していたとは……見損なったよ。昔の君はもっと綺麗だったのに……」


 はぁああ!?

 夫は王太子殿下の許しを得て、魔導具作りに貢献すると言い出した。てっきり私を迎えに来てくれたと思って喜んだのに!?

 離縁状を持って私と別れるという。


「私も不正に薄々気付いていながら放置していた。だからその償いは国に貢献することで、償っていくつもりだ。そして王太子殿下は、私のような有能な血を絶やすことを望まなかった」

「だから私を捨てるの!?」

「そうだよ。私には血を絶やさぬように、貴族の娘と結婚するように言われている。これは決定事項だ」

「はあああ!? なんでお前が、お前だけが貴族になって、名誉も地位も、王太子にまで気に入られているのよ!? ふざけないで!」

「ロゼッタが王太子殿下に口添えをしてくださったからだ。本当に彼女はあれだけのことをされたのに慈悲深い。素晴らしい人だと思うよ」

「はあああああああああああああああ!?」


 またロゼッタだ。

 どいつもコイツも隣国の王子もロゼッタと面会させろと言ってきた。なんでロゼッタなのよ!?

 どうして私の私が欲しい物は全部あの女の物になるの!? 

 腹立たしくて、その日から魔導具の仕事を放棄した。私の力が必要なくせに、私に酷い態度を取るのが悪いのだわ。


「私に仕事をさせたかったら、もっと扱いに気をつけなさいよ!!」


 そう衛兵に叫んでやった。最初は衛兵に媚を売って同情を買おうとしたが、誰も相手にしなかった。なんて酷い奴なのかしら。

 でもすぐに私の有能さに気付くわ。


 そうやって一月が立った頃。この国の王太子──リベリオ殿下が現れた。夫なんかよりもいい男で、思わず見惚れてしまった。


「王太子殿下。私はこんな環境じゃなければ、もっと素晴らしい魔導具が作れますわ」


 そう言ったのに、リベリオ殿下は涼しげな笑みを浮かべるだけ。王太子としての笑顔だけれど、その瞳はどこまでも凍り付いていた。


「ロゼッタ嬢の姉というのに、頭が悪いようだ。彼女のような慈悲深さと、魔法術式の知識、技術が一割でもあれば側室にしても良かったのに」

「側室……!?」


 その単語に口元が緩んだ。やっぱり分かる人には私の価値がスゴイって分かるのよ。


「ああ、何か勘違いさせたのなら、すまないね。君には才能も、人としての尊敬できるものが何一つない。仕事を放棄してただ飯を喰らっている罪人がいると報告が入ったから、手を打ちに来た。殺しても良かったけれど、有効活用はすべきだろう?」

「え? ぎゃああああああああ!」


 唐突に激痛が走り、私の胸には見覚えのある紋様が浮かび上がる。


「あ、あ、ああっッ……この紋様は」

「そう懐かしいだろう。君がロゼッタ嬢にした物の改良版だよ」

「そ、ん、な……国で禁止しているって」

「しているよ。でも君は罪人で平民ですらない。まあ、君の刑期が無事に終わったら外して上げる。いやほんと、君が罪を償い働いていればこうはならなかったのに、因果応報という奴だよ」



 離宮にその日、獣のような絶叫がしたという。しかし姿もなく、誰も彼もすぐに忘れてしまった。

 

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

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