第20話 第五王子ジルベールの視点3
第四王子アウジリオ兄様の容態が良くない。その知らせに動揺し、こんなことならもっと早くロゼッタに相談しておけばよかった。
「……このところ、体調を崩していたのだがいよいよ……容態が危ないと聞いてな」
「──っ、それは一刻も早く戻らないとですね」
「ああ。……すまない。本来ならロゼッタも連れて行きたかったのだが」
「私も早くシュプゼーレ聖魔法国に行きたいです。でも今回の一件では調査が終わるまでは他国に移れないそうですし……」
そうクライフェルゼ王国は王太子が戻りまでは、滞在して欲しいと縋ってきたのだ。王太子が出てこようと、ロゼッタの気持ちは変わらない──変わらないと思っている。信じてる。
ロゼッタを残すことに不安になっている中、ロゼッタは短時間で呪いの答えを導き出し、休み休憩、水分補給も無しに数時間で魔導具を作り続けた。
その真っ直ぐな気持ちに、罪悪感で心が押し潰されそうになった。私はロゼッタの両親や姉と同じように同情や恩と言う名で彼女の才能を、体を酷使させたのだ。医師にもしばらくは静養にと念を押されたというのに。
「ざ、罪悪感で死にそう」
「殿下のお心を奪う者が現れるとは……春ですな」
「うるさい」
くつくつと人の悪い笑みを浮かべているのは、側近のアベルだ。やっぱりロゼッタを連れて来るべきだったと後悔する。
念の為、侯爵とその娘と、腕の立つリュカにも残ってもらった。王太子よりも厄介なのは、教会だ。
あの魔力量と、知識は平民とは思えない。枢機卿の遠縁の可能性はあるだろうか。だとしてもすでに養子縁組は終わっている。ロゼッタの場合は、実の親とか関係なく自分が安心できる生活環境かが大事だからな。
不安は残るけれど幻獣猫も渡したことで少しは安心……。
「ところで殿下はロゼッタ嬢に幻獣猫についてしっかり説明なさったのですか?」
「…………」
「王族だけが生み出せる自分の分身体。その相手に預けるには最大の求愛だと」
「…………言ってない。と言うかそんな暇なかった」
「「…………」」
馬車に揺られながら、窓の外に視線を向ける。まだ王城を出て少ししか経っていないはず──。
「今すぐ戻ってロゼッタに説明を!!」
「殿下!? 何考えているのですか!? バカですか!?」
「転移魔法があるだろう」
「それは帰るための分でしょうが!」
馬車から飛び降りて転移魔法を使おうとしたが、アベルに全力で止められた。無念。
転移魔法は一日に一度しか使えない。
「ロゼッタの言っていた魔導具で──」
「ロゼッタ嬢のことは信用していますが、検証もなしで転移は怖すぎます!」
緊急事態なら使用も考えるが、現状戻るだけなら転移魔法のほうが安全ではある。それに座標ポイントが全く別の場所だった場合、目も当てられない。アベルが正しい。悔しいが。
「とりあえず、ミレイア嬢に伝令しておいましょう」
「…………頼む」
***
それからシュプゼーレ聖魔法国に戻り、国王陛下と王妃への挨拶もそこそこに、第三王子のアウジリオ兄様の部屋に急いだ。
「こほこほっ。ジルベール──って父上に母上、クローディアにルーファス兄上、イグリット兄上……って勢揃いじゃないか!?」
思っているより顔色は良いものの、起き上がるのは難しいそうだった。灰色の髪に、空色と紫色の瞳のアウジリオ兄様の顔を見て泣きそうになる。大丈夫、まだ間に合う。
「おおおおおお落ち着いて聞くのだ、アウジリオ」
「そそそそそそうよ」
「こほっ……国王両陛下が一番落ち着いてください。何事ですか」
「私の婚約者が兄様の病を治せるかもしれないのです」
「──っ!?」
アウジリオ兄様が固まった後、両親と同じように慌て出した。その気持ちはよく分かる。
「ジル。お前はついにあの我が儘娘という娘と婚約したのか?」
「イグリット兄様。私が婚約したのはクライフェルゼ王国の少女、ロゼッタです。天才魔導技師にして、この魔導懐中時計を修復した人物かつ、賢者並みの知識を持ち合わせています」
一番上のイグリット兄様に訂正しつつ、魔導具の説明と必要なものを話した。それ以外にもロゼッタが信用できる者だと、わかるように幾つもの魔導具を見せたのだが──。
「なにこれ! ジル兄様、このブーツすごいわ。身体が羽根のよう!」
「クローディア。飛び回るのはやめようか」
「このブーツ、水虫防止!? 騎士団の者たちが目の色を変えるだろうな」
「既にその話で詰めていますよ父様」
「ペンの中にインクが入っている……だと!?」
「いちいちインクをつけずに書くことができるのか!」
「イグリット兄様、ルーファス兄様の落ち着いてください。そしてアウジリオ兄様、良い加減戻ってきてください」
「ハッ!?」
魔導具に興奮し過ぎて、王族の品格はどこに行った状態だ。
アウジリオ兄様の呪いは、一族の特徴だという話をした。それと魔導懐中時計の魔法術式に書かれていることを伝えた。
「呪いではなく……体質だったとは……」
「試してみよう」
半信半疑という感じだがアウジリオ兄様は真剣に考え、そして魔導具を使うことを決めた。穏やかで、けれど覚悟を決めた瞳。
「なにもしなければ、死が待っているだけだからね。それならジルベールが信じた彼女に懸けるよ」
「アウジリオ兄様」
アウジリオ兄様がそう言うなら、と両親や兄妹たちも納得した。ルーファス兄様にはあらかじめ鉄分が豊富に含まれている料理や飲み物を用意してもらった。輸血は様子見ということで、準備だけはしている。
「じゃあ付けるよ」
「うん」
腕輪を装着した瞬間、黒い蔦は腕輪に吸い取られていく形で消えた。一族を苦しめてきた呪縛が、今この瞬間に解き放たれたのだ。
「おおお!」
「アウジリオ兄様、痛みは?」
「大丈夫」
しばらくして腕輪の窪み部分に黒い宝石のようなものが生じ、カランと音を立ててベッドに転げ落ちた。二十カラットはあるだろうか。
「これは……」
「ロゼッタ曰く、体の中に蓄積された魔力と血液が交わった塊だそうだ」
「アウジリオ、気分は?」
全員の視線がアウジリオ兄様に向けられる。兄様の肌の痣が減ったからか、顔色が良い。
「ああ、……こんなにも呼吸するのが楽になるなんて」
「これを続けていけば、アウジリオ兄様は良くなるのね!」
「そのようだ。だが、この結晶体は血を凝縮したものなので、やり過ぎると貧血を起こす。そのため数日に分けて無理のない範囲で処置を行っていこう」
「僕も手紙を読ませて貰ったけれど、人の血液量は体重の約八パーセント、アウジリオの体重がぴーーーだから」
「そこの配慮はいらないよ? 兄上」
「一日の宝石を五つ作ったら腕輪を外すように。それと豆を細かくすり潰して、ミルクと混ぜて作ったスープを飲んでおくと良い」
部屋にまろやかで良い香りが充満する。
アウジリオ兄様は美味しそうにスープを食して、おかわりまでした。
***
王族の中で金髪と空色の瞳以外は、魔力量を受け止める器(肉体)が耐えられないらしく、外に魔力放出しようにもその術がなかった。そのため魔力の塊が膨れ上がり、血管を傷つけた時に血が混じり合い血管が黒く染まって、蔦のような痣となる。
そして全身の血が魔力の塊に汚染されると血が巡らず、心臓が止まる。ロゼッタの話ではそう言った余分な魔力を体内から吐き出すために、魔導具の研究が進んだのでないかと仮説を立てた。
「魔法には属性や適正、そして魔力量などその時代によって異なる。しかし魔導具は使い方さえ分かっていれば誰にでも対処が出来るように作られていたとしたら、それはどんな時代でも同じ症状の人を助けられる。そう思って魔導懐中時計は出来たのではないかというのが、ロゼッタの推測らしい」
「つくづくお前の選んだ婚約者は凄いな。あのスープや料理もその婚約者の指示なのだろう?」
イグリット兄様は金髪空色の瞳を色濃く受け継いでおり、彫刻のように美しく頭脳明晰で魔法剣技においても超一流。紳士的と非の打ち所がないと思われているが、兄妹愛がくそ重い。そしてその婚約者に対しても同じだ。家族観に関してのみ思い込みが激しい部分がある。
「そういえば先ほど名が出た公爵令嬢だけど、また王城で騒いだそうだよ」
「なに!? ジルベールの婚約者だとか名乗っていたが、婚約者が出来たのならアリーシャを出禁にしてしまおう」
「……そうだね。ロゼッタに難癖を付けかねない」
「わかった」
アリーシャ・クレスター、青い髪が特徴の公爵家の一人娘だ。
私が女性に対してあまり良い印象を持てなかったのは、彼女の存在が大きい。幼い頃から婚約者の座を狙って執拗に付きまとってくる。
陶器のように白く、美しい薔薇のような女性ではあるが、傲慢で自分の思うとおりにならないと癇癪を起こす。
今回もどうせ父親に用事があるとか言って、王城に入ったのだろう。一人娘を溺愛したクレスターニ公爵には再三忠告をしているのだが、ロゼッタの件を知ったら激高する可能性がある。
「私の弟の婚約者のためにも、早めに手を打っておこう」
「イグリット兄様、ありがとうございます」
この時にロゼッタとイグリット兄様を会わせておけば良かった。そうすれば最悪な初対面は防げたはずだ。
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