第19話 第五王子ジルベールの視点2
ロゼッタは原石の塊だと思った。
芯が強くて、状況把握と自分の立場を冷静に分析する。何よりも圧倒的なセンス、そして知識量、魔導具技師の才能以外でも彼女は他の令嬢の思考よりもずっと高次元の視点を持っていた。
それに彼女の屈託のない笑顔を前にしたら──もうダメだった。何をしていてもとても可愛く見えるし、実際に可愛いし、いろんな表情を見せて……あれ? 女の子ってこんなに可愛いものだったけ?
いつも厚化粧と香水の匂いをぷんぷんさせて、甘すぎる菓子と紅茶を飲みながら、だれそれの悪口で盛り上がる。毒薔薇の存在だと思っていたのに、ロゼッタはその固定概念を吹き飛ばした。
「殿下、彼女は純粋すぎるところがあります。お連れするのであればそれなりの覚悟と、事前に色々情報共有をすべきです。私は殿下を疑っていませんが、そう言って近づく連中にとってロゼッタ嬢には免疫がないでしょう」
「それは」
アベルの言葉に対しても、ロゼッタはニコリと笑って対応をする。
「ラルエット様、ご配慮ありがとうございます。ですが訂正をさせてください。まずジルベール様についてですが、私がこの方を信用しているのは、私を助けてくださったこともありますがそれ以上に、あの魔導懐中時計の持ち主だからという点です」
「魔導懐中時計?」
「魔導懐中時計の持ち主は、魔法術式によって制限されております。そして制作者の願いのこもった言葉を読んだ時、この持ち主はとても愛されていると感じました。だから人物や人柄的には悪くないと印象を持ちました。次に隣国でありながらも、私に会いに来てくださったこと。これは私の才能を知って囲うためだったとしても、交渉もまともでしたし、権力を行使するなどではありませんでした。そしてジルベール様も魔法術式が読める魔導具技師相当の知識や実績があるのなら、素敵な仕事場を提供してくださると──このあたりは勘です。そもそも平民で奴隷紋のあった人間を、『大事な知人』と言って客間を与えるという配慮も素晴らしいと思うのです。普通は治療室、せいぜい個室の治療室の対応でしょうし……だから総合的に見て、信用してもいいかなと思ったのです」
どうしよう。すごく可愛いし賢くて、分析力もしっかりしている。地に足を付けて、驕ることも縋ることもない。アベルがあんな風に女性に助言することなんて一度も無かった。まさかアベルもロゼッタを狙っている?
「……もしやアベルが好み」
「殿下、どうして恋愛になると冴え渡る分析眼が曇ってポンコツかつヘタレになるのですか……」
「うるさい」
アベルは有能だ。だとすれば婚約者としてもちょうど良かったのでは?
でも最初からそれは嫌だった。だから、きっと、たぶん、ロゼッタの眩しいぐらいキラキラ輝いた瞳に、真っ直ぐに心を見透かすような眼差しに、掛け値無しの笑顔。そして時々見せる何もかも諦めたような、絶望的な瞳が気になった。魔導具作りの話をしている時とは打って変わってどこまでも深く暗い色。
ロゼッタが今まで誰にも頼れずに生きてきた。そして今後、私が保護して、愛を囁いてもそれを真に受けず、必ず逃げ道を準備するだろう。ロゼッタは裏切られること前提で動いている。
それは寂しくもあったけれど、私がまだ彼女の心の片隅にも居ないからだ。それなら私は君が安心して息が出来る場所を用意しよう。
君の居場所が私の隣だと思えるように、できる限りのことをする。養父選びも出世欲よりも情に厚く、いざとなったら王家に対抗してでも家族を守ろうとする家柄が良い。私もロゼッタを守るために環境を整える。
ロゼッタを利用する輩は全力で叩き潰す。彼女を道具として取り込もうと考えている連中は目にものを見せてやろう。
***
ロゼッタが好きだ。その気持ちに気付いたら、胸が温かく、苦しくもあって、自分の中にこんな感情があったのだと驚くばかりだ。
好きだと自覚して口説こうとするも空回りばかり。リュカとアベルにドン引きされるか、哀れんだ目を向けられた。今までどんなふうに女性に声をかけていた?
どんな風に言葉を掛ければロゼッタは喜んでくれる?
好きだと今までは好きでもなくても言えたのに、ロゼッタの前だと好きだという気持ちが上手く言葉に出せない。
最終的には丸め込んだというか、現状で打てる最善の手としての提案が通ったと言う感覚で、甘酸っぱい感じはない。いや私はロゼッタが傍に居るだけで心臓がバクバクしているのだけれど!?
「その……この契約の部分に『万が一、婚約解消になった場合は慰謝料と、それまでの功績を讃えて爵位を貰う許可』と『契約婚約の更新は二年……いえ、一年ごと』という文言を追加してほしいです」
「うん。わかった」
それがロゼッタの逃げ道なのだろう。
いいよ。手放す気はさらさら無いけれど、それでロゼッタが安心するのなら今はそれでいい。これから君をとことん大事にして、距離を縮めていくから。
心の傷は時間がかかるし、目に見えて経過が分からないから厄介だけれど、それでも沢山の愛情を君に届けたい。沢山話をして、君の声を、思いを引き出そう。
「家族になってくださって、ありがとう。お父様……ミレイア姉様」
ロゼッタに新しい家族が出来たのは嬉しい。これも想定内だったのだが、まさか抱きしめられて泣いてしまうとは──。婚約者にもなったのに、まったくもって喜んでいないのはちょこっと凹むけれど。
私だってロゼッタに抱きついて、大好きだと言いたい!
そんな風に見ていたら「大人気ない」とか「心が狭い」とリュカとアベルから小言が飛んできた。煩い。
***
食後にロゼッタと話がしたい。婚約のことについて。それから──。
「ロゼッタ嬢、食事が終わったら……魔導懐中時計について話がしたい」
「喜んで!」
全員に「ヘタレ」だと思われたが気にしない。ヘタレなのは事実なのだから。
それに魔導懐中時計の研究のことも話しておきたかった。
黒蔓痣死呪のことをロゼッタに話して、協力を求めるため布石を打っておきたかった。魔導懐中時計の魔法術式の研究を手伝ってほしい。そう言おうとして──言葉に詰まる。
「婚約者になってくれてありがとう」
ふと口にしていたのは本心だった。ロゼッタは困った顔をしていたので、言葉を補足する。
「違うよ。……私は心の底から、ロゼッタ嬢と恋人になって本当の婚約者になりたい。将来的には結婚だって……考えている」
ああ。本当に全然私の思いは伝わっていなかった。冗談半分に聞いていた。あるいはそう受け取ることで、傷つかないようにしていたのだろう。
「でもそれは私の気持ちで、思いだ。……今のロゼッタは、魔導具作りと新しい環境や人付き合いで精一杯だってことも分かる。今まで育ってきた環境や人間関係を見ても、今すぐどうこうしたいとも思っていない」
泣いても良い。
喧嘩をして言い合いをしても良い。不満を呑み込まないでほしい。私にも辛い気持ちや悲しい気持ちを背負わせてほしい。
傍に居てロゼッタが好きだと、君はとても素晴らしい人だと伝えたい。自分で自分を大切にしてほしい。
「私はロゼッタ嬢が好きだ。それだけは伝えたかったし、年を重ねるごとに私が本気だとロゼッタ嬢が分かるまで、口説くと宣言しておく」
泣きそうなのに、泣けないロゼッタに胸が痛くなる。
裏切られるのが怖いのは誰だってそうだ。だから私はどんなことがあっても、ロゼッタだけは裏切らない。
その思いを胸に「婿入りしても良い」と伝えておいた。どうしよう。困った顔のロゼッタも可愛い。困らせたいわけではないのだけれど。
「私の刻はロゼッタが動かしてくれた。だから今度は私が返したい。私の我が儘だ」
その日、抱きしめることは出来なかったけれど、繋いだ手がとても温かくて、泣きそうになった。
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