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第18話 第五王子ジルベールの視点1

 魔導懐中時計。

 祖先の残した叡智の結晶──そう呼ばれていた特別な魔導具。シュプゼーレ聖魔法国では、どの国よりも早く魔導具の研究を行い、古い歴史がある。しかし遙か昔に魔導具を悪用した貴族があり、長い間王家と一部の貴族のみの扱いに制限し、安全に使えるようになるまで秘匿する方針をとっていた。


 元々魔法を使う者たちが多かったことにより、魔法の研究も進んだことで生活水準は王侯貴族、平民たちに至るまで被害は少なくすんだ。魔導具の存在はいつしか道楽のような扱いになっていった。そんな歴史に埋もれてしまった魔導具の研究を復活させようとしたのは祖母だった。

 その理由は第三王子カリスト兄様、第四王子アウジリオ兄様の呪いを解呪する方法が、魔導具にはあるかもしれないからだ。古い文献に魔導懐中時計は、王家に神々の叡智と加護を与えるという一文があったからだ。


 神々の叡智。それならば呪いを解く方法が記されているのではないか。そう考えに辿り着いた祖母は、王妃の座を退いてからずっと研究をし続けていた。けれど寿命には逆らえず、ベッドで過ごす日が増えた。


「ジルベール、私の代わりにこの研究を続けてほしいの」


 それが祖母の最期の言葉だった。

 13の時から祖母の代わりに研究を続けたけれど、魔導懐中時計の針を動かすことすら出来ず、なんの成果も上げられなかった。そして私が15の時に、カリスト兄様は亡くなった。

 30まで生きられない。そう言っていた。でもだから30までは──そう思っていたのに、カリスト兄様は20で亡くなった。


「私だけでは無理だ。外部に協力を──」


 そう他の兄や国王両陛下に相談して、シュプゼーレ聖魔法国の貴族の助力を求めたものの、成果はでなかった。貿易都市が幾つもあるので他国とも交渉するも、私の望む魔導具技師は見つからず……。よく考えれば魔導具は歴史に埋もれた過去の技術だ。現代に残っているとしても王侯貴族が秘匿しているだろう。


 諦めかけて自暴自棄になりながらも、魔法術式を紐解き研究と情報収集を行っていたところ、クライフェルゼ王国に生活用魔導具を扱っている商会があると耳に入る。

 最初はスザンヌという女魔導具技師がその天才かと思ったが、理論構築はもちろん、魔法術式を展開するそぶりもなく、説明もいい加減だった。すぐにこの女が天才魔導具技師ではないことに気づき、本物が囚われていることを知る。


「奴隷紋を? だから自分では脱出できなかった……」


 恩を売れば、まだ見ぬ魔法術式の解読を知ることが出来る。浅はかにもそんな思いで、ロゼッタを救おうと動いた。アウジリオ兄様が助かる可能性があるのなら、使える者はなんでも使ってやる。

 そう思ってクライフェルゼ王国に向かった。


 でも私の助けなど運が良ければ程度で、ロゼッタは自分一人で助かる算段を用意していた。もっとも効果的だったから、今後のことを考えて私を上手く巻き込んだのだ。

 強かで、けれどその一手、一手が良く練られていて利用されたのに不思議と悪い気分にならなかった。たぶん彼女は自分だけが勝ちではなく、手を貸した人も同じくらい満足のいく結果を齎すように計算していたからだろう。

 自分の都合のことだけ考えていた私とは全く違った。


 技術は秘匿するものだと思っていた。それなのにロゼッタは宝物を見せるかのように、魔導具のことを楽しそうに語る。あんな酷い目に遭っていても、魔導具を作るのが好きだという純粋な想いがヒシヒシと伝わってきた。


「彼女は……魔導具が心から好きなのだな」


 私も祖母と研究を始めた時はそうだった。発見することが楽しくて、遙か昔の魔導具についてたくさん祖母と話をした。色褪せて変わってしまったのは、いつからだっただろうか。


 魔導懐中時計の針が動く。

 加護の力も強く、治癒とは違うが持っていると体の疲れがとれる。魔法術式が6174もあるとは思わなかった。けれどその一つ一つを紐解いていけば、黒蔓(ニゲティス・)痣死呪(リヴォモルス)の原因が分かるかもしれない。ロゼッタには傍に居てもらって魔導懐中時計の研究を手伝って貰えないだろうか。そう欲が出てしまう。もしかしたらロゼッタなら答えを導き出せるかもしれない。

 だが──。


「……っ、ロゼッタに望んでばかりで、私は彼女に何ができる?」


 自分の都合に巻き込むつもりで、その対価として結婚に思い至った。彼女を囲うためにちょうど良いだろうし、女性なら王子との結婚は贅沢ができると喜ぶ。それに今まで魔導具の話でこんなに盛り上がったのは初めてだった。一緒に居ると楽しいし、驚くことばかりだ。そんな彼女がリュカやアベルと親しげに話をしていると、なんだか、苛ついてしまう。


 今まで出会ってきた女性は貴族令嬢、商人の娘、平民──と身分関係なく、少し優しく接しただけで浮かれて恋人になりたいとか、言い出してきたからだ。

 だがまずは平民から貴族への養子、次に婚約。それから数年の間にロゼッタの実績を目の見える形で公表すれば、結婚することは可能となる。


 ロゼッタも結婚をちらつかせたら、きっと他の女性たちと同じような反応を見せるだろう。今回は彼女の才能を保護するためにも、私の目的のためにも、合理的かつ理想的な提案になる。でもロゼッタが他の女性と同じような反応する姿を想像して──なんだか胸がざわついた。

 悲しいような、残念なような……落ち着かない気分。


 私はロゼッタを甘く見ていた。いや違うな。侮っていたのだ。他の女性と同じ反応をすると勝手に決めつけてしまった。


「最も簡単に王家の庇護下に入る方法」

「ジルベール様、私はシュプゼーレ聖魔法国の法に明るくありません。その方法について教えていただけませんか?」


 しかしロゼッタはとぼけている訳でもなく、本気で分かっていなかった。


「そうか。君は貴族じゃないから……だからその発想が無いのか」

「?」

「答えは簡単だ。……王族と結婚すればいい」

「絶対に嫌ですね」

「え」


 ロゼッタは王族との結婚に関して全くもって興味を示さなかった。それどころかデメリットが多すぎると言い出したのだ。確かに平民の彼女であれば身分差がある。しかし彼女の圧倒的な才能であれば、どうとでも出来てしまう。実績だって文句なく積み上げていく。

 あれ? もっとこう喜ぶと思っていたのに心底嫌そう? 他の女性と反応が違って嬉しい反面、なんか胸がギュッと苦しくなる。 


 好かれるのが当たり前だと思っていた自分が恥ずかしい!

楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

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