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第17話 答えはすぐそばに

「ロゼッタ、先ほどの話は本当か!?」

「はい、ジルベール様。魔導懐中時計はお持ちでしょうか?」


 私の言葉にジルベール様は一瞬驚いたが、すぐに胸ポケットから魔導懐中時計を差し出した。


「やっぱり、あの魔法術式の中に何かヒントがあった……ということか?」


 さすがジルベール様、察しが良い。そしてやっぱりジルベール様も魔導懐中時計に解決策がないか調べていた。もっと早く気付いていたら……。ううん、後悔するのは後でもできる。


「ヒントではなく答えがあったのです」


 私は魔導懐中時計を受け取り、魔法術式を展開する。部屋いっぱいに金色の光の文字が浮かび上がった。

 私の記憶が間違いではないことを確認するため、魔法術式3592を紐解く。……あった。覚えていた内容に間違いはない。


「ジルベール様。第三王子と第四王子の髪は金髪ではなく、瞳もどちらか片方は空色ではないのでは?」

「え、あ……ああ。もしかして病になる者に特徴があったのか?」


 青ざめるジルベール様に私は被りを振った。


「魔法術式には『呪ではなく、魔力過多症による症状。魔力濃度が高く、体がそれに耐えきれず魔力の塊が血、血管と結びつくことで黒い痣のようなものが発症している』とありました。その対処法が幾つかありましたが、これは発症してどのレベルかによって対処方法が異なります」

「呪いではない……?」

「はい。説明はこちらの紙に書いておいたので、後でご家族の方と一緒に見てください。今から全速力で魔導具を仕上げますので!」


 ジルベール様の魔導懐中時計の魔法術式をしまい、持ち主に返した。そしてテーブルに向かって作業を開始する。


 アダマンタイトの鉱物に魔力を流して、形を細いワイヤーのように均一に伸ばす。五メートルぐらいになったら一度鉱物から切り離して、今度はワイヤーを腕輪サイズの形に整えるため編み込み。

 毛糸やミサンガの糸のようにワイヤーが柔らかくなっているが、これは魔力を大量に込めた時に一時的に柔らかくなるだけであって、本来ならびくともしない硬度だったりする。


 急ぎつつも丁寧に。

 イメージするのは循環する連なる渦巻き。これを基調とし、分解と再構築、術式の固定として宝石をはめるよう幾つか窪みのようなものを残す。シンプルすぎるが今回は装飾にこだわっている時間はない。

 私が出来る全てをかけて、作り上げる。



 ***



「ふう……」


 次に大きく息を吐いた時には全身汗がびしょびしょで、大量の魔力を使ったので疲労感が一気にきた。でも今は達成感のほうが強い。

 できたーーーー。一度操作をしてみたけど、問題ないわ。


「………っ!?」


 時計の針を見ると、お昼を過ぎてしまっていた。や、やってしまったーーーーー!! いつもの癖で集中しすぎた!


「ジルベール様、時間がかかってしまって申し訳ないです。これを──」

「ロゼッタ!」


 気づいたらジルベール様が私を抱きしめていた。泣いているのか、声も震えている。もしかして……。

 ゾワッと鳥肌がたった。

 最悪の事態が脳裏に過り、胃がきゅっとなった。どうしよう、もっと時計を見て急げば──っ。


「ジルベール様、……私、時間を過ぎてしまったから、間に合わなかったのですか?」

「違う! ロゼッタが夢中で作業しているのを──止められずにすまない」


 ん?

 周りを見ると皆、私が集中してからずっとその場で立って見守ってくれていたらしい。


 あ、そっか。いつもできるまで休んでなかった癖が身についていたんだ。でも途中で手を止めると、魔法術式が形を保てずに崩れてしまう。そうやって何度も失敗したから、出来上がるまで作り上げる技術は身についたのだ。

 でも確かに傍で見ていたら、心配になるのはわかる。夏なら確実に脱水症状か熱中症になっていそうだもの。

 ジルベール様が泣きそう。心配をかけてしまったわ。


 でも……自分のことを心配してくれて、心配しつつも私のしたいことを尊重してくれた。それにだ、抱きしめるなんて……ラベンダーの良い香りがする。もうちょっとギュッってしていても? ご褒美? あたたかい。落ち着く──って、違う!


「そ、その急ぐと思って……ええっと、これを持って早く戻ってあげて下さい。それと途中で魔導懐中時計の287の魔法術式に、一度行った場所なら転移術式が展開することができます。これで早く辿り着くと思うのです」

「──っ、しかし」

「殿下、時間があまりないのは変わりません。馬車でひとまず出立をしたのち、転移魔導具で移動すべきでしょう。魔法術式の発動が不安ならば、転移魔法を使っても構わないかと」


 転移魔法!? 魔法でそんなことが出来ちゃうの。すごい。


「……分かった。ロゼッタ、すぐに戻ってくる。それまではデサンティス侯爵令嬢や護衛の傍から離れるな。クライフェルゼ王国の王族が何か言ってきたなら、私の名前を出してはね除けろ。責任は私が持つ」

「ジルベール様。……はい」


 ご自身の家族のことで今すぐにでも飛び出したいのに、私のことを慮って守ろうとしてくれる。不覚にも格好いいと思ってしまった。なんだか悔しいわ。


「ロゼッタ」


 ひゃああ! またギュッと抱きしめるなんて……。うう、この温もりが癖になってしまう。どうしよう。こんなに抱きしめられるのが好きだったなんて……。もうちょっとこのまま……。


「殿下」

「──っ、ロゼッタ。私の分身でもある幻獣猫を置いていく。何かあったら、独りで抱え込むな」


「なう」と愛くるしい二叉の猫が姿を見せる。とっても可愛らしい白い猫で、ゴロゴロと喉を鳴らす。か、可愛すぎる。

 幻獣猫がなんなのかよく分からないけれど、癒される。


「殿下。ヘタレなのに、そういうことは出来てしまうんですね」

「アベル、黙れ」

「?」

「……ロゼッタ、いってくる」


 ここでラルエット様が指摘してくれたおかげで、ジルベール様も決心が付いたようだ。私の額にキスをしたのち、部屋を出て行く。


「ひゃ!?」


 キスをされたことに数秒ほど固まっていたが、なんとか「いってらっしゃい」という言葉を投げかけることは出来た。「なう、なう」と愛くるしい猫も私の頬にキスをして可愛らしい。

 これで少しは恩が返せれば良いのだけれど。その後、水分補給と軽食をとった後は、護衛騎士の一人リュカとミレイア姉様にお説教されたけれど、それはまた別の話。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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