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第15話 好きなことができるように

 クライフェルゼ王国とシュプゼーレ聖魔法国の王族と教会の神官の立ち会いのもと、私の奴隷紋の解除が行われた。

 場所は王城のパーティー会場として使われる大広間だ。

 奴隷紋の機能は殆ど失われているが、解除を受けることで実際に被害者だったと事実を印象付けるためにも必要なことだった。神官の祈りによって胸元にあった紋様が綺麗さっぱり消え去った。


 縛り付けられた人生との決別。あれから一度も元家族には会っていない。恐らく謝罪する気持ちは無いのだろう。表面上の謝罪ならいらないもの。

 無事に奴隷紋の解除が終わり、神官にお礼を言おうとしたところで神官に手を掴まれた。


「!?」

「ロゼッタ様、今日お会いできて光栄です」


 そう言うなり両膝を突いて私に深々と礼を述べる。それに周囲にいたクライフェルゼ王国の国王王妃が驚き、宰相は目を細めた。ジルベール様とお父様はあからさまに不機嫌だ。


 神官様はベールのようなもので顔を隠しているが、耳心地の良い声で背丈は私よりも高い。ジルベール様と同じくらい。長い白銀の髪で雰囲気的にも上位神官だと思う。


「貴女様が作られた魔導ランプは画期的でした。神域に存在する魔導書庫では蝋燭では火事の危険性があり、光魔法使いの力を借りていたのですが、魔導ランプの導入で地下5階まで調査が進んだのです。この功績は素晴らしく、リーニャ商会とより取引をする話が出ていたのです」


 そうなの!? 全然知らなかったけれど!?

 知らない間に魔導ランプが教会で役に立っていたなんて……。そして魔導書庫ってなに!? すごく興味深いわ。

 レフコス教会。世界各国に存在する宗教団体で、複数の神々を信仰している。神々の経典を世界に広め、伝承や伝説、失われた技術や魔法の総本山とも言える場所だ。教会の教義は世界の均衡と、特出した技術、文化と伝統の保護。

 そして人外の橋渡し。それゆえ政治後とには一切関与してこないものの、その影響力は大国でも無視でいないとか。


「私は上位神官のヴィリバルト・クルーグハルトと申します。本当は養父が訪問する予定だったのですが、都合が付かず……」

「養父?」

「次期教皇候補のベンドリック枢機卿です。貴女のことを気にかけていまして……、今後お時間を作りたいのですが可能でしょうか?」


 ぐいぐい来る。でも約束できるか分からないことには気軽に返事すべきじゃないわ。


「申し訳ありません。今は環境がめまぐるしく変わっている段階なので、暫く生活環境が整うまではお約束は出来ません」


 この国にいるかも分からないし。

 でもそれを今ここで言うと問題になるだろうから、控えめに断っておいた。ヴィリバルト様は断られるとは思っていなかったのか、少し驚いたようだった。


「ロゼッタ様は非常に魔力量が多いようですね。……()()()()()()()()()()()()()()()?」


 立ち上がったヴィリバルト様は、意味深な言葉を呟いた。それではまるで私があの両親の子どもではないと言っているかのよう。


「貴女様の魔力は私の養父とよく似ている。もしかしたら養父がずっと探していた娘かもしれない」


 ああ、本当に。頭角を現すとこんなことを言ってくる人が増えるのだろうか。ここ数日、似たような手口で私に接触を図ってくる人たちの多いこと。

 特に王城の侍女たちはどこかの貴族に買収されたのか、接触を図りたいと手紙やお茶会の招待状を送ってきている。


 見つける度にミレイア姉様に頼んで対応をお願いしているのに、一向に減らない。クライフェルゼ王国の王家も私と接触を希望しているらしいが、ジルベール様が矢面に立って守ってくれている。食事やお茶の時間は私の傍に居て魔導具の話をするので、付いて来れなければそのまま放置していると、そのまま去って行く。

 シュプゼーレ聖魔法国がクライフェルゼ王国よりも立場が上だからこそ、この対応が出来ているのだろう。


「早く本当の娘が見つかると良いですね」

「ロゼッタ様。……教会の門戸はいつでも開いております。なにか困ったことがあれば私の名前を出してください」


 ヴィリバルト様は一礼して去って行った。その後は私の気分が悪いとジルベール様が気を遣ってくださって、クライフェルゼ王国との食事会は不参加に。

 あとからミレイア姉様から聞いたところ、食事会には王侯貴族たちが勢揃いだったと言っていたので、本当に不参加で良かった。

 


 ***



「ロゼッタ様に来客が──」

「ああ、私と一緒にいるから断ってくれ」


 ジルベール様は侍女の扱いにも慣れているようで、サラッと追い返した。ここで食い下がれば王族の不興と買うと分かっているのか、アッサリとしている。でもこのやりとりもう見飽きたのだけれど……。


 学習能力がないのか、あるいはジルベール様がいなければ何とかなるとでも思っているのだろうか。既に貴族の養子になっているし、ジルベール様の婚約者になっているので、平民の立場よりは良いと思うのだけれど。


「接触してくる人たちが減りませんね」

「ロゼッタ自身との繋がりを期待しているのだと思う。シュプゼーレ聖魔法国の侯爵家の次女で、第五王子の婚約者。それなら仲良くしておこうと思って近づく連中は大勢いる」


 ジルベール様はうんざりとした顔で言うので、王族として生きてきた彼にとって、こういったことは日常茶飯事なのだろう。やっぱり王族は面倒なこと多そうだ。これからの生活に不安もあるけれど、でもジルベール様がいなければ私はどうなっていたのか分からなかった。平民の私の立場を利用して、理不尽なことをクライフェルゼ王国の王族が言い出す可能性だってゼロじゃない。

 そう考えると私の意見をしっかりと聞いて、尊重してくれるジルベール様は良い人だわ。


「ジルベール様、今日は以前お話しした亜空間魔導具についてお話をしましょう」

「ああ。ずっと気になっていたのだ。1115の魔法術式の機能だったな」

「はい。あ、一応この亜空間の作り方は私が考えたものなので、一般的かはちょっと分からないです。まず亜空間をイメージすることから始めました」

「亜空間を」

「はい。空間座標には原点0となる中心を起点に、通り互いに直交する3本の座標軸として縦、横、高さの空間をイメージします。私の場合はどのような球面かの方程式を使って大きさなどを決めます」

「方程式」

「できるだけハッキリとしたイメージがあれば良いのですが、私の場合はキッチリとした形にすることで亜空間の維持と固定をしました」


 ここでサラサラッと図と数式を書き足す。


「XYZ空間において点A(a,b,c)を中心として、半径rの球面をSとする。S上の点P(x,y,z)についてAP=rよりAP²=r²となるので、球面Sの方程式は(x-a)²+(y-b)²+(z-c)²=r²で中心と半径をいくつかにするかで球面を具体的に算出します。そこからは魔力でそのような空間を作り出し、固定。固定する場合も魔法術式にその方程式などを使って、崩れないようにします。私の場合は核として魔法鉱石に自分の魔力を馴染ませました」

「座標。そうか、一亜空間を生み出す場合はそのような……」

「はい。ジルベール様の場合、こちらの懐中時計の魔法術式に代々使い手の方が残した空間がありますので、それを開いてみますか?」

「開けるのか!?」

「はい。懐中時計の主人なら私が正攻法で魔法術式ロックの解除をしなくても行けると思うのです」


 そう期待した目でジルベール様に伝えたところ、一瞬で顔色が悪くなった。な、なにか地雷を踏んでしまったかしら?


「あの……ロックを、いや、そうだよな。じゃなきゃ中身なんて見れない……となると、ロゼッタの魔力量は……」

「はい。六桁以上です」

「ろ……ロゼッタ、もう気付いていると思うが、シュプゼーレ聖魔法国でもそれほどの魔力量が多いのは王族ぐらいだ」

「え、……え?」

「こうなってくると本当にロゼッタがあのクソ両親の子どもだったのか、疑念が出てくるな。教会側の意向も分からない以上、より調査をしておこう」


 上位神官のヴィリバルト様が意味深なことを言っていたので、その後でジルベール様に相談したのだ。あの時は常套句だと言っていたが、ここに来て私の魔力量が異常なことで本当の両親は別にいるのではないか? という噂が浮上しているらしい。

 本当に止めていただきたい。


「ええっと……私の魔力量は確かに子どもの頃から少し高かったですが、このレベルになったのは、何度も魔力枯渇になりかけたので回復する度に少しずつ増えていった──つまり過酷な状況によることで得たものです。だから実の両親とか言われても信憑性はないと思います」

「魔力枯渇……っ、ロゼッタ。……やっぱりあのクソ両親は地獄を見て貰わなければ」


 ジルベール様の目が笑っていなかった。最近思うのだけれどジルベール様は過保護だと思う。私の機微に敏感に反応するし、いつも気遣ってくれて優しい。


 そんなことを話しながら、魔導懐中時計の魔法術式を展開する。いつ見ても芸術的で美しい黄金の光が部屋を照らした。

 思えばこの時にジルベール様は何かを探していた。魔法術式の中に何か手がかりがあるのでは──と。なんとなく気になっていたけれど、王族の秘密や事情があるのかもしれないと、私から尋ねたかった。


 もしこの時に尋ねていたら、ジルベール様の心の負担を少しは減らすことが出来ていたのではないか。そう思わずにはいられなかった。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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