第14話 魔導具で大興奮! そして契約婚約が決まりました
伝説なんだ。マジか。マジですか……。
この中にある魔導具の前に、空間収納魔導具で驚くとは思わなかった。だってあの魔導懐中時計の魔導具のほうが。すごい技術が詰まっていたもの。
それに……。
「ジルベール様の魔導懐中時計にも、似たような機能が付いているではないですか」
「え?」
「え? ええっと……6174のうち1115の魔法術式の機能として載っていますよ?」
「本当か!?」
ぱああ、と子供のような笑顔に私も嬉しくなって頷く。ジルベール様、ご尊顔が眩しすぎる。でも魔導具の話が出来るのは嬉しい。
「はい! よければ今度術式の解説をしつつ、使い方を教えましょうか!?」
「それは是非!」
「じゃあ約束です。……と、お見せしたかったのは、中に収納しておいた物なのですが」
何がいいかなーと思っていると、ミレイア様と目が合った。スゴイ見ている!? なにか粗相を?
「もしやロゼッタ嬢の衣服やブーツは自分で作られたのですか?」
「あ、はい。家に着る服とかがなかったので、作ってみました。……もしかしてすごく変ですか?」
ミレイア様は慌てて「違います」と食い気味で言ってきた。ずずい、と顔を近づけてくる。お、怒っている?? 身構えたが、殴られることはなかった。
あれ?
「その……魔力が篭っているので、特注で作ったのかと思ったのです。刺繍の柄も素晴らしい」
「付与刺繍加護で防御力を上げるように作ったのです。ブーツも履き心地もそうですが重力操作ができて」
「付与刺繍加護!?」
「ブーツに重力操作!?」
すごい食いつきだったので、付与刺繍加護の洋服とブーツを出してみた。あれ? もっとインパクトが強いものとか外衣かと思ったのだけれど……。
「洋服にはアラベスク模様の刺繍にして、魔法鉱石と同じようにこの刺繍の糸は魔力が籠もっています。私が編み出した魔法糸でしてトラック……うーん、馬車に轢かれても傷一つ負わない防御力を持っています」
「馬車!?」
「耐久度えぐ!?」
「ブーツは男性用と女性用の二種類あり、靴のサイズ縮小が可能です。イグサという特別な素材を使い、通気性も考慮しているので湿気対策も抜群。あ、水虫予防にもなります」
「「「「!?」」」」
ジルベール様以外全員の目の色が一瞬で変わった。え、何!? 何!?
「嬢! それ俺に売ってくれ!」
「私もいくつか見繕って欲しいのだが!?」
護衛者のお二人はジルベール様そっちのけで、私に詰め寄る。ラルエット様に至っては眼鏡が光っていて怖い。ガチだ。この世界だと水虫問題は多いのかな?
湿気が多いとか、ブーツが群れやすいし長時間だからとか? 思った以上に需要がありそうかも? と言うか私はお嬢様ではないのですが、いつの間にか嬢呼びがデフォルトになっている……。
「ロゼッタさん、履いてみても?」
「はい、どうぞ」
「では私も」
「卿ずるい!」
「総括職権濫用では?」
「ハハハ、なんのことやら!」
デサンティス卿とミレイア様は素早くブーツを装着。履き心地もこだわったので、気に入って貰えると嬉しいな。
「素晴らしい履き心地。そして足が軽い。雪山や沼地、火山区域でも活動が楽になりそうです。……お父様騎士団のブーツ一式替えるのは、どうでしょうか!?」
「え。一式?」
「ふむ」
デサンティス卿は渋い顔をしつつ、熟考している。やっぱりそう上手くはいかないよね。
「ブーツ一足の値段交渉からだが……ブーツの硬度、軽さ、重力操作が可能なら長時間勤務への疲労軽減、何より水虫の防止は騎士団にとって重宝されること間違いない。特に夏場の魔物討伐は最悪だからな!」
「教会に通う者や遠征を敬遠する者も減りますね!」
大盛り上がりになった。みんな目がキラキラしていて、喜んでくれて嬉しい。製作者にとって、生の声は次の製作意欲の原料となる。
デサンティス卿やミレイア様も気さくな方だった。裏表もなく、清々しい。貴族の方としては珍しいような?
「防水はついているだろうか!?」
「はい。付いています。梅雨は多い場合はメンテナンスが必要になります。防水コーティングを予めすると、月に一度ほどでしょうか」
「防臭なども、どうにかできたりは?」
「靴の匂いも24時間に一度、清浄魔法が掛かるようにしています」
「なんと!」
「防臭に防水まで……!」
「これはいくらでも販売する予定なのだ!?」
「ええ!? ええっと……」
どうしよう。いくらぐらいが妥当なのか全然分からない。こういう時はいったん持ち帰って社内で検討を──って、そんなのこの世界じゃ通用しないわ。
「デサンティス殿、その話は後日でもよいだろう」
「おっと、失礼しました」
ジルベール様!
皆のテンションが爆上がりの中、冷静な対応をありがとうございます!
魔導具のお披露目で時間がだいぶ押してしまったものの、最初に養子縁組の書類にサインをして、次にジルベール様との契約婚約を結ぶ。
「その……この契約の部分に『万が一、婚約解消になった場合は慰謝料と、それまでの功績を讃えて爵位を貰う許可』と『契約婚約の更新は二年……いえ、一年ごと』という文言を追加してほしいです」
「うん。わかった」
即答! やっぱり理解があるって嬉しい。傍で「何考えているんですか!?」と護衛者とゴニョニョしていたが、最終的に通った。保険もしっかり掛けておいたので、これでちょっとだけど安心する。やっぱり保険は大事。
その後は素早く通達魔法で教会に転送された。あれって上位魔法の一つだったんじゃ? 忘れていたけれど、シュプゼーレ聖魔法国は上位魔法の空間転移ができるんだっけ?
クライフェルゼ王国とは違う意味で、魔導具があまり発展しなかった理由。魔法である程度のことができてしまうからだ。
でも魔導具は魔法属性の適性関係なく、一定の効果を発揮する。安定性と日常生活をより良くするサポートができるのだ。その利便性にシュプゼーレ聖魔法国はいち早く気づいたからこそ、リーニャ商会と縁を結ぶことを良しとしたのだろう。
リーニャ商会が有名になったのは私の力もあったからってことよね? これまでの頑張りは無駄じゃなかったってことかな?
「今日からロゼッタの父親だ。最初は距離感に戸惑うかもしれないが、遠慮せずに何でも言ってくれ」
「卿、……ではなかった、お父様。ありがとうございます」
「わ、私はミレイア姉様と呼んでも良いのよ」
「……!」
ミレイア様はそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。実の姉……家族の記憶はトラウマしかない。唯一の温もりは幼い頃亡くなった乳母ぐらいだもの。
そう思うと私のことを思ってくれる存在に、胸が熱くなった。急に泣いのでお父様やミレイア姉様は驚いたけれど、すぐにギュッと抱きしめてくれた。
「家族になってくださって、ありがとう。お父様……ミレイア姉様」
人に抱きしめられるのって、こんなに温かかったのね。そう実感するとまた涙がこぼれ落ちた。
***
夕食はお父様とミレイア姉様、ジルベール様の四人でとった。皆で食べるご飯はどんなフルコースよりも美味しくて、やっぱりまだちょっと泣きそうになる。
温かくて心のこもったご飯。
一緒にご飯を食べてくれる新しい家族。
そして──ちょっと不機嫌そうなジルベール様。なぜだか食事中に目が何度も合う。何か話したいことがあるとか?
「ロゼッタ嬢、食事が終わったら……魔導懐中時計について話がしたい」
「喜んで!」
二つ返事で答えたのだが、なぜかお父様とミレイア姉様、護衛者の二人がコントのようにガクンと肩を落としていた。あ、もしかしてここは婚約者的に、もっとロマンチックな感じの返答が良かっただろうか。難しいな。
そんなことを考えながら、婚約者としての仲良しアピールの程度も契約に含まれているのかなど聞こうと心の中で思った。
魔導懐中時計。
何度見てもため息が出てしまう。私の知る中で最高レベルの芸術品であり、魔導具。そして夢と希望を沢山詰め込んだ宝箱そのものだ。
「いつ見ても素晴らしい出来映えです……!」
「懐中時計に夢中になっているロゼッタも良い」
「ジルベール様、何か言いました?」
「あー、うん」
今私たちは客室に二人きりだ。もちろん、部屋の外には護衛者の二人がいるし、部屋のドアも開けている。
「婚約者になってくれてありがとう」
ジルベール様の突拍子もない言葉に、返答に窮した。これは契約上の婚約者になって、という意味だろうか。
「違うよ。……私は心の底から、ロゼッタ嬢と恋人になって本当の婚約者になりたい。将来的には結婚だって……考えている」
「ひゅっ」
真っ直ぐに紡がれた言葉に呼吸が上手くできない。どうしよう。なにか答えなければと思うのに、喉がカラカラで声が出ない。
困惑と焦燥でいっぱいだった私に、ジルベール様は私の手を取った。温かい。
「でもそれは私の気持ちで、思いだ。……今のロゼッタは、魔導具作りと新しい環境や人付き合いで精一杯だってことも分かる。今まで育ってきた環境や人間関係を見ても、今すぐどうこうしたいとも思っていない」
だから安心してほしい、と。ジルベール様は言葉を尽くして、私がいっぱいいっぱいだというのを分かってくれた。どうしてバレてしまうのだろう?
上手く立ち回っていたと思うのだけれど?
前向きで弱みを見せずに明るく無害アピールをしてきたのに、簡単に看破されてしまうなんて。
「好きな子のことぐらい見ていたら分かる」
「す……」
「そう。好き。ちょっと自分でもどうかと思うほど、ロゼッタ嬢のことになると、上手く立ち回れないぐらい、空回りしてポンコツになっているかな。それぐらい夢中で、想っている」
そう言って笑うジルベール様は王子様スマイルではなく、年相応と男の人といった感じの笑顔だった。魔導具のことで目を輝かせていた顔とも違う。
それだけで心が揺らいで、でも胸が潰れそうだ。
「私はロゼッタ嬢が好きだ。それだけは伝えたかったし、年を重ねるごとに私が本気だとロゼッタ嬢が分かるまで、口説くと宣言しておく」
「くど……!?」
優しくしないでほしい。
裏切られたときに、傷つくから。
温もりを教えないでほしい。
居なくなったときに、次は立ち上がれないだろうから。
「……ごめんなさい。私は」
期待に応えられない。そう言葉にしようと思ったのに、声にならなかった。
否定したいのに、心のどこかで否定したくない気持ちがある。
助けて。
見捨てないで。
傍に居て。
愛してほしい。
そんな気持ちが溢れて、でも言葉に出来ない。一度寄りかかってしまったら、独りで立っていられなくなってしまいそうだから。どんなに明るく振る舞おうと、前世の記憶を思い出しても、ロゼッタとして生きてきた時間は地獄そのものだった。
地獄が終わっても、まだ私の中には暗い過去に縛られたまま。
「今は……魔導具を作る以外、深く考えたくないの。それが許される立場でも、状況でもないってわかっているけれど……」
「うん。今はそれでもいい。君が急にどこかに消えないで傍にいてくれる道を選んでくれたなら」
「──っ」
ジルベール様は全てを承知の上で、あの契約書の内容の一部追記を受け入れてくれたのだろう。
「一応、言っておく。将来ロゼッタが爵位を持つことは可能だ。現段階でそれだけの功績を持っているし、シュプゼーレ聖魔法国の発展に尽力してくると確信もしている。だからロゼッタが安心するのなら、私が婿入りしても良いとも考えているんだ」
「婿……!?」
契約書で婚約解消に伴い、功績に見合った爵位を。その一文から私がいずれ独立する可能性もあると推察したのね。すごいわ。
この人はまだ会ったばかりなのに、私のことを分かろうと努力してくれる。権力を笠にせず、対等に扱ってくれるのだ。
とても優しくて、温かい言葉を掛けてくれる。
でも、私には返せるものはない。
「私の刻はロゼッタが動かしてくれた。だから今度は私が返したい。私の我が儘だ」
カチカチと、時計の針の音が耳に届く。
魔導懐中時計が刻を刻む。いつか私も止まってしまった時間を、歪んで、壊れて、諦めてしまった思いを動かす時がくるかしら?
触れている手がとても温かくて、離れることが出来なかった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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