第12話 お互いのための契約婚約ならありよりのあり?
ジルベール様は、これ以上ないぐらい良い物件よね?
改めて考えをまとめることにした。
現在自分の才能を鑑みるに、田舎でスローライフという夢は叶わない。できたとしても追っ手が掛かる可能性がものすごく高く、後ろ盾がない以上、生活の安全面が不安。
貴族の義務(マナーや礼儀作法)は発生するものの、信用問題、衣食住と身の安全、仕事環境など総合的にジルベール様との契約婚約が、私の希望に一番近い。……でも一つだけ気になることがある。
「契約婚約の提案は、とても合理的です。私にとってメリットしかありません。ですが……ジルベール様にあまりメリットが無いように感じます」
「そんなことはない! むしろメリットしかないから安心して!!」
唐突に声を荒らげるのでビックリしてしまった。王子様でも感情的になることはあるのね。
「君という存在が居てくれるだけで、私の世界が華やいだ。こんなに一緒に話していて楽しいことはない」
「私も魔導具の話で盛り上がったのは、生まれて初めてです」
「……そうか! 魔導具について私も、もっと研鑽を積みたいと思っていたし、国のためにも魔導具は国家事業にしようと思っている」
うう……笑顔が眩しすぎる。すごい威力だわ。でもワクワクする気持ちは分かる。魔導具が普及すれば、私が市井で暮らすことになっても生活もより良くなるはず。
「それと私たちが一緒にいるために婚約というのは、最も合理的かつ素晴らしい提案だと思うのだ。ロゼッタ嬢。どうか私と一緒に、魔導具の開発に協力して欲しい」
「魔導具開発……!」
「婚約じゃないのか……」
「う……」
護衛者の一人はゴニョゴニョと何か言っていたけれど、なんだろう?
「ロゼッタ嬢、傍にいる肩書として『婚約者』は大事だと思うのだ。むしろ婚約者でないのに一緒にいるほうが、風当たりが強くなる」
「え……あ、『婚約者でもない癖に王子の傍に』と思わせず、他のご令嬢とのトラブルを回避するため(つまり今は魔導具作りに集中したいから、私を壁要員にしたい)と言うことですね」
「そう。魔導具の作りを一緒に研究するのなら、一緒にいてもいい関係のほうが周りからの印象も変わってくる」
契約婚約ではなく『婚約』と強調していうのに引っかかったけれど、どこで誰が聞いているか分からないから、きっと空気を読んでくれたのだろう。
それに結婚ではなく、婚約なら解消も可能だわ。まず一代限りの爵位を得るぐらいに功績を上げる。そうすれば、一人で自立して生きていけるわ。
今後、ジルベール様の立場が変わったり、好きな方ができたら婚約解消になることを考慮すべきだものね。最初から期間限定と思っていれば、割り切れるもの。契約時に私が不利にならないよう契約書に記載してもらおう。
「ジルベール様なら、きっと素晴らしい(魔導具の作りの)環境を用意してくださると思いますし、それに気心が知れた方との縁談なら安心もできます」
「じゃあ……!」
「はい。契約をする際に万が一婚約破棄になった場合に関してのみ、いくつか条件を付け足してもいいのなら、(契約上の)婚約者になりますわ!」
「ロゼッタ嬢!」
ぱあ、と大輪が花咲くような笑顔に目が眩みそうになる。こんなにも《《魔導具技師としての私を必要としてくれるなんて》》……このご恩は、しっかりとお返ししなければ!
「んんー、殿下。口を挟んでもよろしいでしょうか?」
「ああ」
護衛の一人が一歩前に出た。オレンジの短髪で、眼鏡をかけた彼は佇まいからして騎士という雰囲気がぴったりな方だった。
「改めまして、ジルベール殿下の側近であり護衛騎士の一人、アベル・ラルエットと申します。ロゼッタ嬢は類い希なる才能をお持ちのようですが、あまりにも周りを信じすぎるきらいがあります。お人好しかつ騙されやすいと思いますので、もっと周りを疑うべきかと助言いたします。特に殿下は下心しかありませんので、ご注意を」
「おい」
「こういった顔の良い者ほど平気で嘘をつきます」
「おい!?」
ジルベール様の言葉に対して、ラルエット様は飄々とした態度のまま言葉を続ける。
「何かを決断するのであれば、よく見極めて選ぶことを推奨します」
「アベル……この後話し合おうか」
「殿下、彼女は純粋すぎるところがあります。お連れするのであればそれなりの覚悟と、事前に色々情報共有をすべきです。私は殿下を疑っていませんが、そう言って近づく連中にとってロゼッタ嬢には免疫がないでしょう」
「それは」
つまりは私が熟考せずに、王子だからと言う理由で交渉に応じたと思っているのだろう。これは誤解を正しておく必要がある。
「ラルエット様、ご配慮ありがとうございます。ですが訂正をさせてください。まずジルベール様についてですが、私がこの方を信用しているのは、私を助けてくださったこともありますがそれ以上に、あの魔導懐中時計の持ち主だからという点です」
「魔導懐中時計?」
「魔導懐中時計の持ち主は、魔法術式によって制限されております。そして制作者の願いのこもった言葉を読んだ時、この持ち主はとても愛されていると感じました。だから人物や人柄的には悪くないと印象を持ちました。次に隣国でありながらも、私に会いに来てくださったこと。これは私の才能を知って囲うためだったとしても、交渉もまともでしたし、権力を行使するなどではありませんでした。そしてジルベール様も魔法術式が読める魔導具技師相当の知識や実績があるのなら、素敵な仕事場を提供してくださると──このあたりは勘です。そもそも平民で奴隷紋のあった人間を、『大事な知人』と言って客間を与えるという配慮も素晴らしいと思うのです。普通は治療室、せいぜい個室の治療室の対応でしょうし……だから総合的に見て、信用してもいいかなと思ったのです」
思いついたことを纏めて話してみた。一応色々考えていますよ、とアピールしたのだが、ジルベール様は「もっと言ってやって」と大興奮し、もう一人の護衛者の人は「やっぱ、面白いな、アンタ」と笑われた。
ラルエット様は眼鏡の縁に触れ、少しだけ口角を緩ませた。
「そこまで考えておられたのなら、差し出がましいことを」
「いえ。もっともな忠告だったと思います。私のためにご指摘、ありがとうございます!」
普通は平民の私にそんなこと説明しなくても良いのに、ラルエット様も良い人だ。こういう人が仕えているのならジルベール様の人徳のなせる技だと思う。類は友を呼ぶって言うし。
「……もしやアベルが好み」
「殿下、どうして恋愛になると冴え渡る分析眼が曇ってポンコツかつヘタレになるのですか……」
「うるさい」
コソコソと話しているので聞こえないが、雰囲気的に雑談的な感じなのだろう。
はーーー。このリゾットめちゃくちゃ美味しい。鶏モモも固くないし柔らかいし、ハーブ香りがする。トマトリゾットの方も酸味が強すぎずまろやか。鶏の出汁が利いているし、タマネギとキノコを細かく切っている……パセリと、これはセサミかしら? 香辛料とかスパイスが豊富だと味もさらに美味しくなるのね。
なにやらジルベール様とラルエット様、そしてもう一人の護衛の方と賑やかにお喋りをしているのが聞こえたものの、料理の美味しさのあまり全く覚えていなかった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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