第10話 これは交渉であって求愛ではないと思う
数十秒たっぷり考えてみたけれど、答えは出なかった。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ともいうし素直に教えて貰おう。
「ジルベール様、私はシュプゼーレ聖魔法国の法に明るくありません。その方法について教えていただけませんか?」
「そうか。君は貴族じゃないから……だからその発想が無いのか」
「?」
「答えは簡単だ。……王族と結婚すればいい」
「絶対に嫌ですね」
「え」
ジルベール様が石化したように固まっている。そんなに衝撃だっただろうか。ずっと笑って居た護衛の人たちの声がピタリと止んだ。
「ろ、ロゼッタ嬢……理由を聞いても?」
護衛者の一人がおずおずと尋ねてきた。え? 私の考えがおかしいのかな? うーん。
「王族と結婚したい令嬢なんてごまんといます。そんな中、平民で後ろ盾もない女が、いくら才能があっても結婚なんて無理ですし、周囲が納得しません。やっかみに嫉妬、令嬢の嫌がらせもあるでしょうし、社交界やサロンにだって出るなんて卒倒しそうです」
「い、いやでも、その宝石とかドレスとか着飾ることができますよ?」
「そうです。それに美味しい物だって!」
なぜか護衛の方々が、話に割り込んできた。ジルベール様は、未だに放心状態だ。なぜに?
「ドレスも宝石も興味ありません。あ、でも魔法鉱石や魔導具や付与刺繍加護のあるドレスを見るのはちょっと興味があります」
「そんなドレスないですが!?」
「そうですか。……これからは魔導具技師として自立し、自分の稼ぎでがっぽがっぽ稼いで、三食しっかり食べて、甘い物を時々食べられれば満足です! そのための仕事の斡旋……ハッやっぱり厚かましかったのでしょうか? だから結婚などと冗談を?」
「くっ、手強い」
「普通の令嬢がときめく要素全否定したぞ、彼女」
固まっていたジルベール様が「ハッ」とした顔で覚醒した模様。そんなに衝撃的だった?
まあ結婚は冗談だったのだけど、私がマジレスしたからビックリしたってことよね?
「結婚したら……図書館。王城専用の図書館を好きに見られる」
「はう!? 王城の……図書……!」
その誘惑に大きく心が揺さぶられました。この世界で本は貴重。祖父母は本好きだったので、家には埃を被った本があった。幼い頃にそれで読み書きを覚えたのが懐かしい。
この世界の図書館はどんな感じなのだろうか。考えるだけでワクワクする。
「可愛……んん、それに研究室だっていい物を取りそろえられるし、仕事環境もより向上するんじゃないかな?」
「殿下も必死だ」
「煩い」
王城の図書館早くみてみたい。どんな本はあるのかしら?
あまりにも私向けの提案! この世界の図書館ってどんなところなのか凄く興味ある。それに研究室。なんて甘美な響きなのでしょう!
「……ハッ、ですがその分、王族としての責務があるのでは? 淑女としての教育が始まりますし、なにより私は側室制度が大嫌いなのでお断りです。というか結婚願望もないですが、交渉材料として政略結婚というのも嫌ですね」
「多少の礼節やマナーは学んでもらうが、そこまで圧迫させるつもりもないし、シュプゼーレ聖魔法国では側室制度は禁止している!」
「そうなのですね。それはとても素敵です!」
側室によって王妃vs側室とかで王家が二分化されたら、暮らしている国民に被害が出てしまう。出来るのなら治安は良い感じの国が良い。自国に残るというのもあるけれど、あれだけ大っぴらにした以上、注目は集まるだろうし、現在コネが無い私は良いように利用される可能性を考えると、ジルベール様の紹介のほうがまだ安心できる。
まあ、クライフェルゼ王国に留まりたくない理由は、他にもあるけれど。
「殿下、令嬢でもここまで考えている女性はいませんよ!?」
「その通りです。ご自身の立場もよく理解していますし、売り込みも完璧。逃してはいけません!」
「わかっている。ちょっとアプローチを変えて……」
「まずは婚約者からでは?」
「確かに……これだから王族は」
「お前たちは誰の味方なんだ」
護衛者たちとジルベール様は仲良しらしい。主従関係といっても信頼関係は大事だもの。コソコソ話しているので、内容は聞き取れないけれど……とりあえずこれで私の希望は伝えたし、ひとまず移住許可や仕事の斡旋を承諾してくれると有り難いのだけれど。なんだかジルベール様はジルベール様でお考えがある様子。
「……ロゼッタ嬢。女性の、しかも未婚の肌を見てしまった。その責任を──」
「気にしません。お見苦しいものを見せて申し訳ありません」
「~~~~~~~~~っ、違う。そうじゃない」
なぜかジルベール様は頭を抱えてしまった。お疲れなのでしょうか。
蜂蜜入りホットミルクとか美味しいですよ? と提案してみても怒られないかな?
「これだけの才があり、こんなにも愛くるしいのに逃がす訳がないだろう」
「なにか言いましたか?」
「いいや」
聞き返してみたが、爽やかな笑顔が返ってきた。うん、とりあえず都合の悪いことは笑顔で乗り切る気だ、この人。マジか。そんなの前世持ちの私には通用しませんよ。
「……ロゼッタ嬢の意向は理解した。しかし現在、君の立場は非常に不安定と言える。まずクズ両親とあの長女は、長年に渡って君を奴隷としてに扱ってきた。また奴隷紋の使用は、世界共通で御法度だ。罪は免れない。そしてリーニャ商会は君が魔導具技師だということを隠蔽していた可能性が高いとして、多額の賠償金を払うことが決定した。それと必要以上に技師から搾取することも違法だ。リーニャ商会は廃業に追い込まれるだろう。君の両親の所有地とホテルも差し押さえしている。末の妹の罪状だけは軽いものの、このまま行けば修道院送りとなる」
私が眠っている間に、色々調査と対応がなされていたらしい。その迅速さに驚きつつ、そんなに素早く動けるのなら、もっと早く行動していればと少し後悔する。こればっかりはタラレバなのだが、そう思ってしまってもしょうがないけど。
「そうですか。ようやく罪が明るみになって少しホッとしています」
「両親や姉妹に会うこともできるがどうする?」
そう言われて「ふむ」と考える。前世を思い出す前のロゼッタは家族に愛されたかったし、必要とされたかった。でも家族全員、ロゼッタのことを優先してくれたことも、大事にしてくれたこともない。そして立場が逆転した今、会えば私に温情を求めるだろう。
最後に別れの挨拶をすべきだろうか。
「そうですね。謝罪であれば応じますが、それ以外なら会わないでいいかなと」
自分が何をしでかしたのか自覚し、後悔して反省しているのなら、謝罪の気持ちだけは受け入れてもいい。許しはしないけれど。
「ロゼッタ嬢がそれなら良いけれど……。もし気が変わったら言って欲しい」
「はい。ご配慮ありがとうございます」
ジルベール様は平民の私にも優しい人なのだと実感した。こんな人ならきっと婚約者は幸せになるだろうな、なんてことを思ってしまった。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
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