覚えていますか プロローグ
瀬戸内海の凪いだ水面を、夕凪島へ向かうフェリーは滑るように進んでいく。
船内では、夏休みを楽しむお客さん達の、笑い声と高揚した空気が満ちていた。
ざわめきの中に紛れて、私は一人窓の外を見つめていた。
日差しが、フワッとした雲の輪郭をほのかに染めて、水面ではキラキラ、キラッと瞬いている。
その光の揺らぎをぼんやりと見ていると、あの頃の自分が甦ってくるようで、淡い潮の香りまで鼻に届いてくる気がした。
島々が青く霞んで見え、そのはるか向こうには……。
そう、私は、今――
あの約束の場所へと向かっている。
少しの不安と大きな期待を乗せて。
「初恋って、覚えてるもの?」
ふと、そんな会話を思い出す。
友達とよく話した話題。
誰もがそれぞれの時期に、少しずつ違ったかたちで初恋を経験していて。
それでも共通していたのは、みんなにとってそれが特別な思い出であるということだった。
親友の美瑠は、中学の時に出会った彼といまも付き合っていて、もう7年になる。
美瑠の初恋は、今もなお現在進行形だ。
じゃあ、私の初恋は?
私は、ちゃんと覚えてる。
忘れるわけがない。
それは――
10年前の、あの夏の日。
海が見える、高台にある公園のブランコから始まった。
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