異世界に転生してダンジョンマスターになった俺は必死に生き抜く決意を固めた。
ふと気が付くと四方を土に囲まれた奇妙な小部屋に寝転がっていた。
小部屋というよりは洞窟なのだろうか? しかし洞窟にしては綺麗な四角形をしている。寝たままで少し首を動かしてみるが、段ボール箱の中に閉じ込めらているような、そんな奇妙な気分になるだけだった。
海で溺れ、気が付いたらここにいた。救助されたにしては随分と妙な場所である。
ならばここはあの世なのだろうか、と考える。だとしたら随分と手抜きなあの世である。
「おや、ようやく目が覚めましたか!」
そんなことを考えている俺に誰かが話しかけてくる。人がいたのか、と俺はようやく体を起こして声のした方に目を向ける。
しかしそこには人の姿はなく、代わりに白く輝く球体が浮かんでいた。天井から吊るされているわけでもなく、かといって台座があるわけでもない。本当にただそこに浮かんでいた。
なんだこれ、と俺はその球体に近づく。
するとその球体からまた声が聞こえてきた。
「中々目を覚まさないからヒヤヒヤしましたよ。蘇生に失敗をしてしまったんじゃないか、と」
その球体は言葉を発するたびにわずかに光量を変えながらそう言った。変な形のスピーカーなのだろうか。そんなことを考えながらお前は一体なんなんだ、とその球体に尋ねてみた。すると球体はこう答える。
「私はダンジョンコアです。このダンジョンの心臓部ですね」
ダンジョン? ダンジョンコア? いきなり意味の分からないことを言われて混乱する俺にその球体は説明をはじめた。
曰くいま俺がいるここは日本ではなく、それどころか地球、つまりいままで俺がいた世界ですらないらしい。所謂剣と魔法の世界で、ダンジョンとはその中にある魔物たちが住む巣穴のようなもので、ダンジョンコアというのはそのダンジョンの心臓部にあたるらしい。
そしてなぜ俺がここにいるのかと言えば、ダンジョンの経営者、ダンジョンマスターとしてこのダンジョンを運営して欲しいから、ということらしい。
「人間目線で、人間に攻略が難しいダンジョンを作ってほしいんですよ!」
人間である俺にそれを言うのか、とも思ったが、一度死んだからなのか、それとも蘇生するときになにか細工をされたからなのか、この世界の人間に対する同情や共感はあまり湧いてこず、逆にこのダンジョンコアを守らなければという使命感が湧いてきていた。
俺は分かったと頷いた。すると球体は嬉しそうにピカピカと輝き、それではさっそく最悪のダンジョンを作りましょう! と声をあげた。
「それで、どうやってダンジョンを作るんだ? まさか手で土を掘れなんて言わないよな」
「安心してください! ちゃんと道具は用意してあります!」
俺の冗談めかした言葉に球体はそう答えると、スススと空中を移動してこっちに来てください! と言ってきた。なにか道具があるらしい。できればゲームみたいなタッチパネルとかあるやつが良いなと考えながら球体について行ってみるとそこには……。
「……手押し車に、ツルハシに、シャベル?」
「はい! 頑張って集めました! 人間に使ってもらうので人間用のやつです!」
「……え、これでダンジョン作るの?」
「はいっ!」
嬉しそうに答える球体を俺はガシッと掴むと走り出した。
ピカピカと光る喋る球体を連れた冒険者が人の口にのぼるようになるのは、もう少し先の話である。
「それで、いつになったらダンジョン作りを始めてくれるのですか?」
「いやだよ、手作業なんて」
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