⑥①
それからギルベルトはお酒を飲みながら、ヴァネッサは大好きな甘いものを少しずつ食べながら、今までの分たくさん話していた。
大体、貴族の長男が家を継ぎ、次男や三男は爵位を得るか、家を継ぐ令嬢と結婚するなど選択肢は限られているそう。
ギルベルトは医師という道を選び、城で働いていたこともあるほどに凄腕らしい。
ギルベルトはヴァネッサに直接、自分の過去について話してくれた。
彼女たちを救えなかったことをギルベルトはずっと悔いていた。
それから兄夫婦を追い詰めてしまったのかということも……。
ヴァネッサも彼女たちの状況や過去をギルベルトから直接聞いて、難しい問題が故にどう答えたらいいかわからなかった。
「自分でも何が正解かはわからなかった。やれることはやったつもりだったんだ」
ヴァネッサはギルベルトの震える手を握る。
ただ一つ言えることはギルベルトが救ってくれなければ彼女たちはずっと苦しんでいた。
そして彼女たちは最後まで誰にも……ギルベルトにも心を開かなかったという。
(本来ならヴァネッサもそうだったのよね……誰にも心を許さずに苦しみながら自ら命を絶ってしまう)
今まで彼女たちはどれだけ傷つけられてきたのだろうか。
そう思うと彼女たちの気持ちはよく理解できるような気がした。
それに屋敷にいる侍女や侍従たちはほとんどギルベルトが病や怪我から救った人たちなのだという。
ヴァネッサはギルベルトのことを尊敬していた。
ヴァネッサはさらに彼のことを好きになった。
毎晩、互いの胸の内を話す時間は二人の距離をさらに縮めていくことになる。
「これからたくさん話していこう。ヴァネッサのことをもっとよく知りたい」
「わたしもです。ギルベルト様のこと、たくさん教えてください!」
「……ああ、俺でよければ」
まだまだ話し足りないのと、ギルベルトと離れたくないと思った。
ヴァネッサが素直に気持ちを話すと、彼の表情がどんどんと変わり頬に赤みが帯びてくる。
「今は部屋が別だが、少しずつ夫婦らしくしていこう」
「……えっ、あっ! その……はい」
自分でも随分と大胆なことを言ってしまったのだと気づいて、ヴァネッサは両手で頬を押さえた。
なんとか誤魔化そうと話題を探すと、随分と顔色がよくなったギルベルトに気づく。
以前は常に気怠そうだったが、今はクマもなく元気そうだ。
「ああ、今はちゃんと睡眠をとっているからな」
「ということは今まではとっていなかったんですか?」
「…………」
「これからは無理をするのは禁止ですよ! 以前は倒れそうなほど顔色が悪くて心配したんですからっ」
「それはヴァネッサもだろう? 君にだけは言われたくない」
「うっ……!」
「俺とアンリエッタを間違えるくらい熱を出した」
「……すみませんでした」
ギルベルトの言う通り、たしかにヴァネッサも高熱を出しているので人のことは言えないのかもしれない。
ヴァネッサが苦い顔をしつつ反省していると……。
「これからは気をつける。もっと家族の時間を大切にしたい……改めてそう思った」
「……はい、わたしもです。頑張ってギルベルト様を支えますから」
「ヴァネッサは可愛いな」
「へ……!?」
「そういえばパーティーにつけていくドレスが一式届いたんだ。ヴァネッサによく似合うと思う」
こうしてあっという間に夜は更けていったのだった。
──王家主催パーティー当日。
レイとセリーナはヴァネッサの髪を丁寧に整えてくれる。
絡まり放題だった長い髪は、今は艶があり綺麗に切り揃えられていた。
ギルベルトがプレゼントしてくれたアクセサリーはシンプルで上品、
上質なサファイアは眩いほどに輝きを放ち、ヴァネッサの白い珠のような肌によく映える。
化粧は濃くなりすぎず、シンプルだがヴァネッサの魅力を存分に引き立ててくれる。