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⑤② エディットside3


その期待に応えようと努力を重ねてきたのだ。


だけど面倒なことは適度にサボっていた。

マナーや勉強、そんなものは爵位を継ぐ男性に押し付けてしまえばいい。

母だって、すべて父に任せきりだ。

そうしたってエディットならば許されるはずなのだから。


(わたくしは誰にだって愛されるのよ……ヴァネッサと違ってね)


エディットは一番でなければならない。

だからヴァネッサが自分よりも先に嫁ぐのは気に入らない。

怯える彼女に侍女たちと一緒にシュリーズ公爵の噂を全部吹き込んでやった。

ヴァネッサはおもしろいほどに怯えて、見ていて最高に面白かった。


どうせ惨めに捨てられて終わる。

ヴァネッサの人生は今まで通り、表に出ることはない。

そう思っていたのにエディットの予想を覆すことが起こってしまう。


見間違いでなければ、ヴァネッサはシュリーズ公爵に受け入れられていた。

王家御用達のブティックで何を買うのか考えたくもない。

今までエディットの足元にも及ばないヴァネッサが、公爵夫人として扱われる。

そんな現実を受け入れられるわけがないではないか。


(ありえないわよ……! ありえないっ、わたくしより上にいくなんてダメに決まっているわ)


ティンナール伯爵家に帰っても、エディットの怒りは収まらない。

部屋にあるものを、荒れる気持ちのまま投げ飛ばす。

壁にぶつかって砕け散る花瓶。壁から外れる絵画。

そんなエディットを見て、新しく入ってきた侍女たちはあからさまに嫌な顔をする。


ヴァネッサがいなくなることで何かのバランスが崩れてしまったのかもしれない。

けれどエディット自身が変わるつもりはない。すべて周りが悪いのだ。


父も事業がなかなかうまくいかないと苛立っているが、いつも母とは違う香水の匂いがした。

甘ったるいその香りはエディットのものでもない。

なんだか鼻につく。


ヴァネッサに会った日から母はずっと気が立っている。

恐らくエディットと同じ気持ちなのだろう。

父の顔を見るたびに「どうしてヴァネッサが生きているのか」を問いかける口喧嘩が絶えない。



「どうしてあの子が生きてるのよ!? 死んだんじゃないのっ?」


「そんなこと、俺が知るわけないだろう!? ヴァネッサはもう他人なんだ」


「だけどっ、だけどあのゴミがわたくしたちより上だなんて! あっていいわけないでしょう!?」


「うるさいっ! お前とエディットのせいで今は大変なんだ! くだらないことでギャーギャー騒ぐな」


「……なんですって!?」



父は頭を抱えながら何かを考えて、母はヴァネッサを排除しようと必死だった。




数日後──。



シュリーズ公爵からの抗議文が届いて、父は夜通し言い訳を考えていた。

エディットが初めて父に怒られることになる。

そのことに苛立ちを隠せない。

彼の影響力を目の当たりにしてますますシュリーズ公爵の愛が欲しいと思ってしまう。


(シュリーズ公爵はヴァネッサと会ったことがなかった。顔も知らなかったはず……つまり誰でもよかったのよ!)


エディットはヴァネッサを使って、シュリーズ公爵が名誉を回復させようとしているのだと思った。

穢らわしいヴァネッサを美しくして三番目の妻として愛していることを見せつけようとしている。


(シュリーズ公爵はヴァネッサを利用しているだけ。そうに決まっている……だってわたくしよりヴァネッサが愛されるわけないのよっ)


エディットはブティックで会ったヴァネッサの姿を思い出す。

肌の赤みが消えて、髪を整えてドレスを着ていたヴァネッサは美しかった。

地味ではあるが清純で着飾ればエディットよりも目を引くのではないか。


あのブティックのドレスを着ているだけでエディットよりも目立ってしまうではないか。


(わたくしにしか似合わない華やかなドレスを探しに行かないと……!)


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