⑤① エディットside2
不自由な生活が続いていた。
周りにいた侍女たちはエディットの悪口ばかり言うようになった。
あまりの屈辱にエディットは彼女たちに花瓶を投げつけて怪我をさせてしまったり、罵り精神的に追い詰めて行く。
彼女たちはエディットから離れてしまう。
裏切られたような気分だった。
毎日、父と母は激しく罵り合っていた。
今はエディットの婚約者を決める大事な時期なのに、お金がないことがばれれば良い男が結婚を申し込んでこなくなるではないか。
今まで侯爵家の次男や公爵家の三男と顔がいい男を呼んで、顔合わせをしていたが何故かうまくはいかなかった。
エディットをわがままや傲慢だと言って去っていく。
彼らはエディットを選ばずに子爵家の令嬢と婚約したり別の道を選択したりした。
(彼らは見る目がないだけ。ティンナール伯爵家を継げるのに本当に馬鹿な男たちだわ……!)
次第にエディット宛に結婚の申し込みはこなくなった。
それがまた悔しいではないか。
よくお茶会をする友人たちには自分がモテて困ると自慢していたが、本当はそうではなかった。
エディットはうまくいかない縁談に苛立ちを隠せない。
だからこそ王家主催のパーティーでエディットのよさを見せつけようと思ったのだ。
そんな時、ヴァネッサに結婚の申し込みが届いた。
それは悪い噂が絶えないシュリーズ公爵家の当主、ギルベルトからだった。
エディットではなくヴァネッサ宛なことが気に入らない。
どうやらヴァネッサを嫁がせれば代わりに大金が手に入るように取り引きしたらしい。
どこでヴァネッサのことを知ったのかは知らないが、表向きには病弱で子が産めないことになっている。
修道院にも行かせずに家で面倒を見ていると、父はヴァネッサを使い自らの懐の広さを自慢していることは知っていた。
その日の夜、父と母は機嫌よくワインを傾けていた。
「ゴミを処理する代わりに金が手に入るなんてな……!」
「素晴らしいわ! 最後に役立ってくれるなんてよかったじゃない!」
「ああ、本当にな! これでティンナール伯爵家は立て直せる。シュリーズ公爵も変わり者と言われているが……どうでもいい」
ヴァネッサはエディットにとってもゴミのような存在だった。
肌の赤みは醜く爛れ、毎晩咳がうるさいという理由で豚小屋のような場所でくらしている。
使用人として使ってはいるものの、今回はティンナール伯爵家の令嬢として嫁ぐらしい。
(よくこんな女を欲しがるわね……! やっぱり噂通りの変人だわ)
ヴァネッサはエディットが物心つく頃から下だった。
ゴミと同じ、いらない存在だったのだ。
愛されているのはエディットでゴミとして扱われるのがヴァネッサ。
令嬢としての教育は最低限してあるそうだが、こんな女が愛されるはずがない。
両親に愛されたエディットとは違って、ヴァネッサは愛されてなどいないのだから。
(可哀想なヴァネッサお姉様。いっそのこと死んだほうがマシなのに……)
エディットはしぶとく生き続けるヴァネッサを侍女たちといたぶってはストレスを発散していた。
貴族社会で生きていくのは大変だ。
プライドの高い令嬢たちの相手は骨が折れるし、自分の素晴らしさをアピールするのも苦労する。
事あるごとにエディットを見下してくる令嬢たちを返り討ちにしたいが、格上となればそうもいかない。
だけど、伯爵令嬢であるエディットは誰よりも美しく性格も完璧だ。
このヨグリィ王国一番の美女と言ってもいいだろう。
実際、両親も侍女もエディットにそう言ってくれていた。
エディットが一番だと口を揃えて言う。