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「────ッ!?」



首が痛くて押さえると包帯が巻いてあった。



「え……?」



掠れた弱々しい声が耳に届くが、それは自分の声だとわかる。

腕を下ろすと手首がありえないほどに細い。

今にも折れてしまいそうだ。


(どういう、こと……? それにさっきのは小説で読んだ〝悲劇の継母〟ヴァネッサの話よね?)


悪役令嬢アンリエッタの過去が明かされた番外編。

悲劇の継母ヴァネッサは継子のアンリエッタの前で命を落としてトラウマを植え付ける役回りだ。

その後、あまりの悲惨な過去から『悲劇の継母』という名前がついたほど。


三人目の妻、ヴァネッサがすぐに死んだことでアンリエッタの父親であるシュリーズ公爵の評判は地に落ちてしまう。

そして一人目の妻が残したアンリエッタも心ない噂からひどい目に遭い、父親であるシュリーズ公爵を恨みながら育つ。

彼女が悪役として立ち回る小説の本編が始まるというわけだ。

窓に映る自身の姿は明らかにヴァネッサの特徴と見た目に一致する。

それに先ほど夢のように駆け巡ったのがヴァネッサの記憶だとしたら……。


(その前にわたしは、ヴァネッサになったということ? いいえ、前世の記憶を取り戻したというべきなのかしら)


このタイミングで記憶が戻り、シュリーズ公爵に嫁いできたヴァネッサ。

つまりそれが何を意味するのか……。


(今からアンリエッタの前で死ぬ運命だということ!?)


ヴァネッサは震えながら頬を押さえた。


(──待って、待って待って! 状況を整理しましょう……! わたしは日本に生まれて、病院のベッドの上でこの小説を読んだことがある。生まれた時から病気でずっと、ずっと……病院で暮らしていたの)


細い手首も、真っ赤な肌も、薬品の匂いがするベッドの上も、今とすべて同じ。

光が点滅するように脳内で映像が流れていく。


前世はヴァネッサと同じ十七歳で亡くなってしまう。

心臓が弱くて、この歳まで生きられたのが奇跡だったそうだ。

狭い世界にいたけれど、両親は最後まで私を愛してくれた。

ここにいてもいい、生きている意味があると教えてくれたのだ。

病院内で友だちだってできた。

先に旅立ってしまった人もいたけれど、私にとっては大切な思い出だった。

次に生まれ変わる時には両親のように愛と幸せをあげられるような人になりたい……そう思っていた。


(そっか。そうだわ……神様はわたしにチャンスをくれたのね!)


叶わない夢だと知っていたけれど結婚もしたいし、子どもも欲しいと思っていた。

それもすべてを諦めるしかなかった。

病気になったことで失ったこともあったけれど、得たものもたくさんあった。

周囲への感謝、命の大切さ。

支えられてここまで生きていられたことも。

生きることへの尊さや喜びもそうだ。


(わかったわ、神様。次はわたしが誰かを愛して守る番。そういうことなのね……!)


明るい気持ちでいたヴァネッサは改めて小説のことを思い出す。

毎日、たくさんの小説や漫画を読んでいたため、本編の内容はうろ覚えだ。

流行りのロマンス小説だったように思う。

ヒロインとヒーローが結ばれて、それから悪役であるアンリエッタが断罪されてしまう。

シュリーズ公爵はその責任を取り爵位を譲り、表舞台から去ってしまう。


その小説の番外編。

アンリエッタの過去に出てくる病弱で両親に愛されず死んでしまったヴァネッサのことだけはよく覚えていた。

出番はわずかで多くは語られることはなかったが、凄惨な過去は読者に大きな影響を及ぼしたそう。


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