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④④

シュリーズ公爵家に行く時は激しい雨が降っていたし、恐怖から外を見ている余裕はなかった。

だからこそ街並みが新鮮に映る。



「…………素敵」



今まで見たことがない景色はヴァネッサの目を楽しませてくれた。

真っ白な壁、ベージュやオレンジ、ブラウンの屋根が連なっていて、統一感のある街並みに目を奪われた。石造りの道がどこまでも連なっている。

たくさんの人々が行き交っており、まるでお伽話の中に入り込んだようだ。


ヴァネッサは馬車の窓に手を当てて魅入られるように外を眺めていた。

ティンナール伯爵邸とシュリーズ公爵邸の中しか知らないヴァネッサにとっては本当に何事もない景色が輝いて見えた。


自然と涙が出てしまい、二人にバレないように拭う。

いつの間にか二人の視線がこちらに向いていることに気がついて、ヴァネッサは真っ赤な目をこすりながら慌てて口を開く。



「お買い物、楽しみですね……!」



ヴァネッサが誤魔化すようにそう言うと、アンリエッタはグッと下唇を噛んでヴァネッサを抱きしめる。



「ヴァネッサ、今からわたくしたちと色々なところに出かけましょう! それからいっぱいいっぱい楽しいことをしましょう?」


「……アンリエッタ」


「ねぇ、お父様!」


「…………あぁ」



ヴァネッサもアンリエッタを抱きしめ返す。

涙を誤魔化しつつも微笑んだ。


それから緊張が解けたのかアンリエッタを中心に三人で楽しく会話をすることができた。

まるで本当の家族のようだ。


一時間ほどで王都に到着する。

王都とシュリーズ公爵領は隣り合っていると勉強して知っていた。

賑やかな王都に圧倒されているヴァネッサとは違い、アンリエッタは慣れた様子だ。



「まずはお腹が空いたからカフェに行きましょう!」



スキップしそうな勢いでアンリエッタが進んでいく。

慌ててレイやセリーナ、護衛たちが追いかけて行くのが見えた。

ギルベルトと共に立ち尽くしていたヴァネッサだったが、彼に声を掛けられて肩を跳ねさせた。



「ヴァネッサ、大丈夫か?」


「は、はいっ!」


「何かあったらすぐに報告してくれ」


「わかりました!」



返事をしてギルベルトと共に歩き出すが、彼のことは直視できそうもなかった。


大通りを進んでいき、アンリエッタが楽しみにしていたカフェの個室へと通される。

少し待っていると次々と運ばれてくるサンドイッチやケーキ。

コーヒーの香ばしい香りがした。

テーブルにはまるで宝石のように輝くケーキが並べられていく。

あまりの美しさにヴァネッサはケーキを見つめたまま動けなくなる。



「ヴァネッサ、頑張っているわたくしたちへのご褒美のケーキよ」


「こ、これがケーキッ!」



ヴァネッサの前には真っ白な生クリームとイチゴがたっぷりのったケーキがあった。

アンリエッタと興奮しつつ、ヴァネッサはケーキをすくって口に運ぶ。

口に溶けていくクリームの甘さ。いちごの爽やかな甘酸っぱさに頬を押さえる。



「「ん~っ! おいひい」」



アンリエッタと声が揃う。

ケーキを食べ進めるがヴァネッサは一個が限界だったがアンリエッタは二個目、三個目と平らげていく。

ギルベルトはそんな二人を眺めながらコーヒーを飲んでいる。

そんな一つ一つの美しい仕草に目を奪われてしまう。


お腹がいっぱいになったあとはアンリエッタは雑貨屋で買い物をしていく。



「そうね……コレとコレも。こっちのはここからここまでお願いね」



次々に積み上がっていく箱に口をあんぐりと開けたまま動けない。



「ヴァネッサは何か欲しいものはあるか?」


「い、いえ……」



ヴァネッサはゆっくりと首を横に振る。



「見ているだけでもとても楽しいです」


「……そうか」



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