④②
「レン先生は初恋の人で……」
「……彼のことが好きなのか?」
どうしてギルベルトがそんなことを問いかけてくるのかはわからない。
まさか嫉妬をしてくれていると考えてみたものの、そんなはずはないと首を横に振る。
(……どんな人物か、気になるとか? 結婚しているのだから当然よね)
だが、あの時ヴァネッサが考えていたのはレン先生は初恋で、ギルベルトとの気持ちとは違うということだった。
「ヴァネッサは彼のことが好きなのだと言っていた」
ヴァネッサは浮気を疑われていると思われているのかもしれないと、慌てて口を開く。
「わたしはギルベルト様のことを考えながら好きだなと言いました! それだけは間違いありませんっ!」
素直に気持ちを口にすると、ギルベルトの雰囲気が急に柔らかくなったような気がした。
ギルベルトは左上から右下に視線を流した後に、どんどんと顔が赤くなっていく。
そのことを隠すようなに手のひらが顔を覆った。
「なんなんだ君は……」
「わたし……何か変なことを言いましたでしょうか?」
ヴァネッサの問いかけにも答えることはない。
ギルベルトの赤らんでいく頬を見て、あることを思う。
「もしかしてギルベルト様も熱があるのでしょうか? 顔が赤いですが……」
「~~~っ!」
ヴァネッサはギルベルトの額に手のひらを当てるが、自分も熱があることに気づいて意味がないことを悟る。
ギルベルトは何か言いたいことがあるのか唇を閉じたり開いたりを繰り返していた。
「あの、ギルベルト様……大丈夫ですか?」
「熱があるのは君の方だ。今日と明日はゆっくり休むこと。いいな?」
「あ……はい、そうですよね」
ギルベルトはヴァネッサに薬を飲むように指示を出して、足早に部屋から出て行ってしまった。
(なんだか変なギルベルト様……でもそんなに怒られなくてよかったわ)
よくわからないギルベルトを不思議に思いつつ、ヴァネッサは彼の指示通りに薬を飲んで体をゆっくり休んだのだった。
それから経過を見て、一日多く休んでいたヴァネッサ。
熱も下がり食欲も戻ったヴァネッサはウズウズしつつ本を読み込んでいた。
(これで予習と復習はバッチリだわ。今日からまた頑張りましょう!)
気合いを入れつつ、ヴァネッサが準備をしていた時だった。
扉を叩くノックの音。
ヴァネッサが返事をすると、アンリエッタが部屋の中へ入ってくる。
「アンリエッタ……!」
「……ヴァネッサ」
アンリエッタとヴァネッサは抱き合いながら二日ぶりの再会を喜んでいた。
いつもよりテンションが高く、嬉しそうなアンリエッタ。
よく見るとドレスを着てオシャレをしているアンリエッタを見て不思議に思っていると……。
「ヴァネッサ、今日は買い物に行くのよ!」
「…………え?」
アンリエッタは興奮しているのかぴょんぴょんと飛び跳ねる勢いだ。
そんなアンリエッタの代わりにレイが状況を説明してくれた。
どうやら王家主催のパーティーに向けて、アンリエッタとヴァネッサのドレスやアクセサリーなどを買い揃えるそうだ。
それからアンリエッタが行きたい雑貨屋、カフェなどにも寄るのだという。
ギルベルトがこうした時間を作るのが珍しいようで、アンリエッタは久しぶりに王都に買い物に行けると喜んでいる。
「ドレスもだけど、ヴァネッサが必要なものを買い揃えるんですって……!」
「わたしのものを?」
ヴァネッサは今のままでも十分すぎると思っていた。
ティンナール伯爵邸で暮らしていた時に比べてしまうとすべてが綺麗で素晴らしい暮らしをさせてもらっている。