表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】悲劇の継母が幸せになるまで  作者: やきいもほくほく
二章 過去に向き合って
30/70

③⓪

「全貴族……そこにはティンナール伯爵家も」



そこでヴァネッサの言葉が止まってしまう。

もし三人と顔を合わせて何か言われたのなら……。

そう考えただけで、ヴァネッサの体は震えてしまうのだ。

あのヴァネッサを見る三人の顔を思い出すだけで心臓が破裂しそうなほどに痛む。


(まだ怖い……怖くて怖くてたまらない)


次第に視界が滲んでいく。

『あんたみたいな役立たず伯爵家には必要ないわ』

『ウフフ、いくら頑張ったって意味ないのよ!』

『あなたは売られたの』

『でも本当、最初から最後まで誰にも愛されずに惨めよねぇ』

まるでエディットがヴァネッサの耳元で囁いているようだった。

周りの声がまったく聞こえなくなっていった。



「──ヴァネッサ、ヴァネッサッ!」


「……っ!?」



アンリエッタがヴァネッサを呼ぶ声が聞こえた。

意識が戻ってきた途端に視界がパッと明るくなる。

涙がこぼれ落ちそうになるのを必死にこらえていたヴァネッサだったが、彼女の宝石のようなピンク色の瞳がまっすぐ見つめているではないか。



「アンリ、エッタ……?」



ヴァネッサのアンリエッタの名前を呼ぶ声が震えて驚いてしまう。


(思い出しただけでこんなになってしまう。こんなことじゃ、アンリエッタやギルベルト様に迷惑をかけてしまうわ)


ティンナール伯爵家はヴァネッサのトラウマそのものだ。

十七年間、植えつけられた恐怖や絶望は簡単にヴァネッサの中から消えることはない。

体温がどんどんと下がっていくような気がした。

指先が冷えてうまく動かせない。


(うまく気持ちを切り替えないと……でもっ)


今はアンリエッタが目の前にいる。

折角、前向きないい雰囲気になっていたのにヴァネッサのせいで台無しになってしまった。



「……アンリエッタ、ごめんなさい」


「ヴァネッサ……」


「気持ちをっ、強く持たないと……ダメよね」



ヴァネッサはアンリエッタを心配させないように無理やり笑顔を作った。

口角が引き攣ってピクリと動く。震える腕を隠すように後ろに回した。

だけど信じられないほどに胸が痛くて泣き叫び出してしまいそうだ。

アンリエッタはヴァネッサの表情を見て首を横に振る。



「ヴァネッサはずっとひどいめにあってきたんだもの。怖くて当然だわ」


「……え?」


「許せないの……! こんなことをしてきた人たちには絶対に天罰がくだるはずだわ」


「アンリエッタ……」



アンリエッタの力強く優しい言葉がヴァネッサの凍っていく心を溶かしていく。

彼女はヴァネッサの震える手を取り、包み込むように握ってくれた。

すると自然と震えが止まっていく。



「ヴァネッサ、聞いて。もしヴァネッサの元家族がヴァネッサをいじめてくるなら……」



アンリエッタの〝元家族〟という言葉にヴァネッサは改めて衝撃を受ける。

ティンナール伯爵家は元家族なのだ。


(今はアンリエッタとギルベルト様がわたしの今の家族なんだわ……!)


そう思うと自然と心が軽くなったような気がした。

もうティンナール伯爵家に縛られる必要はないのだ。



「絶対に大丈夫よ。わたくしとお父様がヴァネッサを守ってあげるから!」


「…………っ!」



ヴァネッサはアンリエッタの言葉に感動してしまい、徐々に瞳が潤んでいく。

アンリエッタの純粋で力強い言葉が傷ついたヴァネッサの心に沁みていくような気がした。

先ほどまでの恐怖はすっかりと消えて、暗い気分が一気に上がっていた。



「ありがとう、アンリエッタ!」


「ヴァネッサにはわたくしたちがいるわ!」



ヴァネッサはアンリエッタを思いきり抱きしめた。

嬉しさと心強さから涙が頬を伝っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ