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【完結】悲劇の継母が幸せになるまで  作者: やきいもほくほく
二章 過去に向き合って
24/70

②④


──ヴァネッサがシュリーズ公爵邸に来て、一カ月が経とうとしていた。


ヴァネッサは天気がいい日の午後は毎日、アンリエッタが待つガゼボへと向かった。

そこで少しずつアンリエッタにマナーを教わっていた。

カップの持ち方、お茶の飲み方、挨拶のやり方など、ヴァネッサがまったくわからなくてもアンリエッタは根気強くわかりやすく教えてくれる。

ここで知識として得ていたマナーだけでは、まったく違うのだと初めて知ることになった。



「そうそう! ヴァネッサ、とてもうまいわよ!」



合格をもらったヴァネッサはカップをソーサーの上に置いて肩を落とした。



「はぁ……なんだか一つ一つの動きがとても大変よね。うまくできないわ」


「仕方ないわ。慣れよ慣れ!」


「これにコルセットをすると思うともう……」


「それも慣れよ! それに淑女にコルセットは必須だもの」



ヴァネッサはため息を吐きながら席に戻る。

アンリエッタは歳下ではあるが話していると、あまり歳が変わらないように聞こえてしまうだろう。

ヴァネッサが世間知らずなこともあるが、アンリエッタは大人びている。


それに当たり前ではあるが一カ月やそこらでマナーを習得できるわけではない。

わかってはいたが、うまくできないのは悔しいではないか。

三十分くらいはアンリエッタからマナーを学んで、残り三十分はクッキーを食べながらおしゃべりするのがお決まりのパターンだ。


そんな日々を過ごしていたら、今はクッキーを三枚も食べられるようになった。

次はマドレーヌを丸々一個、食べられるようになるのが目標だった。


(アンリエッタと仲良くなれるし、甘いものも食べられてこの時間が幸せだわ)


すっかりアンリエッタに餌付けされたヴァネッサはクッキーの甘さにメロメロである。


(クッキーのためならどんなことだってがんばれるわ!)


過去に遡り、アンリエッタにマナーを教わりだして一週間が経とうとした頃だった。

クッキーを楽しみにしつつマナーを学んでいたのだが、普段使わない筋肉を使うからか体の節々が痛くなってしまう。

元々、体力がないのもそうだが、挨拶の練習をやり過ぎたことで次の日に熱と筋肉痛でまったく動けなくなってしまったのだ。


その時はギルベルトに無理をするなとこっぴどく怒られてしまった。

彼はアンリエッタとガゼボで会ってお茶をしていることを知っていたらしいが、こうなるまでヴァネッサが無理をするとは予想していなかったらしい。

暫くアンリエッタに会うのを止めるように言われたが、ヴァネッサは断固拒否である。



『今、アンリエッタにマナーを教わっているんです!』


『アンリエッタに……? マナーならば講師を招けばいいだろう?』


『招いていただけるのは嬉しいですけれど……』


『なら、もう少し体調がよくなったら講師を呼ぼう』



話は終わりだと言わんばかりに薬の調合を始めたギルベルトに訴えかけるように口を開く。



『クッキーが美味しいんですっ! だからこのままでお願いいたします!』



クッキーが美味しくて楽しく学べると力説するヴァネッサに困惑するギルベルト。

確かにクッキーが美味しいと言われても戸惑うだろうが、ギルベルトにどう伝えたらいいかわからずにヴァネッサは必死だった。



『クッキーが食べたければ毎日部屋に運ぶ。それでいいか?』


『よくありませんっ、アンリエッタと一緒に過ごす時間が楽しいのです!』


『…………!』



その言葉にギルベルトは驚いているようだった。


するとタイミングよく、アンリエッタがヴァネッサの部屋へとお見舞いに来てくれた。



『ヴァネッサ、体調はどうかしら?』


『アンリエッタ……!』


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