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①⑥

肌に塗るクリームも毎日、欠かさず塗っていると徐々に赤みや痒みが減っていく。

ガサガサとした皮剥けがなくなったことに感激する日々を過ごしていた。


加えてヴァネッサの咳もゆっくりと落ち着いていった。

ティンナール伯爵家にいた時のような激しい咳は出なくなったことが不思議で仕方ない。

ギルベルトが調合してくれた薬がよほど体に合ったのだろうか。


(とても呼吸がしやすいわ……嘘みたい。体調がいいってこんな感覚なのかしら)


体に羽が生えたように軽く感じたのは生まれて初めてだった。


ヴァネッサはスープ生活を抜け出して少しずつパンを千切っては口に含む。

小麦の甘さがじんわりと口内に広がっていく。



「……お、おいしい!」


「ふふ、おかわりもありますから」


「おかわりは無理そうだわ」


「まだまだたくさん食べられるようになりませんと!」


「お体が細くて心配になりますわ」



レイとセリーナはいつもヴァネッサのそばにいて世話をしてくれる。

彼女たちとギルベルトのおかげでヴァネッサは元気を取り戻した……と自分では思っている。

逆にここまでしてもらい申し訳なくなり、ヴァネッサが何か屋敷のことを手伝おうとするたびに制止が入る。

『まだまだ体調が万全ではありませんから!』

『ゆっくりとしていていいんです』

ヴァネッサも役に立てると、ティンナール伯爵家で使用人として働いていたことを話すものの、レイとセリーナには難しい顔をされてしまった。


ヴァネッサがお礼に何かしたいと言い続けていると、とてつもなく怖い顔をしたギルベルトが『今は安静だ』と、トドメを刺しにきた。

あまりにも恐ろしい表情にヴァネッサは頷くしかなかった。

だが、なんだか胸がモヤモヤしてくる。


それからさらに一週間、ヴァネッサは三食に加えてデザートやおやつまでもらっていた。

こんなにも食べられることにヴァネッサは毎日、感動していた。

与えられるものはどれもこれも初めての味ばかり。


パンと野菜の切れ端くらいしか知らないヴァネッサにとっては何を食べても感動できる。

そのことがあるからか何を食べても『おいしい』と、涙が自然と溢れてくる。


前世の記憶からもそうだ。

何より脂っこいものを食べても、甘いものを食べても吐き気に襲われることもない。

まだ量はそこまで多く食べることはできないが、世界が広がって見えた。

毎回毎回、感動しながら食べ物を口にするヴァネッサを見てレイやセリーナ、シェフたちも涙ぐむ。


そんな日々を過ごしていたヴァネッサだったが、ついに耐えられなくなる。

相手から受け取りすぎて何も返せない。

こちらも同じようにお返しをしないと申し訳ないという気持ちになっていた。

これは前世でもよく思っていたことだ。

再びギルベルトに訴えかけるように言うと、こちらをじっと見つめながら口を開く。



「何故、そこまで働こうとする?」


「こんなにしてもらって、わたしは何も返していませんから」


「……返す必要などないだろう?」


「ですが、できることはやりたいと思っています。わたしも皆さんの役に立ちたいんですっ」



食べた後はずっとベッドで寝ているだけ。

あわよくば体を動かしたいし、働きながら屋敷を見て周りたいというのが本音だった。

外に出て太陽の光をたっぷりと浴びながら寝転んでみたい。


それだけヴァネッサの体調はどんどんとよくなっていったのだ。


(元気になったらやってみたいことがたくさんあるもの……! その前に働いて少しでも恩返ししなくちゃ)


すっかり元気を取り戻して精神状態も安定したヴァネッサはギルベルトに睨まれたとしても怯えたりすることもない。

それはギルベルトがとても優しいことを知っているからだ。



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