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うちの庭にダンジョンが生えた

作者: 鈴也

初投稿です。さらに言うと創作は何十年振りで、まだ続きがあるのですが書ききれず。まず今年中にひとつ投稿する、と決めていたので載せました。来年続きを載せたい(2025の抱負)

続きが出たらR15と残酷な描写タグがつく予定です。


 俺の家はそこそこ広い敷地がある。

 北海道の開墾に参加した家だったようで、過酷な時期を乗り越えて財産を蓄え、まあまあな規模の地主に。だから昔はもっと広い土地を所有していたみたいなんだけど、凡そ半世紀前にあった長いデフレと世界規模のウイルス感染の影響で家業の業績が大打撃、試行錯誤するも右肩下がり、最終的に廃業……仕方なく土地を切り売りした結果、今や我が家の土地は自宅の敷地のみになった。数字で言うと三千坪ほど。

 それでも数年前までは、小さな山を含む土地を一つ持っていた。俺はその時まだ山に入れなかったから山の事はよく知らない、ただ酒に酔った父さんがそれは良い土地だったと黄昏れるのだ。山仕事が父さんの天職だったという事もあるのだろう。


 でも、妹の病気でかなりの費用が掛かるって判って、周りの静止を押し切って山を売った。本当に良い山だったみたいで惜しんだ知り合いが丸ごと買ってくれて、そこで雇われになれば良いと言われたのに、弟子に任せて今は木工所で働いている。妹の治療に長い時間がかかると判っていたから、休みに融通がきくところにしたらしい。

 だから父さんに後悔はないんだと思う。でも、山を手放してから生き甲斐を無くした父さんは、少し陰った。ずっと体調が良くなさげで……後に判明したんだけど、実は本当に具合が悪かったようで……、それを耐えるようにしているもんだから、影が落ちているような感じになった。


 結果、メチャクチャモテるようになった。


 ……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何を言ってるのか判らない。なんでこれでモテるんだろう。


 いや、確かに父さんはめっっっちゃイケメンである。男の俺が言うくらいイケメンである(大事な事なので)。体力仕事をしているのでガタイは良く芸能人みたいな細身色白系ではないのだが、引き締まった逆三角形の上半身に、コシの強そうな黒髪を無造作にかきあげて、少しだけつり目の双眸が流し目宜しく視線だけを動かす様は正にクールな男。実態は山莫迦ですが。

 そこに哀愁漂う背中が加わって色気が出始めたらしいのだが……山を与えたら浮かれポンチの山莫迦(大事な事なので!)になりますよと宣伝して回りたい。


 会社全体の飲み会や休みの日の集まりに参加すると子会社や提携先の女の人が集まってくるようになっちゃったみたいで、父曰く同じ会社の人には正体がバレてて対象外扱いされてたから油断してた、と。中には堂々と不倫を提案してくる人もいるようで、ほとほと困った父さんは飲み会に参加しなくなり、休日は家で家庭菜園をする様になり、母さんと妹は目を座らせながら稼いで山を取り戻そうと計画を練っている。


 あ、妹は数年闘病生活を送り、今年無事完治しました。当初は父さんに引け目を感じて少しギクシャクしていたが、女トラブルに振り回される様になってからあっという間に関係は戻って行った。

 俺の何が良いんだか……と愚痴る父さんに、その顔で何を言ってんだかという視線をよく向けている。わかる。


 まあ、なんでそんな風にだらだらと俺んちのことを語っているかというと。


※※※


 俺の家はそこそこ広い敷地がある。町の中心から少し離れた郊外で、周りは畑か雑木林か道路、あと農家さんがご近所(数キロ先)。

 家があって庭があって雑木林もあってそこを少し開墾した父さんの家庭菜園があって、庭と家庭菜園の合間にログハウス風の物置があった。


 時期としては夏休み入りたての昼。高校一学期の終業式を終えて俺は帰宅して昼食をとってからキャンプ用の椅子を探しにログハウス風の物置に向かった。数段の階段をのぼり、外開きの扉をばたんと開けて、


 扉の向こうに、先の見えない降り階段を見た。


「……」


 無言で一度閉めた。


 数回深呼吸してから、もう一度開く。

 見えるのは物置の向かい壁が洞窟のようにぼこっと空いて、其処から降る石畳の階段。


「……エッ、ダンジョン生えた?」


※※※


「なになにちょっと何!?」

「いーから来て、早く来て、凜お前も来て!」

「着いてきてるでしょー」


 俺はすぐに家に引き返し、まず台所にいた母さんを引き摺り始めた。玄関まで来た時に妹の凜が帰ってきたので、同道を頼む。そうして物置の前に戻ってきた。


「俺の目が可笑しくなってるのか確認してほしい」

「何を」

「これ」

 と、勿体ぶる事もなく扉を開ければ、其処は相変わらずの唐突な空洞と階段。流石の二人も口をぽかんと開けて絶句した。

「えっ…」

「これって」

「ダンジョンだよな。ダンジョンだよな!?」

「それ以外ないじゃん!」

 絶句している母さんの代わりのように凜が悲鳴を上げた。


 ダンジョン……または迷宮とも言う。エーテルの凝りによって起こる異空間。エーテルはこの世界を維持している物質で、俺達人間もエーテルで形作られていて、尚且つ成長するためにエーテルを使う。だから本来は生きてるだけでエーテルを消費する人間が一人でもいる場所にはできない筈なんだけど……こんな現象はダンジョン以外有り得ない。


 ダンジョンは魔物が出現する厄介なものだが、同時に恩恵を齎してくれる存在だ。数十年前の『回帰の日』と言われる世界規模の転換期以降、世界を回すエネルギーが環境破壊の激しい火力や原子力からダンジョンの魔物を倒して得られる魔石に変わった。そのほかにも洞窟型ダンジョンは鉱石が半永久的に採掘できるし、草原型ダンジョンは薬草などファンタジーでお馴染みの素材が採れるし、場所によっては畑も作れる。ダンジョンは天候に規則があるから安定して作物が作れるんだそうだ。

 そうして利用する事が増えていき、最終的にダンジョンは生活に欠かせないものになっていった。

 だけどダンジョンはこんな感じに自然発生するので、選別したのち管理しきれないものは閉じなければならない。だから本来は探索者協会……または探索ギルドに報告しなきゃならないんだけど。


「……どうする?」

 俺が母さんに問いかけると、母さんは難しい顔をして黙り込んだ。即答できない問題が、俺の地元で起こっているのだ。

「……まず父さんが帰ってくるのを待とう。ひとまずそれまで誰にも言わないようにね」

「判ってる」

「バレたら土地ごと奪われかねないもんね」

 三人で頷き合って、俺は倉庫の扉を閉めた。


 探索者。ダンジョン攻略を専門とする人達のことで、ダンジョンの魔物を倒しながら魔石やダンジョン内の素材を集めるのが主な仕事。それに魔物を適度に倒しておかないと、只管増えて行ってダンジョンの外に出てしまうスタンピードという現象を起こすので、彼らの仕事はとても大事だ。

 そんな彼らを纏めているのが探索者組合。海外ではギルドって言うからそれでも通じる。

 俺の住む町に組合はなくて、数百キロ離れた市に支部がある。それがこの辺りのダンジョンや探索者を一手に管理しているのだが、その組織が問題なんだよなあ。


 あの後何にも手につかなくなって、自分の部屋でもやもやとしていた。空が夕焼けで赤くなり始めた頃に部屋の外が騒がしくなったので慌てて居間に行くと、母さんと凜に腕を掴まれて父さんは困惑していた。


「おかえり父さん」

「ただいま……何があった?」

「見た方が早いから来て」

「この後悠司が来るんだが……」


 悠司とは父さんの幼馴染で、山を買ってくれた人。家族以外では一番の父さんの理解者だ。さっと山を買えるくらいにはお金のある家で、非公式ながらも地元の探索者達のボスとも言える程に腕のある人。俺と母さんと凜は目を合わせて頷いた。


「よし、巻き込もう」

「巻き込む? おい、あいつには随分世話になって……」

「寧ろ巻き込まないと後で小言いわれる! 断言出来るね!」


 困惑したままの父さんへの対応は母さんに任せて、俺と凛で父さんを物置まで引き摺って行った。はい、とワンクッションもなく俺が扉を開けてダンジョンの出入り口を見せると、流石の父さんもピシリと石化する。

 何度も目をしばたたかせて、ぐっと眉間に皺を寄せて呻き声を上げた。


「……どういうことだ……」

「俺も判らんけど非常事態だって事は判った?」

 俺の問いかけに父さんは頭を抱えながら頷いた。

「あいつを巻き込まないといけないのも判った。……連絡してくる」


 みんなで家に引き返し、父さんがスマホで悠司さんに連絡すると、それ程経たずその人はやってきた。おまけもつけて。


「こんちは、どうした、緊急事態とか」


 急いで来たらしい、仕事着のスーツのままの悠司さんは父さんとは毛色の違うイケメン野郎だ。父さんがキラキラ(?)格闘家系イケメンだったら、悠司さんは爽やかスポーツマン系。こちらも随分と有象無象から秋波を吹かれているが当の本人は奥さんに首ったけの人だ。但し母さんに出会う前は朴念仁だった父さんと違って、若い頃にお付き合いした人数は両の手では収まらないらしい。


「着いてこい」

「ちゃんと言葉でも説明しろ」

「見た方が早い」


 うわーと思いながら見送ったが、そう言えば自分も同じ行動したなと遠い目に。幼馴染が相手だとしても言葉で説明する癖をつけよう、と心に決めて、ちらりと視線をおまけに向ける。


「で、なんでお前きてんの?」

「えっ俺が自主的に来たと思った? 間違ってないけど」

「だろうな!」


 はは、と軽く笑う男は悠司さんの息子で、俺と凜の幼馴染の聖司だ。悠司さんと同じ系統のスポーツ爽やかイケメン野郎である……びっくりするぐらい俺の周りはイケメンだらけだ。俺も素材は悪くないと自負してんだけど、父さん達と並ぶとどうしても霞んでしまう……別にモテたい訳じゃないが、かなり複雑な気分になる……。

 閑話休題。


「関わった方が良いかもって直感したから。着いてきたんだ」

「マジか。そうなるとデカい騒ぎになるのか……」

「おまえ、俺の事トラブルメーカーとか思ってる?」

「トラブルに頭から突っ込むからだろーが」


 「直感」とは、確認はしていないものの十中八九聖司のスキルだろうというもの。このスキルによって聖司は時折トラブルに巻き込まれた。問題は、自分から突っ込んでいく事で……器用だから上手く立ち回って解決するのだけど、傍から見てる側としては気が気じゃない。此方側の身にもなって欲しいのだがな!


 それは兎も角……回帰の日から、この世界はいろんなものが変わった。その中でも異彩を放つのがダンジョンとこのスキルだ。

 そもそも回帰の日、ってのを説明した方が良いんだろうけれど、確実に長くなるので後回し。要は、それまでファンタジー要素のひとつもなかった世界で、突然ファンタジーが現実になった日と思えば良い。

 スキルとは、この世界に生きる全ての生物に与えられた力だ。生まれた時から持っているものもあれば、訓練する事で身につくものもある。

 「直感」は勘のいい人なら魔物と戦う内に取得出来る事もあるので所謂レアスキルの括りだけど、聖司のは生まれつきな上に、一般的なものより広く事象を感じる事が出来た。これを「固有スキル」と呼ぶ。

 ……まあ、ちゃんと鑑定した訳ではないからカッコカリが付くんだけど。

 でも精度は半端ないから、たぶんこのあとダンジョン関連でひと騒動が起こるのはほぼ確定だろう。


「大丈夫だって。あの二人ならなんとかするだろ」

「本当かよ〜……」

「聖司が言うなら大丈夫でしょ。特に悠司さんは伝手も多いから、ちゃんと対策してくれるって。ね?」

「姫」

 いつの間にか居なくなってた凜が戻ってきたと思ったら、きっちり着替えてきてやがる。そしてそんな凜を見て、聖司は背景に花をぶわっと咲かせた。……そのくらいの笑顔になった。

「あのねえ、いい加減その姫呼び直して欲しいんだけど?」

「済まない。けれど私にとっては前も今も姫だよ」

「はいはいすえばくすえばく」

 一人称すら変わった聖司が凜の手を取って騎士のアレをするもんだからチベットスナギツネ顔になる俺。因みにすえばくは“末永く爆発しろ”という呪いのような祝いの言葉である。

「ほらーまたバン兄が魂飛んじゃったじゃない」

「お兄様には慣れがなかなか来ないねえ」

「誰がおにいさまだ!」

 いや、いずれは来る未来なんだろうが。何せこの二人は、前世の頃から一緒になる事を約束していたらしいので。

 今のうちにいっておこう。この二人はリンカーである。


 リンカー。リンカーネーションの略語。つまるところ、前世の記憶を持って転生して来たひと、という意味。

 前世で二人はどうやら聖女と賢者という立場で、恋仲だったらしい。だけど結ばれる事はなく……と言うか、そんな暇がないくらい世紀末だったらしく、生まれ変わってまた出逢えたら今度は一緒になろうと約束していたらしい。なのでこの二人は出会った時からほぼこの状態である。良いんだけどな、俺も昔から変な所が子供っぽくなかったらしく、大人の思考回路がある二人くらいが丁度良かったみたいだし。


 リンカーは基本的に産まれた瞬間から転生したとは判る訳ではないらしく、記憶はあるんだけど子供のうちは理解できずに過ごすらしい。十年くらいかけてそれが前世の記憶であると徐々に理解していき、丁度その年に学校でリンカーの事を学ぶ。もしもそんな記憶があれば、先生か両親にお話しするように、と言われるのだ。そして大抵は素直に伝えて、リンカーとして登録される。


 ただ二人は物心ついた時から前世を理解していたらしい。だから大人びていたものの前世では子供時代など無いに等しかったらしく、幼児時代は正義感は強いけどヤンチャな子供を堪能していた

。らしい。俺の方がちょっと浮いてたとか言われてなんとも……。


 その後凜が席を外し、俺と聖司は座って話していたら、フラフラした悠司さんをワキに抱えて父さんが戻って来た。ソファに座らされた悠司さんは顔を覆って長い溜息をつく。


「どう言う事だ……」

「俺も先程知ったから判らん。だが即座に手を打たないと面倒な事になる。協力してくれ」

「……まずい」

 はっとした後、悠司さんがぽつりとつぶやいた。

「どうした」

「道東支部が最近ダンジョン検索魔機を購入したと報告があった」

 俺達はぎょっとして悠司さんを見る。

「中古だから起動までに時間がかかると言うのが幸いしたな」

「……いつ頃起動すると思う?」

 父さんに問われて、悠司さんが天井を仰いだ。

「連絡が来たのは先週検索魔機で未発見のダンジョンを見つけていたと報告があったからだ。海にあったからあまり騒ぎにならなかったが……起動した分の魔力を補充するのにあと数日かかる筈だ」


 ダンジョン検索魔機の正式名称はダンジョン検索魔法機器。ダンジョン産のエネルギーによって動く機械で、ただの機械との差別化の為に魔機と呼ばれている。中々に大きい装置で、魔石やエーテルで魔力を補充させて発生したダンジョンを探し当てる。ただ広範囲を検索するのを優先しているから、精度はとても低い。滅茶苦茶高いらしいが、大規模なギルドには大抵置いてある。

 大体の場所を割り出した後は手持ちの検索魔機を使う。小規模範囲だけどダンジョンの位置がより正確に判るし、ダンジョンを発見したらギルドから褒賞が出るから探索者が個人で結構な数を所有してて、ダンジョンが発生すると仲間とこぞって探しに行くらしい……。


 因みに海ダンジョンが重要視されないのは、海を生活圏とする種族が居るから。……これも説明がとっても長くなるから、後回し。まあそもそも人間はまだ水の中を長時間居られないので、そちらに任せっきりなのだ。


「検索魔機を使う事自体は悪い事じゃないが、このタイミングでは最悪だな……仕方ない、前倒しになるが話を進める」

 話とは、と俺が首を傾げてると、父さんが悠司さんに問いかけた。

「大丈夫なのか」

「数週間前に日本に戻って来たと連絡があった。彼は恐らく大丈夫だろうが……出来れば奥方にも話を付けておきたかったな」

「繋がらなかったのか」

「相変わらずダンジョン攻略に連れまわされているらしい」


 相変わらず主語はないがなんとなく判った。悠司さんは助っ人を呼ぼうと頑張っていたらしい。知ってたか? と誠司に視線を向ければ、こいつは笑って肩を竦めた。……聞いてないけど何となく行動していることは把握してたっぽいな。


 何処かに電話をかけようと、悠司さんがスマホを取り出して操作し始めた頃、母さんが飲み物を持って来た。


「聖司くん、夕飯食べてく?」

「あ、そうですね、ご馳走になります」

「じゃあ連絡しておいてね。万浬、急いで作りたいから手伝って」

「りょーかい」

「俺も連絡したら手伝います」

「おねがーい」


 母さんに言われたのでよいしょと立ち上がった。

 ちなみに万浬は俺の名前で……そう言えば自己紹介をしてなかった。


 俺は万浬ばんり、白山万浬。

 北海道の東側、回帰の日以降も辛うじて生き残った梛土守なてす町に生きる一市民です。今後とも宜しく。



読んでくださりありがとうございます。

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