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09_突撃、隣の魔王城 ③


「俺の右手はスタンガン!」


 地のソルと同じように床すれすれをすっ飛ぶように跳び、魔王配下四天王のひとりである水のロゼに右手を叩き込んだ。


 背丈の差とか、もろもろの事情もあって私が彼女の右のおっぱいを鷲掴みにしてしまったことには悪気はない。


 もっとも、彼女、ロゼはそれどころではないだろうが。なにせ100万ボルトをぶち込まれたのだ。いかに魔族とはいえ簡単に耐えられるものではない。それも私みたいな幼女が、勇者しか使えないと云われている雷魔法を使うとは露ほども思っていなかったはずだ。


 ただの駄々っ子パンチと思ったものが、とんでもないものだったのだ。まさに真正面から丸見えの不意打ちだ。


 結果、彼女は纏っていた水の防御シールドが崩壊して、水浸しの状態でひっくり返り、麻痺状態に陥っていた。


 ……あ、なんというか、そうか、いろいろと筋肉が麻痺して弛緩しちゃったから。


 ロゼは無様に仰向けにひっくり返りながら、シクシクと泣き出した。


「あー、いや、その、なんだ。ごめん」


 とりあえず謝っておこう。






 ややあって、ふたりは私の目の前で座っていた。地のソルは三角座りで。水のロゼは正座で。


 ソルが三角座りなのは、私がぶん殴った脛の関係だ。腫れあがっている為に正座ができないのだ。幸い、骨には異常はないようだ。


 ふむ。ひとりは土塗れ、ひとりはずぶ濡れ状態。このまま説教するのもアレだな。


 これ見よがしにパチンと指を鳴らす。ちなみに、この体は指パッチンがまだできないため、演出の為だけに魔法で音を出すという、無駄のない無駄な魔法の行使をしている。


 結果、ふたりの姿はたちまち綺麗になった。


 俗に云う、生活魔法というやつだ。クリーンなんて名称がついていたりするアレだ。


 うむ。汚れやらなんやらは取れたな。髪の毛がぶわってなってるけど、そこはご愛嬌というやつだ。


 突然の自身の変化にふたりが驚いているが、説明は後回しだ。先にすることがある。


 さて、それじゃあ――


「説教だ! ……といいたいところなんだが、なんでソルもそこに座ってるんだ?」


 私はソルに訊ねた。既に彼女は説教済みだ。


「いえ、お師匠さまのお言葉は響くものがあって為になるので、いま一度教えを願おうと思いまして」


 いや、なんで敬語なんだよ。隣りでロゼが不味いものを食べたみたいな顔をしているぞ。


 まぁ、いいや。説教開始だ。


 説教、というと“叱りつける”と受け取られるかもしれない。が、違う。


 読んで時の如く“教え説く”のだ。


 なにを教えるのかというと、戦い方だ。


 うむ。ソルにしろロゼにしろ、実にもったいないのだ。戦い方がなってないといえる。己の能力を前面に押し出した戦い方をするのはいい。


 頭に“地”、“水”とつくほどにそれに特化した能力持ちの魔族なのだから。


 ただ、それが生まれつきある程度強力であったからか、或いははじめて思いついた運用法でこれまで負け知らずだったからなのか、そんな理由で己の力の研鑽を一切行っていないのだ。


「そんなんだからダメなんだ。本来、四天王の中ではあんたが最強なんだぞ!」


 と、ソルに云い放ったら号泣される始末。……どういう理由で泣いたのかは不明だが。己の不甲斐なさに泣いたのか、それともこれまで他の四天王に散々無能呼ばわりされていたのに、ある種認められて嬉しかったのか?


 さて、どっちだろ?


 実際、地の能力なら、質量兵器を錬成できるのだ。数百トンの巨大な鉄塊を生み出して勇者の頭上へどーん! ってやれば、それで終わる。あれだけ連続で石を錬成してぶっ放していたんだ。修行し技量をあげればそれくらい簡単なはずだ。


 そしてロゼだが。


「なんであんたあんな簡単に感電してんだよ」

「水なんだもの! 雷なんて止められるわけないでしょ!!」


 がなるお色気ねーちゃんに、私はじっとりとした視線を向けた。もちろん、口元は失望でへの字に曲がっている。


「水は電気を通さないぞ」


 私は衝撃の事実をいってやった。


「は?」


 ロゼは目をパチクリとさせた。


 水、正確には純水だな。不純物の一切ない水。純水、あるいは超純水というそれは、電気を通すことはない。一種の絶縁物質だ。


 水が電気を通すのは、そこに含まれる通電性のある不純物のためだ。


 まぁ、超純水なんて自然界に存在せんしな。知らないのも当然か。だから水は電気を通すものと思い込んでいたんだろうなぁ。


 水を圧力で固めて鎧にするのはよかった。多分、その水が超純水であったなら、自然の雷でも防げたと思う。電気はもとより、恐らくはその衝撃も。


 そもそも勇者は雷の魔法を使うんだから、それの対策をしないとあんたただの雑魚キャラだぞ。実際、ゲームだと雷魔法だけで完封できたし。


 ……それを考えると、電気無効のソルって勇者キラーなんだよな。味方に散々蔑まれたせいで自己肯定感がボロボロだったから、勇者の前には負け犬メンタルで立ち塞がって、ゴリ押しで殴られて終わったわけだし。ゲームだと。


 そんなわけで、約30分ほど説教をし、魔王城をテクテクと進む。


 驚くほど人がいないな。……いや、気配はあるから、私が進むに合わせて避難しているんだろう。


 そしてソルに続いてロゼも私に従うように後ろを歩いている。


 ロゼもなんか私をお師様とか云いだしているし。いいのか? こんなおかしな幼女を師事して?


「あの、お師匠さま、先ほど私が四天王最強と、あり得ないようなことを仰ってましたけど」

「えっ!?」


 ソルが訊ねてきた。その隣りでロゼが驚きの声をあげている。


「戦闘能力だけで考えたらソルが最強だよ。どうも戦闘能力の序列を――


 1:火。2:風。3:水。4:地。


 って考えてるみたいだけれど、実際は――


 1:地。2:水 ≒ 3:風。4:火。


 となるよ」

「は? フーが最弱!?」

「うん。火のフーが最弱だ。理由は質量攻撃ができないってこと。そして力押しの攻撃しかできないってこと。要は攻撃のバリエーションがないから、簡単に見切られてそれで終わる。はっきり言って無能。

 ソルは相手が避けられないように逃げ場を封じて、そこに巨大質量を放り込むだけで敗けようがない。

 ロゼは水の特性を生かせば、いくらでも殺傷力の高い攻撃ができる。高圧で砂入りの極細水流を放てばウォーターカッターになるし。そんなことせずとも、相手の頭部だけを水球で覆えば窒息して終わる。

 風も……まぁ、火よりはいろいろできるしな。惜しむらくは気体操作じゃないんだよなぁ。だからこっちも攻撃が単調になるんだけど。でも突風をぶつけるだけでもどうにかなるし。うまくやれば鎌鼬を発生させられるかな。一番なのは、砂を含んだ暴風をぶつけることだな。いわゆるサンドブラストだ。喰らった者は全身をやすり掛けされたようになって……死ぬ」


 私の言葉にふたりは唖然としているようだ。ついてきてはいるけれど、ひと言も言葉がでてきてない。


「で、では、フーは?」


 火、火かぁ。あれはなぁ。ゲームだと能力任せの完全な脳筋なんだよなぁ。しかも遭遇時点も後半だから、勇者も育ち切ってて雑魚に毛が生えた程度の様だったし。


「火は強くはあるが、アレはその強さにかまけて一切の研鑽を放棄してるよな。傲慢ここに極まれりというものだ。救えない。まったくもって救えない。だから弱いままだ。たかだか1000度くらいの温度しか出せず、その上それはほぼ瞬間的でしかない。簡単に盾で散らされる。継続して延々と燃やし続けることもできないとあれば、クソの役にも立たん。良くて焚き付けだ」

「うわぁ……」

「酷い評価」

「実際、ロゼはやろうと思えば完封できるだろ? 圧倒的水量で押しつぶせば終わりだし、ウォーターシールドで火は簡単に抑え込める。ソルだって、クロムでもチタンでもタングステンでもいいから、デカい球なり立方体なりをぶつけてやれば終わりだよ。それらは1000度程度じゃびくともしないからな。まぁ、それができるようになるまで訓練をしなくてはならんが」


 立ち止まって後ろを振り向くと、ソルとロゼは顔を見合わせていた。


 とりあえず、意識改革のための種は蒔けたかな。彼女たちには、是非とも勇者を討ち取って欲しいからな。


「そうだ。次の風のミストラルだが、砂と氷だけで勝って見せよう」


 そう云って、私はふたりにニタリと笑んだ。


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