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08_突撃、隣の魔王城 ②


 塩を振っただけの猪肉に、人参と蕪を生のまま丸齧り。


 これが本日の朝食だ。こんな場所では調理などできんからな。


 肉はともかくも、人参と蕪を生で齧るのは少しばかり辛いな。野菜嫌いと云うわけでもないが、根菜を生で丸かじりは地味にきつい。サラダにするにしても、スライスして食べているからな。


 まぁ、それも今日くらいだ。今日一日で目的は達成できるだろう。


 ただ、まともに会話のできる人物と遭遇できるか心配ではあるが。


 リザードマンどもを封じた豆腐建築を見る。


 城の前に来ただけで殺そうとしに来たしなぁ。


 最悪、魔王様のところまで行けばいっか。最終決戦前の会話は定番だ。……いや、私は勇者じゃないんだから、決戦なんぞせんが。


 なんで道を訊くのにこんな苦労をしなくちゃならんのだ。


 顔を顰めつつ。閉ざされた大扉を見る。まさに見上げるほどの大きさだ。4、5階建てのビルくらいの高さがあるんじゃないか?


 脇に通用門らしきものも見えるが、まぁ、施錠されているだろう。


 よし。跳び越えるか。一度城壁の上に乗って、そこから飛び降りればいいだろう。


 それじゃ、あの豆腐建築に扉となるように壁を切ってと。


 ……よし。これで蹴っ飛ばせはあそこから出られるだろう。


 では、お邪魔するとしよう。


 荷物をすべてインベントリに放り込む。装備も問題なし。


 私は軽く膝を折り、力を溜めて――一気にジャンプした。


 おぉ、さすがは【必要なだけ】だ。いい塩梅に城壁の上にスタッと立てる程度の高さに跳べたよ。


 こうして私は城内……じゃないな、城壁を突破した。


 目の前には美しく整えられた庭。城へとつづく煉瓦敷きの通路に計算されつくしたように植えられた庭木が美しい。


 もちろん、手入れに手抜かりはないようだ。


 彫像がいくつか置かれているが、これらには配置の法則性はないのだろうか? いや、一応は左右対称となるような位置に設置されているようだが、片方だけの場所もある。


 ふむ、像も1体1体違うようだし、アレだ、某国のノーベル賞受賞者の胸像を並べるような感じだのだろうか。


 む、台座にプレートが嵌めこまれているな。名前と……功績か。


 ほぅほぅ。戦争関連だけじゃなく、文化的なことで実績を上げた者もいるんだね。これ、人間の社会よりも、遥かに文化水準が上なんじゃないの? あっちなんて歴代の国王とか、戦争で功績を上げたような人物くらいだぞ、銅像が建てられるのって。


 と、いくら綺麗な庭だからって、散歩してちゃいかんな。とっとと城内に入ろう。


 城の、これまた門同様に大きな扉の前にまで進む。当然だが閉ざされている。


頼もう(たーのもー)!」


 とりあえず声を張り上げてみる。「ごめんください」の方が良かったか? まぁいいか。どうせきっと開かない。


 数分待ったが反応はなにひとつ返ってこない。


 よし。押し入ろう。こっちはただ訊ねに来ただけなのに、殺されそうになったわけだし。……死ねないけど。だが、そんなことは向こうは知らないし。普通、槍で突き刺されまくったら死ぬものだ。連中がやったことは殺人未遂といっていいだろう。


 少なくとも文句のひとつも云ってもいい筈だ。


 ということで、開門。


 左右の門扉それぞれに手を置き、ぐいと押す。あまりの重さに扉はビクともせず、足がずるずると滑るだけだ。


 仕方ない。魔法で足が滑らないようにして、せーのっと!


 再び力を込める。それに合わせ【必要なだけ】が仕事を開始する。


 ミキメシと嫌な音は聞こえ始め、最後にバキリと弾けたような音が聞こえた途端、急に軽くなった扉がバーンと開いた。


 閂がはまっていたみたいだ。だがそれをものともせずへし折り扉を開ける【必要なだけ】の幼女パワーに、呆れながらもあらためて驚愕する。


 勢いよく開いた高さ3メートル程の扉は、どがんと壁にぶつかり跳ね返って少しばかり閉まったところで止まった。結果、半開きのような状態となったが、私ひとりが通るには十分な程度には入り口が開いた。


 扉の向こう。そこは広い玄関ホール。ロココ調だかバロック調だかわからないが、凹凸の装飾のある太っとい柱が左右に4本まっすぐに並んでいる。


 そして床にはテンプレのような、縁に金糸? の装飾の施された紅い絨毯。


 最後に、ホール中央に仁王立つひとりの女性。


 なんだか凄い格好だな。いや、これは装備……装備か? あれ。能力で創り出してないか?


 女性。実用性をガン無視した儀礼用の薄型のスーツアーマー(兜は無し)を装着し、更にその外側に、いわゆる外骨格的なものを纏っている。


 いや、纏うじゃなくて、乗ってるだな。


 SFホラーの金字塔とも云える、異星生物との戦いを描いた映画のクライマックスシーンで、主人公が決死の抵抗の手段として乗った作業用の外骨格。確かパワーローダーだっけか? あんな感じだ。


 でもあんなもん、ゲームにあったっけかな?


 僅かに首を傾げていると、女性は微妙に鈍い動きでポーズをとると、口上を上げる。


「はははは。よくぞ来たな、勇者よ。ここから先は、私、魔王配下四天王、地のソルが通しはしない」


 あれ、四天王、なんで城にいるんだ? 火、以外は各地に散っているんじゃなかったっけ?


 ……?


 あぁ、そうか。まだ勇者がまともに活動していないってことかな?


 おっと。


 ぴょん! と、左に一歩跳ぶ。直後、いままで私が立っていたところにソフトボール大の石が着弾した。続けて飛んでくる石をひょいひょいと避ける。


 ガションガションと地のソルがこちらに腕を向け、外骨格の腕のから石を連射していた。


 連射、といってもその回転力は微妙だ。ものすごくすっとろい。もうちょっと連射速度をあげないと、機銃的な使い方をしても意味ないと思うぞ。


 麺棒をしっかりと両手で持ち、すべての石を逸らすように弾いていく。打ち返したりはしない。別に私は殴り込みに来たわけではないのだ。下手に打ち返して、壁とか天井に傷をつけるわけにはいかないのだ。


 魔王配下四天王、地のソル。四天王の中では最弱、などと作中では他の四天王にバカにされているポジの存在である。が、実際の所、もっとも勇者を苦しめる四天王である。


 ゲームには進行するにあたっての適正レベルなんてものがある。開発側は、プレイヤーの進行度などを見越してゲームバランスを調整していくわけだが、最初に相対する地のソルとの戦いはかなり厳しいのだ。


 別にバランス調整が失敗しているわけではなく、序盤に当たるともあって、プレイヤー側がレベル装備共貧弱な状態で戦うことがままあるのだ。結果としてまず敗ける。なのでレベル上げをして再戦となるのが普通だ。


 結果、後の四天王戦では十分に準備してから戦闘に入るようになるため、ソル戦のような苦戦はなくなるのである。それどころか最後の四天王、火のフーなど片手間で倒せたりもするのだ。


 序盤とラス前を同列に考えるのはナンセンスなのだろうが、いわゆるレベルで強さを測るのであれば、確かにソルは最弱なのだろう。


 なのだろうが……。


 能力を考えると、絶対に最強なんだよなぁ。まぁ、見たところ他の連中に虐げられてるのか、戦い方が迷走しまくってるけど。


 なんともったいない。


 さて、こうして遊んでいても時間の無駄だ。無力化しよう。


 タイミングを見計らい、石をふたつ選んで打ち返す。狙いは砲塔と化している外骨格の腕の砲口部分。


 普通ならそこへジャストシュート! なんて出来る訳がない。だが、私ならば可能だ! なにせそれができるだけの必要な能力へと自動的に調整されるのだ。


 即ち、出来ないことがない。それが奇蹟的な事であっても、絶対不可能な事象でない限り。


 砲塔が詰まり、両腕とも機能が停止した。暴発こそしなかったが、その腕には細かなヒビが入りソルは動揺した。


 その間を見逃さず、私は一気に彼女目がけ走り、跳ぶ。まるで床上を水平に滑るように。


 一気に近接した私に気付き、彼女が顔を強張らせたのが分かる。だが遅い。この一撃で決める! 伸ばした左足で着地し、勢いそのままグルンと腰で上半身を回転をさせ麺棒を振りぬく。


 それこそ、往年のホームランバッターのように!


 さぁ、喰らえ!


「弁慶の泣き所アターック!」


 ばがんっ!!


 思いっきり彼女の右脛を麺棒でぶっ叩いた!


 外骨格の足はへし折れ、レガースは潰れ、そして――


「いぎゃあああああああっ!」


 彼女の悲鳴が響き渡った。






 地のソル。彼女は持ち前の能力で外骨格を作っていたのだろう。脛の痛みにのたうつに従い、その外骨格はぐずぐずと崩れてただの土くれになってしまった。


 そしてその土くれの上でうーうー呻いている彼女。


 脛を抑えると痛みが酷くなるためか。膝を両手で挟んで泣きながら歯を食いしばっている。


 やがて、私が側に立っているのに気付いたのだろう。一瞬、ギョっとした表情を浮かべたかと思うと、気丈にも私を睨んできた。


 ちなみに、私はというと、両手をだらんとさげ、コクリと首を傾いだポーズ。


 その右手には麺棒、左手には持ちやすいようにちょっと改良した大なべ用の蓋。そして頭には両手鍋という滑稽な恰好だ。


 ただ、その表情は目を見開いて、口はサメのような笑みをたたえる。


 そう、ちょっとホラーっぽい演出をした。


「くっ、殺せ!」


 ……まさかどこぞの女騎士な台詞がでてくるとは思わなかった。


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