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07_突撃、隣の魔王城 ①


 村を脱出した私が向かうことにしたのは、お隣さんだ。


 正直、ここは巨大な森林のど真ん中だ。普通にテクテク歩いていたのでは、さっくりと迷って野垂れ死ぬ未来しか見えない。


 ……いや、恐らくは私が死ぬことが出来ないのだろうが。


 ということで、私は予め進む方向を決めていた。


 まず、村の一番高い建物、教会礼拝堂の鐘楼部の天辺によじ登り、周囲を見渡した。

 下からでは高い樹木のせいで、周囲をうかがい知ることは不能であったからだ。


 そうして見えたのは、西方に存在する魔王城。


 うん。ゲームにくっついていたブックレットにあったイラストそのまんまだな。


 岩山の天辺をスパーンと斬り落とし、そこに斬り落とした山頂の代わりに、ほぼピッタリサイズにつくられた城。いくつもの尖塔が目立つ、なんともアンリアルなもの凄い作りの城だ。


 さらに凄いのは、そこに到達するまでの道。


 山肌に反って削り造られた道ではなく、切り立った細い曲がりくねった断崖の道が、魔王城から直線的に南東へ向かった伸びているのだ。


 ……なんで道幅サイズの細い断崖……といっていいのだろうか? まったく、無茶苦茶な地形にもほどがあるだろう。御伽話の魔王城とかだとありがちな道ではあるんだが。


 そういえば、魔王配下四天王なんてのがいたな。【地】の四天王が拵えたのだろうか?


 もしあれが自然生成物であるのなら、なにがどうなればこんな地形が生成されるんだ? と、首を捻るしかない。


 ま、そのあたりはファンタジーな世界なんだから悩むだけ無駄だろう。


 ということで、私は魔王城に突撃することに決めた。


 特に戦闘をするというような気持は欠片も無く、単純に道を訊ねるためだ。


 そんなわけで私は森の中、道なき道を突き進んでいる。


 なんか、やたらと魔獣に襲われた。頭どころか肩からも角を生やしているクマとか、牙と二本の角で刺殺さんと突っ込んで来る猪とか、やたらと踊り狂っている足の生えたカリフラワーとかが襲ってきたが、すべて麺棒で殴り倒した。


 どいつもこいつも一撃で完了だ。


 ……“必要なだけ”は、チートなんて安易な言葉では足りないレベルで反則じゃないか?


 まぁ、おかげで時間を無駄に使わないから助かっているが。ついでに食糧が充実していってもいるが。まさか肉だけではなく、野菜まで向こうから来てくれるとは。


 デザートになりそうな魔物とかいたっけかな? フルーツ的なの。


 いかんな。他のRPGのモンス知識が混じっているせいで、まともに思い出せん。


 まぁ、いいだろう。無くても問題無かろう。ビタミン補給用に、村の畑から収穫してきた野菜が結構な量あるからな。


 相も変わらず気味の悪い紫色の靄と、ひざ丈ほどの下生えの草木を掻き分けつつ森を進む。


 そういや某小説だと、こういった森にはグールが生息していたりするんだよな。あの話だとグール……いわゆる屍喰いはアンデッド扱いじゃなく、人型の生物……人類の亜種? みたいな扱いだったな。


 ……いないよな?


 アメリカのUMAだか都市伝説だかの、レイクみたいな姿の人型生物とか遭遇したくないぞ。普通に気持ち悪いし気味が悪い。


 ホラーじみた化け物は、例え倒せるとしても遭遇なんぞしたくない。


 なんだか急に怖くなって、無駄にびくびくしながら歩いていたのが悪かったのだろう。


 目的地、というか、目的地に通ずる左右が断崖の道へと着くのに2日かかった。


 ……まぁ、野宿の際には、防犯用に作った各種魔法の実験ができたからいいか。


 朝、目が覚めたら大量の魔獣の死骸が転がっててビビったが。


 インベントリ内の食肉が充実していくばかりだ。


 山の天辺を坂道の入り口から眺める。


 ……偉い遠くないか?


 まぁ、斜度がかなり緩やかだからだろうが。この幅5メートルくらいの断崖の曲がりくねった道はどのくらいあるだろう?


 ……普通に数十キロとかありそうなんだが。


「千里の道も一歩から、っていうしな、歩き出さなきゃ到着せん」


 声に出し、私は緩やかな坂を登り始めた。


 最初は快適だった。だがある程度進んだ……高度が上がった辺りから厳しくなってきた。だいたい6時間くらい経過したころかな?


 風が強くなってきた。


 そりゃ吹きさらしの状態だし、多分地上から数百メートルくらいの高さにはなっている場所だ。


 そんな高さなら風も相当なものとなるものだ。まぁ、私は風が冷たいと感じたあたりから、自身の周囲に魔法の防壁、バリア、結界、なんといってもいいが、そう云ったものをドーム状に張り巡らせて風除けとしている。ついでに温度の極端な低下も防いでいる。


 そしてこの辺りから飛行型の魔獣も現れ始めた。


 鷲みたいな鳥形のものは当然として、ステレオタイプの下っ端悪魔みたいのがブンブンと飛び回って攻撃して来る。あぁ、でも、頭はなぜか鶏だな。ピンクの鶏冠が妙に私を苛立たせる。


 鳥は投石、悪魔は槍を投げて来る。ちなみに、鳥は最初に突撃してきたわけだが、展開していたバリアに激突して地上に落下する仲間を数羽見てから、投石に攻撃が切り替わった。


 意外に頭が良いようだ。


 放っておいてもバリアのおかげで問題ないのだが、ガツンガツンととにかくうるさい。


 さすがにこんな不協和音を聞かされ続ければ、増々苛々も募るというものだ。


「……殺すか」


 ため息をついてひとつの魔法を発動する。


 それはとあるゲームで見たものだ。もっとも、そのゲームでは魔法ではなく、鹵獲した異星技術をリバースエンジニアリングして造り上げた、まさに謎技術な精神誘導レーザー兵器とかいうもので、そのなかでもとりわけ訳がわからんものだ。


 簡単に云うと、エネルギーの塊を任意の空間に設置し、その塊から誘導するレーザーが四方八方に撃ちだされるというものだ。


 うん。セントリーガンとかタレットなんていうもののエネルギー版だな。


 こいつを魔法で再現した。ただ、空間に設置するとそこに置いて行ってしまうので、ちょっと改良してバリアーの天辺に設置し、設置点より下方へは魔法を撃たないように設定して発動。尚、弾数は1000発だ。2、3分で撃ち切るだろうが、その都度設置し直せばいいだろう。


 自動攻撃だから放置出来てらくちんだ。


 ははっ。こんなの、正統魔法原理主義の魔法使いギルドの連中が見たら卒倒するだろうな。


 一発一発の威力は弱いが、空中にいる奴には十分な威力を発揮する。だってそうだろう? 飛んでるところに打撃を受けるのだ。それも連続で。簡単にバランスを崩し、失速して落っこちる。


 唯一残念なところは、死骸を回収ができないというところか。悪魔はともかく、鳥の方は使いようのありそうな素材があるんだけどな。肉は臭くて食べられなさそうだけど。


 そうして朝方から歩き通して、陽が傾き始めた頃にやっと城に到着した。


 嫌な予感がしていたので、ほぼ競歩の側で歩けるように魔法で身体強化していたのに、約12時間もかかるとは。距離にして40キロ以上あったのではないだろうか。


 距離に対しかかる時間ががおかしい? 幼女の足の長さを考えてくれ。


 とはいえ、時間も時間だ。城も門が閉まっている。


 幸い、門の前はそこそこ広く、日本の学校の校庭程度の広さはありそうだ。ここで一晩野宿して、明日朝一番に突撃しよう。


 バリアは展開したまま、荷物を降ろし、野営用の敷物を敷いて、そこに座り込む。煮炊きをするにしても薪なんてものはさすがに持ってきてはいない。だから食べるものと云えば――


「猪に塩振って喰えばいいか。水は十分あるから問題も無しと」


 村長の家と一緒に焼いた猪の肉を夕飯にすることにする。


 そうやってモリモリと食事をしていたら、魔王城の門番と思しき連中が槍を手にして攻撃してきた。


 随分と物騒だな。こちとら幼女だぞ。いきなり槍で刺し殺そうとか酷くないか?


「こんばんわ! ちょっと道を訊ねたいんですけど!」


 この有様じゃ無駄だろうなと思いつつ、訊いてみた。


 ガン! ゴッ! ガッ!


 あー、うん。ダメだね。まったく聞く耳を持たないよ。


 一応、世人男性並みの体格をしたリザードマンたちだけれど、言葉は通じている筈だ。死ねだのなんだの騒いでるし。私が連中の言葉が理解できている時点で、同じ言葉を話しているのは明白だ。


 よし。やるか。


 とはいえ、こいつらを殺したりすると完全に敵対状態になりそうだ。


 無力化しよう。


 地球の知識は素晴らしいなと思うと同時に、どんだけ物騒だったんだと思いもする。


 ノンリーサルウェポンの一種に、スタングレネードというものがある。


 いわゆる閃光手榴弾というやつだ。強力な光と大音量により、対象を無力化するものだ。この光と音というのは、生物の生存本能あたりに影響を与えるらしい。簡単にいえば、夜、車に轢かれそうになったりすると、ヘッドライトの光と急ブレーキによるスキーム音により、身が竦んで動けなくなるだろう?


 そいつを意図的に、それこそ視力を奪い、混乱させ、完全に行動不能にするのがこのスタングレネードだ。心臓の弱い人やお年寄りは、ショックでぽっくり逝ってしまうこともあるそうだ。


 ということで、こいつを魔法で再現した代物を敵集団のど真ん中に放り込む。もちろん、私はバリアに遮音の効果を追加し、目は左手で塞いだ。


 そういや、これって対人用の代物だけど、爬虫類由来のリザードマンにも効くのかな?


 ほんの1、2秒待ち、塞いでいた左手を目から除けた。


 リザードマンたちは皆うずくまって、小刻みに震えていた。何人かは失神しているみたいだ。……失禁脱糞してるのもいるな。


 泡吹いて痙攣してるのもいるけど、生きてるよな?


 魔法で確認し、生きていることに安心する。


 とはいえだ。


 このままだと、回復次第また攻撃してくるだろう。害はなくともうるさいのは頂けない。


 連中を魔法でちょっと離れたところに集め、そこに豆腐建築的なものを土で造り上げて隔離する。牢みたいなものだ。出入り口はないから出られないし、徹底して固めてあるから砕けもしない。もちろん、窒息したりしないように、空気穴をつけておく。


 少々寒いかもしれないが、吹きさらしの中に拘束されるよりはマシだろう。


 あと汚物の処理もしておかないと。その部分の地面を掘り返してひっくり返すようにして埋める。もちろん魔法でだ。






 さて、明日は……うーむ。道を訊きに来ただけなのに、波乱なことにしかならんとしか思えん。


 まぁ、いまから悩まし気に考えても仕方あるまい。


 とにかく、今日も歩き通して疲れた。とっとと寝てしまおう。


 私は毛布代わりの毛皮を引っ張り出すと、それに包まるようにして横になった。


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>それはとあるゲームで見たものだ。もっとも、そのゲームでは魔法ではなく、鹵獲した異星技術をリバースエンジニアリングして造り上げた、まさに謎技術な精神誘導レーザー兵器とかいうもので、そのなかでもとりわけ…
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