表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

06_脱出のための冴えたやり方?


 正統魔法のすべてを一晩で覚え、翌日の昼過ぎに村長宅を焼いた。


 本当は朝起きたらすぐに焼こうと思っていたのだが、『あれ? 動物を狩って、まるごと家に放り込んで焼いたら簡単に丸焼きになるんじゃね?』などと阿呆なことを思い付き、自分を餌に森から獣を呼び寄せて狩った。


 狩れたのが肉食獣ではなく、雑食の猪だったのは幸運というべきだろうか?


 とりあえず血抜きをして毛皮を剥ぎ、内蔵を抜く。そして移動できる範囲内で採取できた妙にでかい葉っぱで包んで村長宅へ。


 あとは【炎】の魔法で火を点ければ完了だ


 さて、魔法の習得だが、あっさりと身につけられた。


 なるほど、これが“必要なだけ”の効果ということか。


 魔法を覚えるのに最適な数値に私のパラメータが変動したのだろう。


 チートどころじゃないな。私は完全に得体の知れないナニカじゃないか。


 まぁ、正統魔法はこんな感じにすべて覚えた。とはいえ、本当に攻撃用の魔法ばかりだが。いわゆる四大属性魔法というやつだ。地、水、火、風、の系統のオーソドックスなもの。一応、雷の魔法もあるが、こちらは勇者専用、ということになっているため、魔法書が存在しないため覚えてはいない。


 そう、勇者以外にに使える者はいないハズなのだ、この世界では。魔王でさえも。


 だというのにあの婆さん。邪道魔法でしっかり作っていたよ。素直にすげぇなと感心したわ。


 雷なんて現象、この世界の文明レベルでは理解できることではないだろうに。なにをどうやったんだか、どっかの皇帝みたいに手からバリバリと電撃を放射する魔法が普通にあった。


 婆さんの作った邪道魔法の魔法書。というよりは、これ、【魔法の作り方】の解説読本といったほうがいいだろう。


 だが婆さんは残念なことに、完璧なまでにこの世界の住人であった。であるが故、造り上げた魔法も、ある種この世界の常識内に収まるようなものばかりだった。それも生活に役立つような魔法だ。畑を耕すとか、洗濯を楽にするとかいう類の。ゆいつの例外が雷魔法くらいだが、それも掌から放射するだけの代物だ。


 まぁ、対象に触れて魔法を発動すれば、それだけで対象は失神するだろうから、とてつもなく便利な魔法だけれども。


 まさに“俺の右手はスタンガン”な魔法だ。


 さて、そんなオリジナルの魔法を拵える技術である邪道魔法。当然私は、この頭にある恐らくは前世だかなんだかの知識を参考に好き勝手拵える。


 まずひとつめ。アイテムボックス、或いはインベントリの魔法。要は、空間を捻じ曲げて異空間の袋? を造り上げ、そこにいくらでも物品を保管する魔法。


 概念的なものが私の中に存在しているから、さっくりと作れた。というか、“必要なだけ”があまりにもチートすぎる。魔法作成の時だけ急激に知性と知能が上昇するのは、正直“最高にハイってヤツだ!”な有様なので、あまり経験したくはない。元に戻った時に、黒歴史が公開された状況のような気分になるのだ。


 ま、まぁいい。とにかく、この調子で作ろう。


 魔法を作るという実践練習は完了だ。


 ふたつ目。


 こちらが本番だ。この村から脱出するための魔法だ。


 まず作るのは転移、すなわちテレポーテーションの魔法だ。ちなみに、正統魔法のファストトラベル的なのは、唱えるとびゅーんと空を飛んで行く魔法だ。


 こちらもさっくりと出来上がった。


 とはいえ、これで脱出できるとは限らないため、同様の転移ではあるものの、少々毛並みの違うものも造り上げる。


 ということで、みっつ目の作成完了。


 あとは、脱出の準備が出来次第試すだけだ。


 これが失敗したら……あらためてなにか考えよう。






 それから5日が経過した。燻製肉はばっちりだ。一応保存食ではあるけれども、がっちがちに燻煙したものではないから、日持ちはそこそこだろう。とはいえ、インベントリなんて便利な魔法を拵えたからな。日持ちなんて考える必要なんてもうないのだ。


 村長宅を燃やして作った猪の丸焼きも放り込んである。……何日分の肉になるだろうな?


 食糧、魔法の準備が完了し、あまった時間でなにをしていたかというと、装備の吟味だ。


 私の特殊能力で、身に着ける物も絶対無敵になる。だから身に着ける物はなんでもいい。ただ、武具の類はその能力から外れるため、それらは除く。


 基本の恰好は、例の野暮ったい村娘スタイルのドレスに、商人の前掛けみたいなエプロン。着替えも数着あるが、色違いなだけですべてデザインは一緒だ。


 そこに、旅の為の装備を加えていく。


 まず頭部。ヘルメット代わりの鍋。使い込まれ、底部が黒く変色し微妙に凹んでいるお鍋ヘルムは、ゴッコ遊びの定番だだろう。ただ、鍋をそのまま被っていたのでは、防具としては頂けない。薄い鉄板1枚では頭にダイレクトに衝撃が来る。なので、中に小さい座布団をつっこんでクッションとした。


 胴部。こちらは革製のエプロン。そう、鍛冶屋の親父が仕事の際に身に着けている丈夫なエプロンだ。ただ、サイズが私にはまるで合わない。大柄な親父とちっこい幼女の体格さは大きいのだ。そのため、頑張って調整をしたものの、丈が足首近くまであったりする。

 なんだろうね。どうして焦げ跡のある灰色がかった革エプロンを身に着けるだけで、どこぞのホラー映画の殺人鬼みたいな雰囲気になるんだろうね。尚、ホッケーマスクの方じゃなくて、チェーンソーをぶん回す方だ。

 あたりまえだが人皮のマスクなんて被らないし、豚の頭の中身をくり抜いた被り物なんてしないぞ。


 脚部。というか靴。こっちは足場の悪い森を歩いても足首を傷めないくらいに頑丈なブーツだ。脛まで覆ってくれる。とはいえ、防具としてのハードレザーブーツというわけではないから、丈夫ではあるものの頑丈、というわけではない。これは鍛冶屋にあった革のストックを用いて、既存の鍛冶用の靴(足の甲の部分に鉄板入り)、いわゆる安全靴を改造したものだ。荒れ地を歩いていると、小石だのなんだのが靴の中に入って来るだろう? それを避けるためにブーツに改造したのだ。

 足の甲の部分は鉄板のおかげで頑丈ではあるが、ギリギリ武具の範囲には入らなかったようで、くたびれることを心配しなくていいのがありがたい。


 次に護身用の武器だ。


 普通に武器に分類されるものをもつと、壊れる可能性があるため却下だ。刃物は刃毀れする、槍は折れる、メイスはヘッドが外れるといった具合だ。斧? 斧はなぁ。多分、私が扱い切れない。それをいったら剣もだが、地味に扱いに技術がいるのだ。

 槍やメイスは初心者向きで才がなくともどうにかなるんだけどな。


 そんなわけで、絶対に壊れない仕様となる日用品を武器として装備をする。


 麺棒。パン生地を伸ばすのに使うあの棒だ。例のRPGの初期装備の“ひのきの棒”とにたようなものだ。もっとも、麺棒のほうが短いだろうが。

 個人的には物干し竿が欲しかったのだが、ここらの文化では物干し紐が主流のようで、物干し竿がないのだ。


 まぁ、麺棒は麺棒で扱いやすいからいいのだが、武器としてのリーチの短さが少しばかり不安だ。


 そして最後に荷物をいれるザック。


 インベントリを魔法で作ったから、本来なら不要なのだが、荷物を持たない旅人などいない。故にダミーとして意味合いが強いが、いちおう作っておいた。


 シーツを2重にして袋にし、紐で背負えるようにしただけの簡易的なものだ。中身は着替えと毛布代わりの毛皮と、携帯食としての干し肉のみだ。


 さぁ、これで準備は完了だ。脱出を試みよう。


 一応、脱出案はふたつ。


 まずひとつめ。テレポーテーションの魔法だ。


 ということで、ていっ!



 ばちぃぃぃんっ!!



「ぎゃぁああああああっ!」


 あまりの激痛に、私は顔を押さえてのたうち回った。






 暫し後。ようやく痛みが治まった。私の体は一切怪我などはしないが、痛みはあるのだ。……これ、即死級の激痛など受けたら、発狂するんじゃないか? いや、恐らくは発狂もできない。逃げ場がない。酷い拷問じゃないか!!


 くそぅ。転移ではこの見えない壁を抜けられないか。いや、転移といいつつ、正統魔法のファストトラベルと同系なのかもしれない。


 あっちは生身のままビューンと飛んで行く。こっちは……空間を転移ではなく、なにか別の形になって、それこそ光の速さで目的地に送り込んでそこで肉体を再構成するみたいな。


 昔の映画で人を電気信号にして、転送用機械から機械へ送るというサイエンスホラーがあったが、ああいう感じなのだろう。


 あの映画だと、人間とハエが混じってキメラ化していたが。


 うーむ。もうひとつの方法は上手くいくのだろうか? 別の空間、いわゆる異空間を介しての転移であれば、この忌々しい見えない壁を突破できるのだろうが……。


 かの青狸のピンクのドアのような魔法は作れなかった。どうにも異空間という概念が、私にはいまいち腑に落ちていないらしい。


 インベントリは作れたのになんでだ!?


 ……あれか、インベントリは異空間ではなく、空間をたわませて袋を作った、というような概念で作ったからか? なんかそれ臭いな。


 とりあえず、ふたつ目の方法も試してみよう。またのたうち回るような激痛に苛まれたりしなければいいんだが。


 インベントリからモヒカンオオカミを取り出す。こいつは一昨日狩ったヤツだ。その体格は私よりも大きい。体重も……100キロくらいあるんじゃないか?


 こいつの後ろ足をまとめて握り、ぶんぶんと振り回し始める。ジャイアントスイング……とはちょっと違うか。あっちは両の足を、左右の小脇に抱えて振りますプロレス技だ。


 十分に勢いがついたところで、ちゃんと見えない壁の向こうへ向けて――


「そぉい!!」


 モヒカンオオカミをぶん投げた。


 ……いや、むっちゃ飛ぶな。せいぜい2、3メートル飛べばいいと思ったんだが。あ、木にぶつかって落ちた。


 ぶつかった反動で、いい塩梅の所に落ちたな。よし、準備完了。


 次なる魔法を発動しよう。


「リプレイス!」


 一瞬、目の前の景色がぐちゃぐちゃに混ぜ合わされたようになったと思ったら、真っ暗になった。転移の時は映画なんかのワープの映像のようになったのにまるで違う。


 そして直後、視界が正常に戻ったと思ったら、私は森の中に立っていた。


 キョロキョロと周囲を見回し、今しがたまでいた村をみつけた。そして私が立っていたであろう場所には、首のへし折れてだらしなく舌を出したモヒカンオオカミ。そう、私が全力でぶん投げたモヒカンオオカミの死骸だ。


 私は目を瞬いた。


 あれ? 脱出成功? え? 失敗すると思ってたんだけど?


 目をごしごしと擦って、いま一度周囲を見る。


 うん。見間違いなんてことも無く、ここは森に入ったところだ。そして向こう、村の側にみえるのは、さっき森にぶん投げたハズのモヒカンオオカミの死骸。


 私は魔法を使ってその死骸を引き寄せた。一応五体揃ってはいるが、首元を割いて血抜きだけはしてある。


 足元にまで来たそれに手を振れ、インベントリに放り込んだ。


 私は顔を顰めた。


「転移はダメだけど、入れ替えは問題ないのかよ」


 いまいち論理がわからん。それとも冗談じゃなしにバグなんだろうか? まぁいい。とにかく、村から脱出することはできた。


 ともかく近場の人里へ行き情報を集め、ゲームには登場しなかった町なり村へ行くことにしよう。


 絶対に勇者と顔を合わせたりしないように。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ