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05_村から出られない


「嘘だろ……。村からでられない」


 あることに気付き、嫌な予感がしたため確認をしたところ、頭を抱えたくなる事態となった。


 ゲームにおいて、村人などのモブキャラというものは村や町からでることはない。出ていたとしても、壁の外ひとり分の程度の距離だ。


 嫌な予感がしてそれを確認すべく村から離れようとしたところ、壁から6メートル程度のところから進むことが出来なくなった。


 つまり、ここまでが村の範囲ということだろう。そして私は出られない。


 ……。


 こいつはヤベェ。大問題だ。


 私のこの状況は、神様的ななにかが設定したことだろうから、こいつを突破するのは至難やもしれん。


 だが、こいつがゲーム的な世界……でもないな。多分、世界は普通で、ゲーム仕様はゲームストーリーに関わる者くらいだろう。とはいえ、私くらいおかしな有様になっているとは思わないが。


 その根拠は2日目に遭遇したモヒカンオオカミだ。あれとの戦闘自体は問題ない。……いや、私のおかしさが露呈はしたが。


 ただ、その後、解体して食糧として加工をした。ゲームならこんなことにはならん。


 死体は消え、経験値とお金、そしてともすればアイテムがドロップする。それだけだ。


 つまり、解体だなんだとやったここは完全にリアルだ。


 そんな現実(リアル)幻想(ファンタジー)が確固たる存在として紛れ込んでいるような状況だ。


 いいだろう。それならば、この“村から出られない”という幻想をぶち壊してやろうじゃないか。


 正しく物理法則に括られている世界に幻想をなんてものをぶち込んだんだ。容易く“バグ”なんて引き起こせるハズだ。


 だが、いろいろ試すのは準備が完了してからだ。うまい具合にうっかり範囲外にでてしまったら、戻ることはできない……ことはないだろうが、戻ったら二度と出られる気がしないからな。


 よし。ならば、村内を調べて、有用そうな資料……本の類を見つけよう。


 具体的にいうならば、魔法関連のものを。


 多分、あの見えない壁? を物理的に突破するのは無理だろうからな。


 魔法自体は覚えるつもりであったんだ。


 そんなわけで、目星をつけていた村内の三件の建物へと向かう。




 1件目。薬屋。


 薬屋ではあるが、看板を掲げてあるわけではない。実際、この村は貨幣経済で動いていたわけではない。


 村ひとつが家族としてあったようなものだ。だから、必要があれば婆さんが薬を提供する。


 まぁ、開拓村などそんなものだ。そもそもこんな小規模な隔離されたような村で、貨幣経済が回るわけがない。


 この薬屋では、魔法使いの婆さんと、その弟子? の若い娘が運営していた。


 本職、魔法使い。必要に駆られて薬師、いやさ錬金術師として薬を作っていた婆さんは、どう控えめに云っても賢者級の魔法使いだ。なんでこんな辺鄙な開拓村にいるのか不思議なくらいだ。


 想像するに、権力争いで負けて放逐された、というようなことなのだろう。お人好しであったことが災いしたに違いない。でなければ、押しかけ弟子なあの娘の面倒などみなかっただろうから。


 この娘は才能はあったようだが、不器用が過ぎて不出来であったからな。経験則でもって花開く、完全な大器晩成型の魔法使い見習だった。


 この家の作りは、厨がふたつあるのが特徴的だ。ひとつは普通の台所。もうひとつが調剤所となっている。


 もちろん、この家も無事ではない。半焼している。火元は台所だろう。そちらは完全に燃え落ちている。


 だが調剤所の方はまったくの無事だ。あの婆さんはしっかりと仕事場の火災対策をしていたようだ。


 みたところ他と変わらぬ作りの部屋だが、恐らくはなにかしら魔法的な防護がされていたのだと思われる。


 さて、家探しをさせてもらおうか。少々咎めるような気持もあるが、引き取り手もいないのだ。私が貰ってしまっても問題ないだろう。


 そうだ、本は元より、調剤道具も貰っていくとしよう。




 思ったよりも資料の類がたくさんあった。魔法に関する本は、初等魔法教本だけだったが、婆さん直筆と思わる、恐らくはこの世界で正統とされている魔法体系から外れた、いわゆる邪道と云われるような方面の魔法書が6冊あった。


 邪道、とはいっても邪悪なものではなく、魔法の捉え方を正統とされているものとはまったくの別視点からのアプローチでしているものだ。邪道とされている理由は、正統魔法ではこの魔法群には対抗できないためだ。


 ……これが原因で追放でもされ――いや、命の危険があったから逃げたんだな。うん。婆さんは天才だったわけだ。新しい魔法体系なんてものを造り上げちまったんだから。そりゃ、現行の魔法体系の魔法使いどもからは命を狙われるわ。


 とはいえ、これらはとんでもなく有用だ。なにせ現状広まっている魔法は、戦闘に使える魔法くらいしかないからな。後は魔術的印のつけられた特定の座標、具体的にいうならば、各都市に設けられているプラットフォームへと高速移動する魔法くらいだ。ゲーム的にな云い方をすれば、ファストトラベル、というやつだな。


 正統、邪道、どちらも私は身に着けることができそうだが、より応用の利く邪道の方をメインとしよう。一応、正統のほうも身に着けるが、多分、こっちを使うことはないかな。邪道と比べて応用が利かないし。なにせ邪道魔法は、自身で好き勝手な魔法を作ることができるからな。


 魔法関連はこれだけだ。あとは錬金術と製薬、調剤の教本並びにレシピ。正直なところ、魔法関係よりもこちらのほうがひと財産といっていいだろう。ありがたくいただく。




 2件目。村長宅。


 やたらとでかい村長宅。といっても、その半分は集会所として機能していた倉庫みたいな場所であるから、邸宅としてはちょっと大きい程度だ。


 役に立つ魔法関連の書物があるかどうかは正直なところ怪しい。だが、ロクなことをしていなかった御仁だ。呪い関連の書物の1冊くらいはあるだろう。


 事実、呪いとしか思えないことで、近所のフレデリックの一家が変死したからな。しかも村長が率先して、森へとその遺体を投げ捨ててくるように若い衆に命じていた。埋葬させない時点で異常だ。


 そういえば、苦々しい顔で薬屋の婆さんが村長を睨みつけていたな。


 この村はよくある村長による独裁の村だ。村長の意向に背いたら即村八分なんてことになる。ただでさえ人口が少ないというのに、そういうことをするから増々減る……かと思いきや、どこからか移住者を村長は引っ張って来たりするのだ。


 もちろん、その移住者というのは訳アリな者たちだ。それも悪い意味で。


 それを考えると、この村は咎人の集まりであったと云ってもいいのかもしれないな。


 さて、家探しを始めよう。




 ……頭を抱えたくなった。呪術的なことが巻き起こっていたのを覚えているから、てっきり呪い系の外道魔法を嗜んでいると思っていたのだが……。


「悪魔崇拝とかどうなってんだよ」


 え、もしかしてこの村、とんでもない村だったりするのか? もし村ぐるみだったりしたらえらいことだぞ。


 フレデリック一家はその秘密を知ったから始末された……?


 他の家――いや、教会を調べればわかるか? どうせ次に行く場所だし。


 村長と司祭は気味が悪いほど仲が良かったからな。


 とりあえずこの悪魔崇拝の聖書……いや、聖書はおかしいか。まぁ、経典みたいなのはさすがに読む気はしないな。さすがに自身の魂を担保に、あれこれやろうとは思わん。


 やたらとある、各種儀式に関しての書物に眉根を寄せつつ書物をあさったところ、まともな呪術書……いや、まともって言葉がおかしなことになってるな。呪術はそもそも外法とされる類の魔法だぞ。


 まぁ、いい。とにかく1冊みつかった。人を呪い殺す呪術は不要だが、生活に支障をもたらす呪術は歓迎だ。殺すなら普通の魔法でいい。呪術は長期的な嫌がらせを行うための手法として欲しいだけだ。


 私はその書物をしっかりと抱えると、床一面に赤黒い何かで描かれた魔法陣を踏まないよう、慎重に歩を進めて教会へと向かった。


 面倒だから村長宅は後で燃やしておこう。幸い、延焼するほど隣家と近いわけではないからな。


 あ、そうだ。魔法の練習に使えばいいや。


 悪魔崇拝関連の資料は燃やすに限る。




 3件目。教会。


 教会といっても私が自身のステータスを確認した建物、礼拝堂ではなく、司祭が生活していた事務所兼自宅の方だ。礼拝堂とは別棟として、裏手に建っている。


 ここで探すものは、教会が神の名にかこつけて独占している回復系の魔法だ。


 怪我や病気の治療はもとより、蘇生の魔法も存在する。そのために、この世界では命の価値が著しく低くなっているが。とはいえ、それにかかる“お布施”という名の料金があるため、骨折程度の怪我ならともかく、蘇生となるとかなりの額が必要だ。


 それにしても蘇生魔法の原理というかなんというか、どうなっているんだろうな? 欠損があっても蘇生は可能なのだ。正し、時間経過によりその成功率は下がる。欠損などは別途回復魔法を掛ければ良いため、手足がないままに蘇生ということが多いようだ。


 で、私がどうにも不思議でならないのは、頭部を失っていても蘇生が可能だということだ。さすがに頭の無いまま生き返ることはないため、同時に頭部の再生も行われる。


 ただなぁ……これ、記憶とかどうなっているんだろうな。さすがに頭部損失からの蘇生は見たことがないから、いろいろと怖い想像とかがでてくるんだが。


 まぁ、私が使うことはないから、気にしないようにしよう。


 そして家探しの結果、目的の回復系魔法の教本を見つけることができた。それも教会で扱われている魔法すべてだ。回復だけでなく、不死系の魔物撃退用の攻撃魔法も、あって困ることはない。


 ……ついでに悪魔崇拝者がつかう、生命吸収だの吸血だのの、いわゆるドレイン系の魔法の書物もあったが。


 あの司祭、村長と仲が良かったわけだよ。双方とも悪魔崇拝者かよ。あー、でもこれでひとつ確定したことがあるな。


 神様はいない。というか、地上への干渉は極めて希薄ということだろう。すくなくとも人間にこだわってはいないようだ。


 だってそうだろう? 神に仕える者が悪魔崇拝などしようものなら、確実に神罰がおちるというものだ。


 ただ、村長宅にあったものと違い、さすがに悪魔崇拝系の書物はなかった。まぁ、それでも外道魔法があること自体問題なんだが。


 これ、どうしようかな。戦闘用魔法としては優秀ではあるんだよな。攻撃と回復を同時にできるから。


 ……まぁ、あまり使いたくないか。魔物の命を取り入れて回復する、って考えると、なんだか気持ち悪いしな。これもあとで村長宅に放り込んで、一緒に燃やしてしまおう。


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