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15_戯れの果て


 彼女は暇を持て余していた。


 新たに解放された管理世界の管理神を彼女は任された。


 だが、既にもっとも不安定な世界の黎明期を過ぎた管理世界は、知的生命体の無知故の無謀に目を光らせるだけであったため、彼女はただ世界を見守るという体の見物人と成り果てていた。


 彼女は世界の管理者、即ち女神としては新米もいいところだ。本来ならば、他の神に付いて修業期間を設けるはずであった。だが、彼女はあまりにも有能であった。故に、簡単なレクチャーのみで世界管理を任されてしまった。


 もっとも、これには上神のパワーバランスなどもあり、彼女の後見たる上神の立場によるところであったのだが。だが、その後見の神は彼女に世界管理を任せることにはいい顔をしてはいなかったが。


 正直なところ、彼女はゆっくり、ゆっくりと発展、成長していく知的生命体を眺めていることを面白いと思えなかった。同じ過ちを何度も繰り返す愚かな生き物を。


 もっとも、他者から奪え! を上等とした文明黎明期の知的生命に過度な期待をするというのは無茶なことだ。だがそれが女神にはわからない。明らかに修業期間を持たなかったことにより起きた欠陥である。


 そんな折り、上神たちの間で騒動が起きた。詳しい内容は下っ端である下級神には一切知らされなかったが、上神のうちの何柱かが亡ぼされたとのことだ。


 そのことを耳にしても、女神はさほど気にも留めなかった。それよりも、持て余した暇を潰す方法を探す方が大事であったのだ。


 そこで気になるのが他の管理神が管理する世界だ。いったいどのようになっているのだろう?


 気になった女神はいろいろな世界の覗き見をし始めた。この所業は違反行為であるのだが、特に罰則があるものではない。せいぜい厳重注意を受けるくらいだ。だが、いまはそれを行う上神たちに余裕がない状態だ。


 それぞれの管理神に露見さえしなければなにも問題はない。彼女は有能であるのだ。その手の隠蔽工作など造作もない。


 そうして女神は多くの娯楽を手に入れた。当初は他所の世界を見ることで、自身の管理世界の運営に取り入れるような事柄を得るつもりであった。だが、途中からその世界の人間たちの嗜む創作物に心を奪われてしまった。


 そして思ってしまったのである。



 これを私の世界に取り入れよう。



 そうと決めた女神の行動はすばかやった。彼女は世界に魔法をもたらすことを決めたのだ。目指すは“血、湧き。肉、踊る”世界である。だが基本世界には魔法などというものは存在しえない。それらを実現している世界もあるが、それはその世界の管理神が自身の権能を分け与えるような真似をして実現しているだけだ。


 だが、女神は自身の力を削ごうなどとは思わない。絶対にそんなことはしない。ならばどの様にしてそれを成すのか。


 女神は有能であった。だから、それを成す方法などすぐに思いついた。

 女神は有能であった。だから、それを成すために行動し、そつなく熟した。


 そう。件の事件で斃れた上神の心臓を盗み出したのだ。なんの痕跡も残さず、知られることも無く。故に“心臓”が盗まれた事実は誰も知らない。女神以外には。


 何度も云うが、この女神は有能であるのだ。そういったことに。故に周囲をだしぬき、最年少にして管理神に成り上がったのだから。


 彼女は盗み出した“神の心臓”を、さっそく自身の管理世界の一角に埋めた。そこを中心に世界の変化がはじまる。


 まず、すぐ側にあった樹木が影響を受け、異常なまでに巨大になった。森ひとつの樹木が丸ごと、まるで一本の樹木のように束ねられ、まさに天を衝くほどとなった。後に、世界樹と呼ばれる多様な形の葉、花、実を持ち、権能の元ともいえる魔力を生み出す存在と成った。


 世界に魔力が広がり、世界樹にほど近くに棲む生物たちは魔力により変異しはじめた。


 そして人間だけであった知的生命体は多種多様に枝分かれし、多数の種族となった。


 そうなるように変化の方向性を持たせていた女神は、その結果に大いに満足した。


 それから年月が経ち、幾多の国が生まれた。そして文明の黎明期と成れば、起こるのは戦争である。無ければあるところから奪え、というのが基本の時代だ。


 僅かな魔力と強靭な肉体の人種と、完全な魔力特化の人種との戦争。いわゆる普人と魔人、王国と魔国との戦争である。


 当初それを興味深く見物していた女神であるが、またしても異世界の人間たちの創作物のような状況にしようと、世界に干渉をする。具体的には、人間側に神託を降し、神剣を与えたのだ。


 神託と与えられた神剣により、戦争はある意味酷くお粗末なものとなった。だってそうだろう? 結局は魔王を暗殺することにより、勝利を得ようと王国側が勇者を仕立て、わずか4人の部隊を魔国に潜入させただけなのだ。


 もちろん、そんな速成部隊が魔王の元へと辿り着けるものではない。だが、そこに女神の思惑が関わっているなら別だ。彼女がそこかしこで手を加えることで、勇者は魔王の元へと辿り着いた。女神の望み通りに。


 結果は魔王と勇者の相打ちとなり、戦争はなし崩し的に休戦のような状態となった。


 もとより魔国と王国の間には深く広い森林帯があったため、そこを国境線とするように互いに不干渉となったのだ。多くの魔獣、魔物の棲むこの森を抜けるのは至難であるのだ。


 女神はこの結果に大いに満足していた。


 だからこそ、彼女は更なる先を目指した。


 そう、異世界で見た冒険譚を再現することを。現状は丁度、それを再現するための基盤となるモノが整っている。


 まずは、新たに魔国を治めることとなった魔王……いや、この魔王は優秀にすぎる。そう判断した女神は次代の魔王をそれとなく誘導し、唆し、操った。もちろん、女神が干渉しているとは知られないように。


 そしておかしな造りの魔王城等が生み出され、魔国はあらたな時代へと突入した。


 魔国は放置で構わない。魔人たちは強靭な人種だ。王国との戦争も正式に終結していない以上、軍事国家のような方向に発展することだろう。


 問題は王国だ。王国が戦争の継続を取りやめたのは、魔王が斃れたことを知った結果、無謀にも進軍し森を越えようとし兵の半数以上を失ったからだ。


 あまりの愚かさに女神も呆れた。こうなることが分かっていたから、勇者などという名目の暗殺者(脳筋)を送り込んだというのに。なぜわざわざ集団自殺を強要したのか意味不明だ。更に言えば、被害にあった兵たちも自信たっぷりに森林越えに挑み、軒並み獣に喰われたということにはため息すら出ない。


 もっとも女神としてはある意味この状況を歓迎した。


 女神の次なる目的は、ほぼ完全なる冒険譚の再現である。この状況はコントロールしやすいともいえるのだ。


 兵力減少の上に人口の減少。その上、森に侵攻した結果、森に棲まう魔獣たちがその勢力を広げ王国外縁に存在する町々を蹂躙していったのだ。


 結果として王国は国土を減らし、森は広がったのである。


 ここに女神は細々と手を加えた。目指す物語の通りになるように。人間の意識に干渉して、アレコレやらかしたのだ。


 王国名はそのままだが、幾つかの町や村は物語の通りに変更させ。また、一部の人間を思い通りに婚姻させた。精神操作をした上でのことであるため。当人たちはそれが女神の意思で決められたとは気付いていない。


 そんなことを数世代も女神は行った。目的は、女神の理想とする人間を創り出すことだ。資質と才能、そして見目良い人間を。勇者となる人間を作り出すために。


 そうして数百年。勇者と成るに相応しい者が生まれ、ほぼ準備が整った。


 だが、予定外の事態がひとつ起きた。


 勇者が最後に立ち寄る予定となっていた村が滅びたのだ。予定よりも10年も早く。当然だが2年後に生まれるハズの、イベントで殺される娘など存在していない。


 さすがにこれには女神もどう対処すべきか、頭を抱えた。


 この村だけ新たに作り直す、というのは却下だ。時間が足りない。ならばこの村のイベントを失くす、というのは女神の性格的に絶対にしたくはない。


 なので、女神は力技でこの村のイベントを起こさせることにした。


 ①:村は滅びたままとする。

 ②:娘をイベント時の年齢で造り上げ配置する。

 ③:娘がイベント以外では死ぬことも成長することもないとする。

 ④:娘は村から出ることはできない。


 この条件で幼児を生成する。年相応の知識と、その村の記憶を植え付け完了だ。ただ、魂が入っていないため、適当な魂を封入しなくてはならない。だが手持ちの魂は今回の調整でかなり使ってしまったため、ほとんどない。


 故に女神は他の世界の魂を掠め取って来ることにした。たかが人間の魂だ。上神の心臓を盗み出すより遥かに簡単なことだ。


 そして参考とした物語のあった世界から適当な魂をひとつ盗み出し、作り出した人間に封じた。


 幼児の姿の人形は、無事に人間となった。これで問題は解決である。


 女神は安心し、これからは勇者の動向を見守ることにする。なにかの拍子にあまりにも道を踏み外した生き方をされても問題だ。


 かくて、女神は勇者を見守ることに専念することにした。






「どういうこと……」


 女神は呆然としていた。


 これまで勇者は22回、魔王に挑み敗れた。その度にもっとも近い教会。いまでは廃教会となってしまっているツイの村の教会で復活してきた。


 死亡しても教会で復活するように加護を与えたのだ。だというのに、勇者は魔王の眼前で、無様に倒れ伏した恰好のまま、その死体を晒している。


 これまで22回は問題なく遺体は消え、教会で復活してきたのだ。それがこの23回目ではそれが行われない。


 そもそも、魔国領へと入ってから状況はおかしかった。すべての町へ入ることができなかった。すべての町で出入管理が厳重に行われており、勇者の一行は町にはいることができなかった。


 そして苦労して辿り着いた廃村であるツイの村では、以前に造り上げた娘の姿が消えていた。死ぬはずもなく、村からでることも出来ないはずの娘が。


 何かが狂っていた。そして狂わせたのが何かも分からなかった。


 だがその答えが急にもたらされた。


「勇者の加護は俺がぶち壊したからな。復活なんてしねーよ」

「誰!?」


 女神が慌てて声のした方に振り向くと、そこにはだらしない格好で座り込んでいる見慣れぬ男がいた。自身以外誰もいるはずのない神域だというのに。


「いよぅ、盗人。お前、あいつに面白い加護をやったなー。まぁ、その結果どうなるかをまるで考えてないあたり、アホ丸出しだがな」


 男がケラケラと嗤う。


 この無礼者に、女神は容赦なく力を振るった。だが、全力を出したというのに何も起こらず、起きたことは女神が間抜けな様を晒したということだけだ。


 男、恐らくは女神と同様に神であろうその者は、その様を更に嗤った。


「あぁ、無理無理。そんなんじゃ俺を亡ぼすなんてできねーよ、盗人。で、どうしてこんなことになったのか、分かるか?」


 女神は悔し気に睨みつける。男神は呆れたように息を吐いた。


「この状態になってもわからんか。まったく、お前さんはドロボウの神にでもなりゃ良かったんだ。その才だけはあったんだからよ。

 俺はさ、お前が作ったあの人間が祈ったからここに来たんだよ」

「祈り!? そんなハズないわ! 普人にしろ魔人にしろ、ただの祈りが他所の世界にまでとどいてたまるもんですか!」

「普通はそうだな。だけどよ、お前、それが()()()()()()()()加護、権能をヤツにやっただろ?」



 【必要なだけ】



 女神は思い当たり、顔を強張らせた。


「ははっ。ようやく思い当たったか。まったく鈍いな。で、ヤツの祈りが世界の壁をぶち抜いて我が兄上に届いたのさ。おかげで兄貴一番のお気に入りの魂を盗んでいった盗人の居場所が知れたよ。


 それにしてもこれも巡り合わせってヤツだな。ヤツの祈りが兄貴にとどくなんてな。ヤツは自分が兄貴に気に入られているなんて知らんだろうに。


 兄貴はお気に入りであるヤツの転生時期を選んでいたんだ。それをあんたが掠め取った。宥めるのが大変だった。なんで破壊神の俺がせにゃらなんのか。そのせいで、この手の事は俺の方が適任だろって送り込まれたんだよ。今は姉貴が必死に兄貴を止めてる有様だ。


 さて、そんな話はどうでもいいな。こっちの用を終わらせる。月読命(ツキヨミノミコト)に成り代わり、我、建速須佐(タケハヤスサノ)之男命(オノミコト)が汝に神罰を与える」


 女神は狼狽えた。


「そんなこと出来るはずがないわ! 上神たちが――」

「はっ! そんなもんとっくに根回し済みだよ。貴様を処罰する権利はもぎとった。どうしようと俺の自由だ。あんたの後釜の選定もはじまってる。だから、安心してくたばれよ」


 そう云って、スサノオは女神を消した。


 本当ならもっと自身の愚かしさを思い知らせたかったところだが、余計なことをして面倒事が増えるのは願い下げだ。アレはくだらないことには頭が回るというのは分かっているのだ。


 女神がやらかしてきた数々のことがここで露見して、上ではあれこれ処罰された神が山ほどいるのだ。


 もっとも、そのせいでこの世界の管理神の選定が遅々としているわけだが。


「もういっそのこと、アイツに任せちまってもいいんじゃないか? ヤツの与えた権能のせいで、盗人神が亡んだいまはその神格が移っちまたんだし。考えなしに、最大で自分と同じだけの力を持てる権能なんぞ普通与えるかね。下手すりゃ自分が下剋上されかねんというのに。人間ってのを侮りすぎだ。

 まぁ、そいつは俺が考えることでもないか。そのあたりは兄貴がどうにかすんだろ。さて、管理代行がくるまでは俺が管理者か。

 まったく、破壊神が管理神を勤めるなんざ、この世界は不幸なことだ。ま、ヤツに免じて、余計な手出しはしないでおいてやるよ。あのバカすぎる王国の支配者共は始末したいけどな」


 スサノオはひとりごちると、ごろりと寝転がり、つまらなそうに地上に視線を落とした。


 ひとまず、女神の気まぐれで弄ばれてきた世界はこれにて解放された。


 とはいえ、実質的に神不在のこの世界が今後どうなるかはわからない。


 もしかすると、今だ名無しの彼女……永遠の8歳児である彼女に厄介な運命が課せられるのかもしれないが、それはまた別の話だ。


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