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14_10年後


 私が魔王城に突撃してからおよそ10年が経過した。


 現在もミャストで生活をしてはいるが、ほぼ引き籠りといっていい状態だ。


 なにせ歳をとれないのだ。永遠の8歳は目立ちすぎるというものだ。とかく子供というのは成長が早いのだ。10年も姿が変わらないというのは悪目立ちもいいところだ。


 これが20代半ばくらいでの年齢固定であれば、いくらでも誤魔化せたのであろうが。


 ソルとロゼは10年経ったいまでも同居している。そういえばふたりもまるっきり歳をとったようにみえないな。


 そういえば魔王様が、魔族は膨大な魔力を持った人間と云っていたが、魔力がなにかしら関係しているのだろうか。


 とくにふたりは魔族の中でもトップクラスの魔力量を持つ者だからな。


 そのふたりはというと、魔王様が宣言していた通りに新たに造られた組織である国土整備軍の軍団長と副軍団長となっている。読んで字のごとく、魔国内の道路や水路、災害対策整備などを行う組織だ。“軍”などとついてはいるが、土方のエキスパート、工兵部隊と云っていいだろう。


 軍団長がソル、副軍団長がロゼとなっている。


 ソルは軍団長となることを嫌がっていたが、ロゼに押し付けられた感じだ。ロゼのほうが年長であり、軍での先輩であるため自分が副軍団長にと思っていたソルはごねていたが、結局ロゼに言い包められて軍団長となっている。


 そういえば、この世界ではまだコンクリートはなかったようだ。いや、あるのかもしれないが、広まってはいない。地魔法で土を硬質化することで間に合わせているためだ。


 そこでコンクリートに関して教えたところ感謝された。というのも、どんなに土を硬質化しても土は土であるため、水に強いとは云えないためだ。そのため洪水やら土砂災害が毎年どこかしらで起きており、損害もバカにならない状況だったようだ。


 そこへコンクリ知識である。使用状況に応じて複数種あるようだが、どういうわけかそれらの知識が私の頭の中にあったため伝授したわけだ。


 おかげで10年前と比べ、災害による損害が格段に減っているとのことだ。


 これが起爆剤になったのか、化学……になるのか? そういった方面の学問が一気に発展を始めている。そこらに転がっているようなあり触れた素材で、強固な石のようなものを作ることができるというのが衝撃だったらしい。


 そしてミストラルだ。


 彼……彼って云っていいのか? なんだか怒られそうだが、まぁいい。


 彼は私の魔王城突撃後から姿を消していたわけだが、3年ほどして戻り、いまでは魔王側近というか、近衛というか、宰相補佐というか、なんだかよくわからないことをやっている。


 肩書は魔王補佐役と無理矢理つけられて、いいように使われている。まさか無断で軍を離脱しているとは思わなかった。よくも脱走兵扱いされなかったものだ。


 ……いや、ラファール君が頑張ったのか。一番の苦労人は彼じゃないのか?


 ときおりミストラルと一緒にここに手土産を持って遊びに来るが、もしかしたらミストラル共々ストレスの解消に来ていたのかもしれない。


 そういや魔王軍を束ねる軍団長が誰になったのか知らないから聞いたところ、現在は魔王様だそうだ。が、いずれミストラルにその権限が渡されるとのことで、ミストラル本人はそのことに死にそうな顔をしている。


 すり寄って来る多くのクズ貴族を相手にするのが面倒だそうだ。


 そういやフーはどうなったんだろうな? どうでもいいか。後ろ盾だったプードル侯爵とやらは、フーの惨敗を切っ掛けに魔王様が大鉈(権力)を振るって潰したからな。


 いまじゃ北の僻地で開拓をしているそうだ。生き延びるために火の能力を使い続けなくてはならないため、能力のレベルだけはバリバリ上がっているらしい。

 もっとも、暖を取る方向での能力の伸びであるため、戦闘にはまるっきり向かず、単なる人間ヒーターになっているそうだ。


 ちなみに。北の僻地には有用が鉱山がいくつかあり、それらの開発が彼らの仕事だ。


 そんな所に放逐されるとは。どんだけロクでもないことが露見したんだよ。降爵どころか奪爵されるなんて大概だぞ。


 最後に私だ。私はというと、引き籠り生活を満喫している。


 時々近場の森に狩りに行ったりしているが、その程度だ。あとは“知識”にある料理を再現したり、調味料を作ったりしている。マゲイロス料理長とはあれ以来意気投合しており、定期的に料理研究などをしている。


 そんなことをしていたせいか、ここミャストと魔王城の食のレベルが格段に上がった。住み始めて2年目くらいに、ここの領主であるルスティッヒ伯爵にやたらと感謝された時は驚いたが。


 魔王城には月に1度遊びに行っている。私がうっかり忘れたりしないように毎月一日に行くと決めている。


 なぜこんなことになったのかというと、魔王様がここに遊びに来るのだ。


「ここの食事が一番美味い。正確に云うなら、デザートは他の追随を許さんからな。それだけはマゲイロスも敵わんとシャッポを脱いでおる」


 なんて云って。私の作るものなぞ、マゲイロス料理長の足元にも及ばんのだが。デザート……菓子に関しては私のが上なのか……。マゲイロス料理長はパティシエじゃないからな。


 そんなわけで、魔王様が頻繁にここに来るというのはよろしくないため、私が向かうことにしたわけだ。ケーキだのなんだのを持って。幸い。テレポーテーションの魔法が使えるから、行き来に問題は一切ない。距離的にも100キロくらいだし。


 おっと。そういえばもうひとりいたな。忘れちゃいけないのが――


「よろこびなさいな。勇者が死んだわよ」


 私が魔王城に足を運ぶと、迎えに来てくれたミストラルが開口一番そう云った。


 それを聞いた私は最高に間の抜けた顔をしていただろう。


「は? うそだろ?」


 なんて思わず問い返したくらいだ。


「嘘じゃないわよ。魔王陛下もびっくりしてたもの。もちろん、私と宰相もね。でも一番驚いてたのは、勇者のとりまきね。いつもは勇者が死んで死体が消えたら、すぐに脱出呪文を唱えて逃げていたもの」

「なんだよ。いつもどおりなんじゃないか」

「死体が消えずにそのまんまだったのよ」

「……マジかよ」

「どこの言葉よ、それ」


 ミストラルは相変わらずだ。


「え、なに? 魔王様、勇者のリスポーンを止める方法を見つけたのか?」

「いえ。そんなものないわよ。いくら魔王陛下でも、神の御業に干渉する力はないわ」

「だよなぁ……とすると――あ」


 ひとつ。ひとつだけ思い当たるものがあった。


「あ。って、なに? もしかしてあなたがやらかしたのかしら?」


 ミストラルについてテクテクと城内を歩いていく。10年前にソルが付けた柱の傷はいまだにそのままだ。


「やらかしたというか、ちょっと前に思うことがあって神様にお祈りした」

「あんたが祈るなんてどんな心境の変化があったのよ。憎んでたでしょうに」

「こっちの神様じゃないよ。多分、私を作る際に使われた魂のあった世界の神様だ。その知識があったからな。不意に思い出したから、折角だし祈っておくか、くらいの感覚でお月様に向かって祈っておいた」


 ミストラルが足を止めた。


「……別世界の神様?」

「そう」

「ここの神様とは、力関係はどうなのかしら?」

「さぁ。ここの世界は神1柱だろ? 記憶にある世界の神様は八百万の神々といってな。数えきれないほどたくさんいるんだ。あ、八百万っていうのは、数えきれないほどたくさんって意味合いで使われているのであって、明確に800万って数値的意味じゃないぞ」


 ミストラルが目を瞬いた。


「数えきれないほど? 沢山? そんな世界じゃ、神それぞれの力が弱かったりするんじゃないの? 1柱で世界を担っている神には敵わないと思うんだけれど」


 あー、そう思っちゃうのか。でも、ひとつの世界における神の力の総量って、すべての世界で等しいと決まっているわけでもないだろ?


「そう決めつけるもんでもないだろ。多神だからこそ、それぞれがひとつのことに特化してる神様だぞ。なんでもできる神様と、一点特化の神様、どっちが強いと思う?」

「……神様、殺されたのかしらね?」

「勇者が教会に強制送還されて復活しないってことは、そうじゃないか? もしそうなら、私も普通に成長できるようになるってもんだな。……ちょっと調べてみよ」


 インベントリの肥やしになっていた、人物鑑定オーブをとりだす。ツイの村の教会から持ってきたやつだ。


 手を載せて魔力を流す。さて、私のステータスはどうなった?


 ……。

 ……。

 ……。


「変化ないな」

「訳の分からないステータスをしてるわね、あなた」

「私もそう思う。初めて見た時は頭を抱えた」

「あー……まぁ、そうよね。あたしのステータスがそんな有様だったら、きっとあたしも頭を抱えるわ」

「まぁ、あれこれ考えても仕方ないな。寿命が欲しくなったら、もう一度お月様にお祈りしてみよう。年齢固定を解除してください、って。お供え物はお団子でいいかな? 願いが叶うといいなぁ」

「随分と気楽ねぇ」

「悲観したところでどうにもならないだろう? これ」


 そういうとミストラルは苦笑いを浮かべて肩を竦めた。


 解決の手法のないことをあれこれ考えるなど、するだけ無駄だ。そんなことをするくらいなら、面白おかしく、そして時にちょっぴり辛い人生を楽しむほうがいいってものだ。


「そんなことよりだ。今日はチョコレートを持ってきたからな。こちらにはカカオなんて存在しないから、代替品で作ったホワイトチョコレートだが。ふふふ。今日の茶請けを楽しみにしておけよ」

「あら、あなたがそんな風に嬉しそうに笑うなんて、そのチョコレートとやらは相当なもののようね」

「そのまま食べて良し。他の菓子の素材としても良しだからな。魔王城で働いている菓子職人もいい感じに育ってきたからな。彼女に渡せば、新作のお菓子をいろいろと開発してくれるんじゃないかな」

「あら、それは楽しみだわね。魔王陛下もきっとお喜びになるわ。勇者のせいでここ1、2年は大変で大変で、休憩時間に摘まむお菓子がなによりの癒しみたいだったもの」


 あー、そういえばこのところは、妙にやさぐれた雰囲気が醸し出していたからな。


「そういうことならさっさと持って行こうじゃないか」


 そういって私たちはテクテクと城内を進んでいった。
















「……なぁ、このふざけた城の構造はどうにかしないか? 勇者もくたばったわけだし。魔王様の執務室まで1時間近くかかるとか、いまさらだけどダメだろ」

「そうね……。私は窓から出入りするのがほとんどだったから、さほど気にも留めていなかったけれど、確かにこれは酷いわね。ソルと相談してみるわ」


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