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13_突撃、隣の魔王城 ⑥


「ゴーメンナサイヨー!!」


 へんなイントネーションで私は扉を蹴り開けた。


 礼儀も何もあったもんじゃない。それは分かっている。分かっているがせずに居られなかった。


 どうやら無自覚ではあったものの、これまでのことが少しばかり腹立たしかったようだ。


 ソルたちにも云ったが、私は“もの申す”つもりでいるのだ。冗談でもなんでもなく。


 大広間の対面、数段ほど高い場所に設えられた玉座に魔王は座っていた。頬杖をついただらしのない格好で。

 だが、それが妙に似合っている。


 つか、思っていた以上に若いな。上にサバ読みして40代ってところか? 見た目的にはアラサーな感じだ。


 さて、そのイケオジ魔王であるが、なにやら目をパチクリとさせている。そしてやや抑え気味の声で側に侍る……なんだアレ? プテラノドン? 頭がプテラノドン、あるいはケツァルコアトルな魔族に話しかけた。


「宰相、どう見ても幼女にしか見えんのだが」

「左様で」

「背丈の低い種族……ホビットやドワーフではないな。あのスタイルからして。となるとスプライトあたりの妖精族であるのか?」

「いえ、人間であると思われます」


 恐竜ヘッドの言葉に魔王は一瞬表情を歪ませるものの、すぐに持ち直してマントを翻しつつ立ち上がった。


「よくぞここまで来た。褒めてつかわそう。だが――」



「魔王様にもの申ーすっ!!」



 私は大声でいった。“必要なだけ”が仕事をするため、それこそ壁や天井が震えるほどの大声だ。


 なんか後ろで倒れるような音が聞こえたが、多分、ソルかロゼ、あるいはふたりとも腰を抜かしたんだろう。正面にいる恐竜ヘッドも腰を抜かしてアワアワしているし。


 そして魔王様はというと、小癪な! とでもいうような表情でこちらを見ている。


 なんだか面白がっているみたいだが、これから私が立て板に水のごとく云うことは、決して楽しいことじゃないぞ。


 ……。

 ……。

 ……。


 はー。云いたいことは云ってやったぞ。部下の失態は上の差配に問題があるということだからな。きちんと指導していないのが悪い。できなければクビにすればいい。背後関係で簡単にクビにできなければ、ガンガン昇進させて意図的に問題を起こさせてその責任を取らせればいいのだ。


 あ、フーみたいな例もあるのか。そうなると面倒臭いんだな、為政者って。


 インベントリから水筒を取り出して喉を潤す。中に入っているのはただの水だ。


 魔王様はいうと、非常に、それこそ正に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。そしてやおら、スパーンと傍らの宰相の頭を引っ叩いた。


 やたらといい音がした。髪の毛が生えていないからかな。


 そういや、翼竜の頭のあの尖がった部分の骨は空洞になっていて、音をどうとかいう話があったようなないような。


 それが関係しているのだろうか。


「報告されていたことよりも遥かに酷いではないか。どういうことだ宰相!」

「も、申し訳ございません」

「綱紀粛正を徹底せよ。それと予定通りフーは更迭。プードルの一派も叩き出すぞ。罪状に合わせ徹底処分しておけ」

「御意」


 宰相がパンパンと手を叩くと、やたらとオドオドした魔族の男性が別の入り口から入って来ると、宰相より支持を受けるや逃げるように走って行った。終始、私の事を気にしながら。


「そんなに私が怖いかね」

「フーの有様を見れば仕方ないでしょ」

「でもお師匠さまの言葉が真実だと分かりした。多分、私でも完封できたと思います」

「あー。ソルなら相性抜群にいいわね。お師様の云ってた通り、巨大質量を投げつけるだけで勝てるわ、あれ。火じゃ払いようがないもの」


 ふたりの話が聞こえたのか、興味深そうに魔王様が問うてきた。


「ふむ。お主がここに来ているのだ。フーが敗れたのは分かるが、そんなに酷い有様となったのか?」


 なんだかニヤニヤと魔王様が楽しそうだ。……この感じ、いろいろと問題児だったんだな、アレ。ソルたちもいってたけど、パワーバランスやらなんやらの関係で排除したくても出来なかったというのは本当のようだ。


「両手足を殴って折ってやっただけだぞ。ただ、魔法でもまともに治せないようにしといた」


 魔王様の目が見開いた。


「治せない……だと?」

「絶対ではないよ。魔法で治すためには、腕は二の腕から切り落として再生するしかないな。左足も同様だ。右足は腰から切り落として治さないとだめかな。それなら左足とセットで治せてお得だな!」

「待て待て待て、なにをどうしたらそんな有様になるのだ!?」

「修復不能な壊し方っていうのがあるんだよ。回復魔法をかけても、砕けた骨が周囲の組織を巻き込んで治るもんだから、完治していながらも激痛が続くという拷問のような有様になるんだ」


 ……そんな化け物を見るような目を向けないでくれるかな。


「あ、そうだ、宰相さん。これ返しとく。一応へし折っておいたけれど、きちんと封印することをお薦めする。宝箱に入れてしまっとくとか、まさに愚の骨頂だぞ」


 インベントリから【勇者王の剣】を取り出して宰相さんに渡した。


「こ、これは! これをどこで……って、折れてる!?」

「どこでもなにも、城内に大事に大事にしまってあったぞ。勇者専用対魔王用最終決戦兵器をあんな無防備に置いておくなよ」

「城内で!? そんなバカな!!」

「あー、可能性はあるな。この城を建てた6代前の魔王のコレクションのひとつだろう。あまりの放蕩ぶりに、5代前の魔王が誅した暗愚だ」


 魔王様が呆れるようにため息をついた。


「一応、まともに使えないように折っといた。とはいえ剣の力の本体は柄の方だから、【勇者王の剣】としては死んでいないかな。もっとも、その力を振るうための刀身はへし折ったから、一応ガラクタだ」

「感謝いたす。これは厳重に封印すると致そう」

「折れた刀身と柄とを別所にした方がいいと思うぞ。神様が思い出して、片手間に直したりするといけないから。いっその事、そこらの鈍らな剣の刀身でも柄にくっつけとけばいいんじゃないか」


 これで良し。あとは私が勇者に見つからないようにして、勇者が魔王様に殺されるのを待つ……いや、勇者って普通に教会とかにリスポーンするんだよな。ってことはもう、寿命で死ぬのを待つしかないのか。でなけりゃどっかに寿命が尽きるまで監禁するとか。【世界の半分】という名の土地とかに。


 まぁ、勇者に関わるほうが危険だから、逃げ回る方向でいいか。それよりも、当初の目的を達成するとしよう。


「さて、魔王様。私はただここに道を訊ねにきただけなんだ。だから、次に上げる人里以外の町への道を教えてくれ」


 私がそういうと、なぜだが宰相がぶっ倒れた。


 ……。

 ……。

 ……。


「確認をさせてくれ。今あげた町を避ける理由はなんだ?」

「勇者が通過する町だから。魔王様が勇者と戦うよう運命づけられているように、私は勇者に殺されることが運命になってるんだよ。

 いま上げた町は必ず勇者が立ち寄って、押し込み強盗や破壊活動を堂々としていくから、諦めた方がいいぞ。金品の強奪と壺や甕の破壊を、住人はどういうわけだかそれが当然と受け止めるからな。勇者が消えてからその被害に驚愕するってやつだ。神の課した強制力ってのはロクなもんじゃないな」

「ふむ。ということは、これらの町に勇者対策をしておけば良いな」

「それよりも町に入れないようにしておけばいいと思うぞ。というか、私の上げた町って魔族の勢力なのか? 住んでいるのは普通の人間だと思ったが」

「魔族も人間だぞ。単に魔力を膨大に蓄えることができる人種というだけだ。もっとも、その魔力の影響で身体が変質する者が稀にいるがな。我や宰相、四天王どもがそうだ」


 あー……そういう。ふむ、やはりゲームとは少しばかり違うところもあるんだな。それともゲームでは語られない、或いは設定として存在していないが、リアルでは不可欠な部分ということか?


 ま、私の人生においてはそれを知ったところで意味はないな。


「ミャストがいいのではないか。町の規模は十分であるし、治安も良好だ。我が魔国では独立的穏健派であるルスティッヒが収める領地だ。なにより、この魔王城を挟んで、勇者の侵攻ルートの正反対の場所だ。勇者が立ち寄る可能性は低かろう」

「暮らしやすければ問題ない」

「そうはいうが、その姿でひとり暮らしとなれば、如何に平穏な町といえど問題の方がやって来るぞ」

「ゴーレムでも拵えて私の保護者として置いておく予定だ」

「あの、よろしでしょうか?」


 これまで黙っていたソルが手を挙げ、声をかけてきた」


「発言を許す。どうした?」

「私がお師匠さまについて行こうかと。現状、我が地魔師団は副師団長のテーレがとりまとめ、私は単独で魔国各所危険地域の整備を行っています。実質、テーレが師団長といっていい状態ですので、師団をテーレに任せ、私はこれまで通り各所の整備に専念しようかと。それでしたら、居住地をお師匠さまのところへ変更したところで問題ありませんし」

「魔王陛下、発言、よろしいでしょうか?」

「ロゼもか……発言を許可する」

「私もソルと同様の状態です。ことの次第は軍団長フーによる嫌がらせからの差配によって、水と地の師団は半ば機能不全を起こしているといっていい状況です。フーの更迭により、軍団の状況も変化するでしょうが、いまさら私もソルも歓迎されることはないでしょう。私もソル同様各所の治水整備に駆り出されている状況です。ですので、私もお師様と共に行こうと思っています」


 私は頭を抱えた。


「いや、あのな……なに? なんで……」


 そこまで云って思い至ることがひとつ。


「あー。監視役ってことか。まぁ、私はイレギュラーもいいところな存在だからな。喧嘩を売られたら確実に穏便に済ますなんてことはしないだろうし。私自身がトラブルになることは否めないな」


 私たちの様子に魔王様は苦笑し肩を竦めた。


「まさに我の不徳の致すところ、ということなのだろうな。不甲斐ないことだ。ロゼ、ソル、師団長の任を解く。もっとも、フーは更迭、ミストラルは勝手に離脱した以上、四天王こと四大師団長は全員解任となるんだがな。魔国内の危険個所の整備は引き続き任せる。だが、それらを行う専門部隊の編成、訓練も行え。それに伴う相応しい肩書を新たに用意しておく」

「「はっ!」」


 簡単に決めるなぁ。


 ふむ。となるとだ。


「ひとつ、重要な案件ができたな」

「む、なんだ?」

「私はふたりと住むことになるのだろう? となるとだ……お姉ちゃんと呼ぶべきか? それともお母さん?」


 ソルとロゼが胸を抑えてよろめいた。


 いやいやいや、どういうことだよ。


「また難儀なことになっておるな。あぁ、そうだ。ミュストに邸を用意しよう。魔国の重鎮ふたりが住まうのだ。さすがにそこらの集合住宅だの、借家などに住まわせるわけにはいかんからな。

 宰相、いい加減に起きろ! ミュストに邸を用意するようルスティッヒに伝えろ。豪邸である必要はないが……そうだな、侯爵クラスが隠棲するに問題ない程度のものをな。我らが恩人が住まうのだ。下手な物件は用意しないようにな」


 【勇者王の剣】を抱えたままひっくり返っていた宰相は飛び起きると、取り落としそうになった【勇者王の剣】に慌てふためきながらも一礼し、バタバタと大広間から走って行った。


「恩人って……私、なにかしたか?」

「【勇者王の剣】をへし折ってくれたではないか。これで我の生存確率が大幅に上昇したというものよ。運命はバカにならんからな」


 魔王はそういうや、呵々と笑った。


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