11_突撃、隣の魔王城 ⑤
地、水、風と四天王4人中3人を降した私は、最後の火の下へと――
「麗しの天ぷらが出来上がったぞ!」
――向かわずソルたちに厨房へと案内してもらい、魔王城への道中で狩ったでかい猪と引き換えにいくばくかの食材を分けてもらい、厨房の一部を借りた。
そう。まともな食事をいい加減にしたかったのだ。それになにより昨日からまともな食事をしていないのだ。さすがに腹が減っている。
「王道の唐揚げが出来上がったぞ!」
で、好き勝手に調理していたわけだが、途中から魔王城の料理人さんたちが私の周囲に集まって、調理のようすを観察している。
気になって聞いたところ、油で揚げる、なんて油を無駄に大量使用する調理など見たことがないそうだ。
そういやそうか。食用油なんて結構な高級品だよな。肉を焼くといったら、油で炒めたりするんじゃなく、豚の丸焼きみたいに串刺して直火でクルクル回して焼くものだからな。いわゆるバーベキュースタイル、或いはアウトドアでの魚の串焼きスタイルみたいな感じだ。サイズはまるで違うが。
そんなわけで、揚げ物はかなりの衝撃だったようだ。
ちょっとだけ揚げてそれで終了だと油がもったいないから、てんぷら、唐揚げ、とんかつと揚げまくる予定だ。
脂の汚れも加味して、天ぷらから揚げはじめ、現在はとんかつに取り掛かっている。
……豚じゃなく、猪肉でもとんかつでいいのか? 牡丹かつとでもいうべきだろうか? まぁいいか。
「魅惑のとんかつが出来上がったぞ!」
なんだか歓声があがった。
腹ごしらえを終え、私たちは筋骨隆々な料理長をはじめ、下働きまで全員から見送られながら厨房を出た。
油物を多く作ったが、ほかにも茶碗蒸しや野菜炒めも造り上げた。野菜炒めはこっちでも良く作られるポピュラーな料理らしい。さすがに肉ばかりだと……ということで作ろうとしたところ、せっかくだからと料理長が直々に作ってくれた。
うむ。最高のできだった。多分、私だとあそこまで完璧に炒めることはできなかっただろう。シャキッとした歯ごたえを残しつつ炒めるのは難しいのだ。
しんなりとへたるからな。野菜は。
それと茶碗蒸しは揚げ物以上に驚愕された。ついでだから料理長にプリンの製法も教えておいた。作り方は似たようなものだから、口頭だけでも問題ないだろう。
あぁ、どうせならコロッケやメンチカツも作っておけばよかったな。ま、食糧のストックが大分増えたわけだし。それらは腰が落ち着いたら作るとしよう。
そして増々私を見る目がおかしなことになったソルとロゼ。いまだに私に付き従っているわけだが、ここに来て少し怪訝な顔をしている。
「ねぇ、フーのところに行くんじゃなかったの?」
遂にロゼが訊ねてきた。
「その前に寄るところがあるのを思い出した。あっちで階段を登って、こっちで階段をおりて、何故か同じ部屋にある別の登り階段を登ってなんて、訳の分からないルートを歩いているから、迷ったと思っているのか?」
「いえ。お師匠さまが自信満々に歩いているのですから、それはありません。ありませんけど、魔王城って、こんな理不尽な作りをしていたのかと今更ながら驚いているだけです。それとなぜお師匠さまが城の作りを知っているのかの謎にも」
ソルの言葉に、あー……と思わず声がでる。
「まぁ、防諜にしても酷い作りだよなぁ。しかもこうじゃないと辿り着けない、ただの通過点なだけの無駄な部屋ばっかりだし。あと、私は熟知はしていないぞ。構造は知っていても、何に使われている部屋かわからなかったりするからな。実際、厨房の位置は知らなかったわけだし。私が知っているのは兵舎のほうの厨房だったからな」
ここはゲームでのラスダンだ。だから作りが理不尽なのは仕方ない。なんでこんなゲーム仕様だっていうのに、建築時に誰も突っ込まなかったんだ? もしかして強制力ってヤツか? もしそんなのがあるとしたら、くっそ面倒だな。勇者が血眼になって私を殺すべく追って来るなんてなったら嫌だぞ。
そうなる可能性、原因となりそうなのは村長宅のあの魔法陣くらいだけど。私を悪魔崇拝者と思い込んで絶対殺すべしなんてなり兼ねん。しっかりと村長宅を火事で倒壊させて埋めて来たから問題無い筈だ。まさかあのガレキを撤去して地下を探すとは思えないが。そもそも私が生き残りだとも知れるはずも無いんだが……勇者が死ぬまでは、警戒しておいた方がいいのかもしれないな。
やかて小宴会場くらい広い部屋にたどりついた。そこには台座に飾られた9つの彫像。
部屋の奥側の壁際中央にひとつ。そして左右に4つずつ並べられた彫像は、壁から1メートルほど離して置かれている。おかげで彫像が通路を作っているように見える。
「こんな部屋あったんだ」
「像は……特に意味のあるものではないようですね。デスナイトを象っているようですけど」
「頭が獣になってるな。狼、梟、豹、猿、猪、狐、鰐、象、最後に普通のデスナイト。えーっと順番はどうだったけかな」
腕組みをして思い出す。すぐに答えはでてきた。
ということで、動物ヘッドの像を押して壁際にくっつける。順番を間違えると、押し付けた像が元の位置に戻る仕掛けだ。ゲームではノーヒントのため、試行錯誤して行う謎解きだ。
私は間違えずにすべて壁へと押しやると、最奥の普通のデスナイト像が左へスライドし、その背に隠されいた扉が現われた。
「え、なにこの無駄な仕掛け」
「えぇ……」
「常識的に考えると、この手の隠し部屋の仕掛けって本当に無駄だと思うんだよな。自己満足しかないだろ。もの凄い手間だし」
私は扉を開け、六畳間程の部屋へとはいる。
中には無駄に豪華な宝箱。
うーむ。ゲームのグラで見るならともかく、リアルで見るとアレだなぁ。これが小さいものだったら、アクセ用の入れ物としてもいいだろうけど、このサイズだとないな。悪趣味としか思えん。
そんなことを考えつつ、宝箱を開けた。
「伝説の【勇者王の剣】を手に入れたぞ!」
どこぞのゲームの如く、鞘ごと剣を掲げた。
「「はぁっ!?」」
ふたり驚きの声を上げた。
「いや、本当『はぁっ!?』っていいたくもなるよな。なんで対魔王用決戦兵器が魔王城で安置されてるんだよ。実際、勇者はここに来てコイツを手に入れて、魔王を殺すんだ。なんで大事に大事にしまっておくかね。どんな手を使ってでも破壊するか、でなければ、地中深くにこれでもかと厳重に封印でもしとけばいいのに。例えば毒ガス……面倒だから二酸化炭素でいいか、それを充満させた厚さ2メートル壁で覆われた玄室にでも安置して埋めとくとかさ。これなら壁を破壊した直後に、人間なら確実に昏倒してそのまま死ぬから」
「うわぁ……」
「また恐ろしいことを考えますね、師匠」
「そうか? 普通だと思うけどな」
云いながら剣を抜き、刀身と柄を持つと膝を使ってへし折った。
「「うぇぇぇぇぇっ!?」」
ふたりが再度驚き叫ぶ。
「今度はなんだ?」
「いや、それって神器ですよね!?」
「なんで折れるの!?」
「あー……多分、私もある意味人の形をした神器だからじゃないか?」
魔王城に来るまでに、私はさんざん考えたんだ。私が何者であるのかを。で、ひとつの推論を得た。
恐らくだが、予定より早くツイの村が滅亡した上に生きていなきゃいけない娘、もしくは娘を産むはずの娘も死んでしまったため、急遽、神(?)が、私を拵えて廃墟となったツイの村に配置したんじゃないかと思うんだ。でなけりゃ、私のパーソナルな記憶が一切なく、情報としての記録だけが頭にあるという状況はおかしすぎるといえる。ただ、肉人形起動に使う魂を適当に突っ込んだところ、それが異世界の魂だった、ということではないかと私は考えたのだ。
あってるかどうかは知らん。検証のしようもないからな。
「まぁ、細かいことは気にするな。これで勇者の手に渡っても、まともに使えやしないだろう。それじゃ、フーをぶちのめしに行こう」
折れた刀身と剣を鞘に納め、インベントリに放り込む。
さぁ、火のフーをぶちのめしに行こう。
火のフーとの戦いは、一方的になったと云っていいだろう。
どっからどうみてもパンクロッカーモドキのヤンキーな風貌の男。モヒカンが炎のように逆立っている。更には顔が入れ墨だらけだ。
あれをカッコいいと思っているのだろうか? 有体に云ってダセェ。その牛の鼻輪みたいなピアス、それも骨を象った金ピアスはやめろ。どこの蛮族だ。
これまでの四天王と違い、こちらを見るなり攻撃をしてきたことは評価しよう。いわゆる開幕ブッパというやつだ。でも、フーができたのはそれだけだ。
「婆さんの鍋蓋シールド!」
薬屋の婆さんのところの大鍋、いわゆる魔女の大鍋の蓋をちょっと持ちやすいように手ごろな角材を打ち付けただけの代物。標準的なラウンドシールドくらいある大きなものだ。私にとっては中盾ではなく大盾サイズといえる代物だ。
こいつでフーの放ってきた槍のような火炎放射を受け止め散らす。木製だが私の能力で燃えるどころか焦げ付きすらしない。
そして攻撃が止んだところで――
「膝小僧粉砕アタック!」
一気に突撃し、左手に持った麺棒で左膝をぶん殴る。哀れフーの半月板はもとより、関節部の骨は粉砕骨折。腱は切れはしなかったが、切れたのと同様の状況に陥った。
私はそのままフーの後方を回るようにして、背後から右足のつけ根、腰のやや下あたりを追加でぶん殴る。
「股関節粉砕スマッシュ!」
右大腿骨、それも根元の関節部分を外側から丸ごと破砕する。これでもうフーは立っていることはできない。
というか、大腿骨の関節部、骨盤に嵌っている部分辺りは骨折すると治ることはない。添え木なども当てることもできないので、どうにもならないのだ。
地球の現代医学では、代替と成る関節部をチタン合金だかなんだかで形成し、それを本来の骨代わりとして入れ替えることで治すことができるが、この世界の医学では不可能だ。もちろん、癒しの魔法でも粉砕骨折を完全に治すことはできないから、もうフーは二度と自分の足でまともに歩くことはできないだろう。
我ながら酷いことをしているが、面白半分に多くの人……魔族をなぶり殺してきた男だ。良心の呵責など覚える必要などありゃしない。
倒れ、悲鳴をあげ捲っているフーに追撃をする。
折角両足を破壊したのだ。両腕も破壊しておくべきだろう。
ということで、両肘を麺棒で丁寧にぶん殴って粉砕する。
よし、終了。
私はさっさとその場を通過した。その後をソルとロゼが追って来る。フーの側を通る時に、フーがふたりに喚き散らしていた。
痛みが酷いだろうに元気だなと思って振り向いたところ、ソルとロゼが仲良く、フーの足を蹴飛ばしていた。
……うわぁ。あいつ、どんだけ恨みを買ってたんだよ。アホだな。
さぁ、最後に向かうのは魔王様のところだ。
「ねぇ、魔王様のところへと行くのよね? その、戦うの?」
ロゼが恐る恐る訊いてきた。
「いや。もともと私はここに、道を訊ねにきただけなんだ。それを門番のリザードマンどもが私を問答無用で殺そうとしてきたんだよ。だから兵士共の教育に関してひとこと物申そうと思ってな。
ちなみにだ。ソルが私とまともに話をしていたら、ここまで暴力的な方法で騒ぎを起こすことはなかったぞ」
ソルが呻き声を上げながら頭を抱えた。
そうこうして魔王城本丸のほぼ中央にある大広間へ続く通路へと到達。
ここには兵士がふたりいた。いわゆる番兵? 近衛騎士……にしちゃ鎧の感じがシンプルだから普通の兵士だろう。
さて、どうしようか。さすがにこいつらを殴ると死ぬだろうしな。四天王とは雲泥の差の連中だ。
お、騒ぎ出した。
……うん。“俺の右手はスタンガン:低電圧”でいこう。
100万ボルトはへたすると健康な者でも心臓が止まる場合も稀にあるが、70万ボルトくらいにまで落とせは問題ないだろう。
なに、兵士をしているんだ。身体的には問題なく丈夫であろうから、心配することもないだろう。
ということで。
バチン! バチン! と、相手の首に手を触れて電気ショックを入れる。うん。薬屋の婆さん謹製のこの魔法は本当に使い勝手がいい。
兵士たちはひとことも悲鳴をあげることもなく、あっさりと昏倒した。
よし、それじゃ魔王様とご対面と行こう。
倒れた兵士の間に立ち、私はドカンと扉を蹴飛ばした。
「ゴーメンナサイヨー!!」
それこそ、どこぞの格闘家張りに。




