表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

01_ここはどこだ?

全15話予定。


よろしくお願いします。


「……ここはどこだ」


 意識を取り戻した私の第一声がこれだ。


 いや、意識を取り戻したと云っていいのだろうか?


 なにせ自分は自身の足でしっかりと立っているのだ。決してひっくり返ってお空を眺めているわけではない。


 その証拠に、目の前には鬱蒼とした森が立ちはだかっている。


 ……いや、これ、“鬱蒼”なんて言葉で済ませていいのか?


 森と云ったら、微妙に灰色がかった茶色の樹の幹の色と、青々とした葉っぱの緑、そして下生えの草の緑色と落ち葉の茶色といったものだ。


 だが、私の目に見えている森は、それに加えて何故だか紫色のおかしな靄が発生している。


 これはそうだな、鬱蒼ではなく、おどろおどろしいというべきじゃなかろうか。


 というか、なぜ私はこんなところに突っ立っているんだ? なにより私は誰だ? 微妙に小難しい言葉が出てくるくらいには知識があるというのに、思い出の類はもとより、自身の事に関することがまるきり思い出せないぞ。


 右を見る。


 右手側にはまばらに蔓草の這う壁がずっと先まで続いている。


 左を見る。


 同様に壁がずっと続いている。


 壁はそれなりに老朽化が進んでいるようで、塗り固められた漆喰が所々剥がれ、煉瓦が顔をのぞかせている。


 ……こんな森のど真ん中にあるような感じの場所で、どうにもしっかりとした町だか村であるようだ。


 後ろを振り返る。


 自分は町? の門のところに立っていたようだ。だが門自体は老朽化で蝶番が壊れたのか、町側に倒れていた。木板を並べて、10センチくらいの幅の鉄板で釘打ちして造られた大扉だ。


 倒れた扉の木の部分はもう腐れていて、殆ど原型を留めていない。すっかり錆びた鉄板が骨組みのようだ。踏み固められた地面のそこかしこに生えている雑草に、なかば埋もれている。


 上を見る。


 頭上には門柱の上から弧を描くように渡された金属製の看板。昔見たウェスタン映画の町にあるような『Welcome』と記されているようなものだ。


 というか、この看板も同じだ。いや、こんな場所に『ようこそ』もなにもないだろう。日本のアーチ状の金属性の枠の間に、この世界の文字で『ようこそ!』と金属の棒を捻じ曲げたものを溶接したものだ。

 これもまた腐食が進み、かなり傷んではいる。


 ……。


 ウェスタン映画とか溶接とかの知識はあるのに、それらをどこで覚えたのかについてはまったく思い出せないな。


 まぁ、思いだせたところで、それで私の現状が助かるわけでもない。


 この様子からして、絶対にこの町は無人となっているだろうし。


 最後に、私自身を確認する。


 小さい手。そして着ているものは、妙に厚い生地のワンピース。いや、ドレスか? 【落穂拾い】だっけ? あれに描かれていたご婦人たちの着ているような感じの服だ。なんだか商人の前掛けみたいなポケット付きのエプロンもしてるし。

 頭に手をやると、帽子みたいなものを被っているようだ。えーっと、あれだ。看護婦さんとかメイドさんが被ってる、というよりは頭に乗っけてるあんな感じのヤツだ。


 どこのウェイトレスだよ!! というか幼女じゃねぇか。


 つーか、私、女だったのか。幼女とはいえ。まぁ、いいや。とりあえず、現状をきちんと把握しよう。


 私は門をくぐり村内に入ると、壁に沿って町をひと巡りすることにした。






 壁沿いをぐるりと歩いて門にまで戻ってきた。


 幼女の足で2時間と掛からなかった。


 うん。町じゃなくて村だな、ここ。建物はほぼ民家のみ。特殊なものとしては、教会と鍛冶屋、薬屋があるだけだった。商店の類は無かった。いや、中央のほうはまだ見ていないから、そこにあるのかもしれない。私が見たのは壁沿いの建造物だけだ。


 とはいえ、商店がなかったとしても当然か。どうみても僻地としかいいようのないこんな場所で、経済活動も何もないだろう。やたらと堅牢な感じに壁が作られているが、開拓村のひとつであると思われる。


 村というよりは、村長を中心とした大規模な農場みたいなものだろう。


 そして人影はなし。壁沿いにあった家屋のいくつかをみたが、(もぬけ)の空。そして大半は倒壊していた。


 みたところ明らかに破壊されていた感じだ。木戸なんかには獣の爪痕みたいなものもあったし。


 教会は健在であったが、大扉は破壊されていた。中を覗いてみたところ、扉の周りに家具類が散らばっていたところから見るに、バリケードとしていたのだろう。


 中にはたくさんの骨が転がっていた。明らかに人の骨とわかるものだ。襲撃からはそれなりに時間が経過しているという証拠だ。そしてこうして骨が残っているということは、どうやらここを襲った獣共? は、一切残さず喰らわなかったのだろう。入り口から見える範囲だけでも、頭蓋骨と思われるものが十以上はあったと思う。


 時間はかかるが、あとで併設されている墓地に埋葬するとしよう。


 心配なのは食糧だが、すくなくとも村内にある畑は無事なようだ。荒らされもせずに、芋だか人参だかが植わっていた。


 見た感じ収穫はできそうだ。それに、各々の家を物色すれば保存食くらいみつかるだろう。当面はそれで凌ぐとしよう。


 あとは……そうだ、井戸を確認しないといけないな。なによりも水は大事だ。






 日が傾き始めた頃、私はもっとも状態のいい家であった鍛冶屋にお邪魔して、寝床を整えていた。食料品は畑から引っこ抜いてきた大根。そしてこの家に備蓄されていた保存食たる干し肉だ。


 保存食、とはいってもこの町の荒廃具合から結構な日数が過ぎていると思われる。傷んでいるのではないかと思ったが、食用とするには問題がないようだ。


 いや、石のように固いことを除けばだが。とりあえず、湯を沸かして、そこにこの干し肉と大根を放り込んで煮込んでやろう。味に関してはまったく期待できないが、食べられないよりはマシだ。なによりさっきから腹の虫がうるさい。


 いい感じに煮あがったところで、椀によそりいただく。


 手にした椀もフォークも木製だ。てっきり虫にでも食われてボロボロになっているかと思いきや、不思議としっかりとしている。


 表面が真っ黒だし、もしかして漆塗りか? もしかしたら、この村では漆塗りの木工製品を作っていたのかもしれない。


 風雨に晒されていなければ、そうそう朽ちることもなかったのだろう……?


 その辺はよくわからんな。まぁ、まともに使えるんだから問題無かろう。


 さて、味は?


 ……うーん。さすがにただの水煮じゃ、うまいもんじゃないな。そも干し肉の塩っ気だけじゃたかが知れてる。調味料の類も探せればよかったんだが、暗くなりすぎて間に合わなかった。とりあえず、干し肉を噛み千切ることが出来るようになったのだから、良しとしよう。


 さて、どういうわけか私には料理の知識も一応あるようだ。思い起こせば料理レシピがゴロゴロとでてくる。が、材料がなければどうにもならん。まぁ、私はあまり食にこだわらない質のようだ。美味しいにこしたことはないが、不味いからといって投げ捨てるような事はしない。


 さすがに、これは食べるのは無理だ、というレベルであれば廃棄するが。


 ひとまず今日はこれを食べ終えたら、とっとと眠るとしよう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
新作ありがとうございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ