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碑文の謎3

 純粋な魔力の質という力比べを難なくクリアしたクロノベルトは、次に挑むべき碑文の謎という知恵比べに臨む前にアインハルトがどういった人物なのかを想像・予想し、考えてみることにした。そんなことをする理由の1つとして、碑文の意味を読み解くための手掛かりになるのかもしれないと考えたからだ。

 もう1つの理由は、この下に待ち受けているものや眠っているであろう秘宝が何であるのかを予想して備えることが出来ないかと考えたからでもある。どちらもそこまで期待できるものではないだろうが、何も考えずに挑むよりかはマシだろう。

 まず、最初に思い浮かべることが出来るのは、力比べでは何の捻りもなかったことから真っ直ぐな性格だろうということが窺い知れる。そして、二重で仕掛けを施していることから慎重で用心深い所もあるということが考えられるだろう。それに伴い、何が何でも秘宝を守ろうという揺るがない意思というものを汲み取ることが出来る。

 このことから、下に眠っている秘宝はよほど彼にとって大切なモノなのだ、ということが読み取ることが出来るだろう。まぁ、こんな大掛かりな仕掛けを施しているのだ、それは容易に考え付くことではある。問題は、ここまでするほどの大切なモノが何なのか、ということだ。こればっかりは予想の範疇を超えるものになる可能性が高いので一旦思考を止めることにした。

 まとめてみると、真っ直ぐな性格以外は凡そ魔術師として備えている性格であり、人格の持ち主なのだということが考えられる。あくまで与えられている情報から主観で感じて予想した人物像なのでそこまで当てにしない方がいいというのは頭に入れておいた方がいいだろう。


 これらのことを踏まえて、碑文の文面が何を指し示しているのかを読み解いていこうと思う。



 まずは"自ずと備わるモノ"について考えてみる。

 考え得る中で魔力が一番適切な答えだと思われるが、()()()という言葉に引っ掛かりを覚える。もし本当に魔力なんだとしたら、()()()()といった言葉になっているはずだ。だから、魔力が答えではないのだろうと考えつく。

 ならば、一体何がこの問い掛けの答えになるのだろうか……。

 初めからでないのなら、経験を積むことで身に付くもの――もしくは、成長していくことで身に付くものという2つの考え方が出来る。

 しかし、そんなものがあるのだろうか、とクロノベルトは考える。

 あらゆる可能性を考えている中、1つの考えに辿り着く。もしかすると"力を求める"と謳っているが、それがそもそもの間違いなのではないかと――

 力ではなく、別のモノ――()()()()()()()()()()()()()()、そういったもののことを指しているのではないのだろうか、と。

 それならば話は変わってくる。

 数ある答えの中から大方の答えを思い浮かべたクロノベルトはそれを確実なものにするために、次の問いに取り掛かる。


 次は"決して切れないモノ"がどういったものなのかだ。

 普通に考えたらその答えは切ることが出来ない物質ということに行き着くだろう。だが、本当に答えが何かしらの物質なんだとしたら、この広い世界にはそんなものは溢れかえっている。そのことからこの問題の答えに当て嵌めることは妥当ではないと考え付くことが出来る。

 それに、もし当て嵌めることが出来たとして、考え方や方法なんかによってもそれを覆すことが容易に出来ることからこの問いかけの答えは物質ではないのだということが分かる。

 それならば、何が答えになるのか……。

 それは、先程思い浮かべた答えがヒントに繋がるはずだ。しかし、如何せん思い当たるものが多すぎて答えを絞ることがなかなか難しいところではある。その数ある答えの中からどう絞り出すのかが鍵になってくるだろう。

 さっきの考え方で予測を立てるのなら、自分に関係したものになってくる。

 自分にとって決して切れないものが何であるのかを先程考え付いた答えの中から照らし合わせていく。すると、1つだけ思い当たる答えが見えてくる。()()()()()()()()()()()()()といった、自分にとって大切な繋がりのあるもの――おそらくだが、それが答えになるだろう。

 それと同時に、これまでの問答に法則が存在しているということに気付く。

 それならばと、次の"近くて、遠きモノ"がどういった答えになるのかを導き出すことも出来る。先程の答えに似ているが少し違うもの――これも人によっては大切な繋がりと言えるものだろう。


 問題は最後の"一生の内で手に入るモノ"が何であるかだ。

 今までの答え同様、考え方は一緒だと考えられるのでどういった答えなのかを大方予想することが出来る。ただ、予想することは出来るのだが、その予想し考え付いた答えというのが問題なのである。その問題というのが、3つ目の答えに類似しているということだ。おそらくだが、その問題点をどう解消するのかがこの問い掛けの真意にもなっているのだろう。

 そもそも、答えが似ているということは考え付いた答え自体が間違いなのではないのか、と考え込む。

 しかし、いくら考えてもそれ以外の答えを思い付くことが出来ない。ということは、やはりこの答えで合っているのだろう。それならば、その答えをどのように当て嵌めるのかを考えなくてはならない。

 可能性の1つとして、言葉の意味を噛み砕いて3つ目の答えとの相違点を探し出す。そうすると、3つ目の答えとの明確な違いを見つけ出すことが出来た。これならば正しい答えとして選んでも問題はないだろう。



「ふぅ……。とりあえず、碑文の答えを全部導き出すことが出来たかな?」

 碑文の謎を解いたことで一段落したクロノベルトは深く息を吐き一息を吐く。

 そうすることで心を落ち着けたクロノベルトは導き出した各々の答えを一旦否定してみる。そして、別の答えがないか再び探し始めるのだった。

 何故わざわざそんなことをするのか、疑問に思う者もいるだろう。

 そんなことをする理由は考え付いた答えが合っているとは限らないからである。それに、何も答えは1つだけとは限らないからだ。

 可能性というものは1つしかない訳ではない。数ある可能性の中から一番正しいと思うものを選び抜き、見出すことで一番良い道へと進めることが出来るからだ。


 人というものは考えるのを辞めてしまうとその時点で成長が止まってしまう生き物だ。考えて、考えて、時にはその考えがぶつかり否定されることもあるだろう。それでもまた考えて、最善と思える道を導き出す――魔術師という人種なんかは探求することを目的としているのだ、尚の事思考を停止するわけにはいかないのだろう。だから、一度自分が考えた答えを否定して別の正しいと思える"答え"がないのかを探し出すのだ。



 そうして、しばらく思考を巡らせていたクロノベルトは他に正しい答えがないことを確認すると、大きく息を吐き宙空を仰ぎ見る。今度こそ納得のいく結果が出たというのに、その表情からは何処か浮かない様子を感じ取れる。

「……いくら考えても他の答えだとおかしくなってしまうか……。違和感はあるけれど、とりあえず試してみないことには始まらない。それに、試してみることで違和感の正体が分かるかもしれないしな」

 納得したという訳ではないようだが、これ以上ここで考えていてもどうしようもないと考えたクロノベルトは、一旦違和感に感じるものを頭の隅へと追いやる。そして、自分の考えた答えが正しいのかを確かめるために下に降りる決意を固める。

「よしっ! それじゃあ、下に降りてみるか。……この下に何が待ち受けているのか分からない。気を引き締めて降りないとな」


 改めて気を張ったクロノベルトは建物を中心とした螺旋状の階段をゆっくりと、慎重に警戒しながら降り下りていく。灯りなどは設置されていないので自分で用意しようかと思ったが、仄かな明りが中を照らし出しているのでその心配をすることもなかった。

 どういう魔術を使ってこの状況を再現しているのか気になる所ではある。だが今はそんなことよりも、この下に眠っているであろう秘宝を探り明かす方が先決だろう。

 階段を降りてしばらくすると、段々と明るくなってくるのを感じ取る。おそらく、目指している場所が近いのだろう。ここまで何の罠もないことに拍子向けしつつも、これ以上余計な仕掛けなどがないことにクロノベルトは安堵する。

 それから程なくして、部屋らしい場所へと辿り着く。何故そんな曖昧な言い方なのかというと、目の前にドアが立ち塞がっているからだ。ここまで何もなかったことから、このドアに何かしらの仕掛けが施されているのだろうと考えたクロノベルトは身を引き締めて対処に当たる。

 まず試しに蔵に入る時と同じように小石をドアに当ててみる。すると小石は何もなかったかのようにドアに当たりそのまま落ちていく。どうやら結界や罠の類の物は仕掛けられていないようだ。次に恐る恐るドアノブに軽く触れてみるが、そちらも特に変わったことはなく、何ら変哲もない普通なドアだということが分かった。不測の事態に備えるために警戒し緊張していたが、何の仕掛けもなかったことで一気にそれが途切れてしまいドッと疲れが押し寄せてきたのか深い息を吐くとドアの様子を窺うようにして眺める。

 勿論、このドアの向こうに罠が仕掛けられていることは拭い切れないが、そこまで考えていてもしょうがないだろう。その時はその時だ、と言わんばかりにクロノベルトは改めて警戒するとドアを開けようと試みる。先程はドアノブに触れても何ともなかったが握った瞬間、僅かにだが電気が走るような感覚を覚える。だが、一瞬ということもあったので静電気だったのだろうと思い、ドアノブを回そうとする。すると、やはり蔵に入ったとき同様、鍵は掛かっておらずすんなりと開くことが出来た。秘宝がある場所にしては不用心過ぎると思いながらも、この先に待っているであろう出来事に警戒を更に強める。そして、ゆっくりとドアを開けると、物陰に隠れるようにして中の様子を窺う。


 一見して、ドアの向こうにはありふれた普通の部屋のように見える。ただ一点、中央に()()()()()が設置されていることを除いては――

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