夢現
非常に申し訳ないです…。予想以上に長くなったのと、なかなか思い浮かばなくて時間が掛かりました。頭の中では思い浮かべることは出来ているのですが、文章で書くとなると上手くいかなくて手こずってしまいます。…前にも言ったかな、これ。
とりあえず、次で終わりなので明日中には投稿できるように頭を捻らせます。
エンテが気を失ってから早5日が経とうとしていた。連日の無理が祟って体調を崩してしまったクロノはアルスに叱られて1日だけ休養を取ることになった。それでも、クロノは時折部屋を抜け出してはエンテの様子を確かめに見に来ていた。そのことを把握していたアルスは呆れつつも、クロノの行動を特に咎めることなく無理をしないように釘を刺すだけだった。
その翌日、体調が完全に回復していないまでも、ある程度は良くなったクロノはエンテの側で彼女の様子を見ていた。自分がいつも身に着けている首飾りをエンテの手に握らせ、自身もそれに重ねるように彼女の手を握って――
「…………」
「(ここ最近、特に魘されていたから、これで少しは安心してくれるといいんだけど……)」
いつも自分が大変な時に首飾りに助けられていることから、他の人にも効果があるのかもしれないと考えたクロノは藁にも縋る思いでエンテに大切な首飾りを握らせる。ただの気休めや自己満足なのかもしれない。だけど、クロノはこれぐらいしかエンテにしてあげられることがないと思い、自分に出来る精一杯のことを彼女にするために行動した。例え、自身が精神的に疲れていたのだとしても、彼は行動を改めたり止めることはないだろう。
「……ん……、うぅ……」
「っ! エンテ! 聞こえるか、エンテ!」
エンテが魘されていると思ったクロノは座っていた椅子から立ち上がると、彼女の名前を呼び掛け意識を戻そうと試みる。すると、クロノの声に反応するかのようにエンテは呻き声を上げて彼の呼び掛けに答える。
「うぅ……、……うぁ……」
「お願いだ……。きみはもう、悪夢なんて見る必要はない……、だから、目覚めてくれっ!!」
「うっ…………、うる、さい、ですね。人の耳元で、騒がないで、ください……」
「……っ!? エンテ……! よ、良かった……、本当に、良かった……」
目を覚ましたエンテを見たクロノは嬉しさのあまり、勢いで彼女に抱きそうになるが既所で抑えて事なきを得る。状況が分かっていないエンテは横になったまま、辺りを見回し状況を確認しようとする。だが、起きたばかりで頭が働かないのか、見回した後に寝惚けた眼でクロノのことを見ると、彼に今の状況がどうなっているのかの説明を求めた。
「……ここ、は……、私の部屋……ですか? 一体……、何が起きたのですか……?」
「……何も、覚えていないのかい?」
「ん、うぅ……」
「! 無理に起きようとしなくてもいいよ!」
起きようとしたエンテを制止すると、クロノは彼女の言動を確かめるようにそっと見守る。しばらく考え込んでいたエンテは何も思い当たることがないのか、クロノに何があったのか問い掛ける。
「何があったか、教えてもらってもいいですか?」
「……あの日、僕と口論になったことは覚えているかな? その最中に雨が降ってきたんだ」
「はい……雨が、降ってきた所までは、覚えています……。ですが、その後のことは……よく覚えていないです」
「そう、か……。えっと……、そうだな……。その後、きみは気を失ったんだけど……本当に覚えていないんだね?」
「気を、失っていたのですか……? ……どれくらい、私は眠っていたのですか?」
「……、あれから5日は眠っていたことになる。その様子だと、全然覚えていないようだね」
「……はい。何があったのか全く覚えていません」
「そうか……、それならいいんだ。……実は、その時に取っ組み合いになってきみのことを強く突き飛ばしてしまったんだ。その時の衝撃で今まで気を失って眠っていたんだよ」
クロノは咄嗟に出任せな嘘をエンテに伝えてその場を収めようとする。そんなことをする理由は、エンテが言っていたことにまだ確証が持つことが出来ないからだ。それだけじゃなく、言っていたことが仮に真実なのだとしたら、彼女にとってそれは信じ難い現実だと言えるだろう。ただでさえ、錯乱して気を失うまでになっているのだ。そんな現実を突き付けるなんてことをしたら、エンテの心は確実に壊れてしまうのではないか――クロノはエンテのことを想って、自分が悪になってでも彼女に真実を隠し通そうと考えたということだ。
そんなこととは露知らず、クロノの説明を受けたエンテは呆然としながら、彼の言葉に納得するように頷く。
「……そうだったのですね」
「本当にごめん。図星を突かれたからといって、熱くなってきみに乱暴なことをするなんてよくなかったよ。これからはそうならないように気を付ける」
「…………。別に、過ぎたことです。あまり気にしないでください」
「うん、本当にごめん」
クロノはエンテに謝ると、それで話が終わりというかのように2人の間に沈黙が流れる。
エンテが起きたことを確認し、安心したクロノは部屋から出ようと立ち上がる。しかし、そこでエンテが何かに気付くように、左手に握られたモノを自分の顔に持っていきその握られたモノを確認しようとする。
「? 何かを持って……、これは――貴方が身に着けている首飾り……ですか? 何で私がそれを握っているのですか?」
「え……、あぁ。忘れていたよ。きみが魘されていたから、少しでも気が休まるように、と思って握っていてもらったんだ。結局、意味がなかったみたいだけどね」
「……そう、ですか……、どうりで――……あ、これは返しておきますね。ありがとうございます」
クロノに一言お礼を言ったエンテは、手に握っていた首飾りをクロノに返却する。エンテから首飾りを受け取ったクロノはその場で身に着けることなく、ポケットに首飾りを仕舞う。首飾りをポケットに仕舞うのを確認したエンテは、クロノが発言した内容で気になったことを訊ねてみることにした。
「……本当は、何があったのですか?」
「……え? それは一体、どういう意味かな?」
「貴方はさっき、私が魘されていた……と言っていましたよね? 貴方と取っ組み合いになって気を失ったのだとしたら、魘されるのはおかしいのではないですか?」
目が覚めてからある程度時間が経ったからか、頭が回り始めたエンテは話していた内容で矛盾しているであろう箇所を切り込んで指摘する。迂闊な発言でエンテに看破されそうになったクロノは、それらしいことを言って話を誤魔化そうとする。
「いや、それは……激しい取っ組み合いだったから、そのことを思い出して魘されたんじゃないかな? ほら、よく言うだろう。嬉しかったことや楽しかったことよりも、嫌なことは覚えやすいって。気を失う前に嫌なことがあったんだ。きっとそれを夢で見て魘されていたんだよ」
「……、貴方の話は確かに聞こえはいいから、そうなんだと思いそうになる。だけど――だからこそ、貴方は自分が言ったことが嘘なんだと証明したことになるんですよ」
「嘘……? 別に僕はおかしいことは言っていないはずだけど……、きみの勘違いなんじゃないかな?」
「それでは言いますが、取っ組み合いで突き飛ばされたからといって、私は別に怒ったり嫌な気分になったりはしません。どちらかというと、それで受け身を取ることが出来なかった自分に腹が立ちます。……だから、貴方が言ったその理由で私が魘されるなんてことはない、という訳です」
「……きみが意識的に思っていることはそうなのかもしれないけれど、無意識下では嫌だと思っているかもしれないだろう?」
「そうなのかもしれないですね。ですが、私は言ったはずです。貴方自身が嘘だと証明したと……。嫌なことは覚えやすいといいましたよね? ……貴方と出会って、今まで嫌なことや不愉快なことは多々あったけれど、魘されるまでのことはありませんでした。昔の私の記憶を除いて――」
「それは……」
思いも寄らないエンテの指摘にクロノはたじろぎ言葉が詰まってしまう。
普通ならば、クロノの言い分が通ってこの話は難なく終わっていたはずだった。しかし、人の考え方というのはそれぞれ違い、理解していると思っていても推し量ることが出来ないと言えるだろう。ただ単に、エンテが特殊なだけなのかもしれないが――
「ふぅ……貴方は、嘘が下手ですね」
「そんな、ことは……」
「勘違いしないでください。貴方を責めている訳じゃないんです。ただ、私があの時何を言っていたのか……、何で気を失ってしまったのかを知りたいのです」
「エンテ、……きみは、覚えてるのか……。あの時の事を――」
「…………」
クロノに訊ねられたエンテはその問いに答えることなく、彼のことをじっと見詰めて自分が問い掛けた返事を待っている。何も言うことなくエンテに見詰められたクロノは、これ以上は隠し通すことはが出来ないと思い、彼女に何があったか答えることが出来ないと告げることにした。
「……隠すようなことをして、ごめん。だけど、きみの質問には答えられない。勝手な判断をして申し訳ないけど、きみは知らない方が良い」
「……そうですか。それだけ聞ければ充分です。……、私は、魘されていたんですよね? 何か、変なことを言っていませんでしたか……?」
エンテは恐る恐るクロノへと問い掛ける。そんなエンテにクロノは何か口にしようとするが、口を噤んで頭をゆっくりと振る。そして、先程失言してしまったことを考えて、エンテを傷付けないように慎重に答える。
「何も、言っていないよ。ただ、呻くような魘され方をしていたから、それを聞いてしまったのは申し訳ないけど……」
「……そうですか。それならいいです」
「それじゃあ、僕はもう行くよ。いつまでも女の子の部屋にいる訳にはいかないしね」
話が終わったということで、クロノはエンテの部屋から出て行こうとする。しかし、エンテはクロノを引き留めるかのように声を掛ける。
「――貴方は何で私が気を失ったのか……、聞かないのですか?」
「……、聞かないよ。気にならない――って言ったら嘘になるけど、そういうことは無理に聞き出すものじゃない。だから、きみの心の整理がついて、話したいと思った時にでも話してくれないかな? 僕はいつでも聞くから」
「そう、ですか……。私は…………、いえ、何でもないです。そう言ってくれると助かります」
「…………」
何かを言おうとしたエンテにクロノは息を呑んで彼女の発言を見守ろうとする。しかし、直前で止めてしまったエンテに、クロノは少し安堵してしまう。いくら話を聞くといっても、いざその話題になった時に彼女の話を受け止め切れるのか不安な所があるからだろう。そんな自分が情けないと思いつつ、クロノは重い雰囲気にならないように話題を変えようとする。
「そういえば、しばらく寝ていたんだ。お腹が減っているんじゃないかな?」
「……そう、ですね。魔力は特に問題ないですが、少しお腹が減っているのかもしれないです」
「そうか。それじゃあ、早速軽い食事を作ってくるよ。きみはまだ本調子じゃないんだから、ここで待っていてくれないかな? 出来たらここに持ってくるよ」
「別に、そこまでしなくても――」
このまま変に気を遣われるわけにはいかないと思ったエンテは立ち上がろうとするが、体に力が入らなくて手が滑りそうになってフラついてしまう。フラついてしまったエンテをクロノは受け止めると、そのまま彼女を横に寝かせる。
「……っと、だから言っただろう? 今は無理をせずにゆっくり休んでいてくれ」
「……、分かりました。それでは、遠慮なく休ませてもらいます」
「うん。それじゃあ、行ってくるよ。すぐに戻るから待っていてくれるかな?」
「……っ、…………嘘吐き」
「え?」
クロノの言葉にエンテは誰に向けるでもなく、無意識に口から言葉が零れ落ちる。クロノはエンテの言葉に戸惑うと、どう返答するのがいいのか考えてしまう。クロノの反応を見たエンテは失言してしまったことに気付くと、取り繕うようにその場を収めようとする。
「あっ……、いえ、何でもないです。分かりました。待っているので行ってきてください」
「…………あぁ。行ってくるよ」
困惑しながらもクロノは言葉を選んでエンテに声を掛けて部屋を後にした。
部屋に取り残されたエンテはクロノが出て行ったドアを見つめると、誰かに聞かれることなく1人呟く。
「……ありがとうございます――クロノベルト」
エンテのか細い声は中空へと響くと、クロノが戻って来るまで彼女は浅い眠りへと就くのだった。




