嵐の予感
非常に遅くなってすみません…。頭の中では話が出来ているには出来ているんですけど、それを纏めて書きあげるのは苦手なのでどうにも時間が掛かってしまいます。それで土曜日の勉強会も失敗しましたしね…。
調子が良いときはすぐに頭に思い浮かぶんですが、悪いときはとことん悪いのでここら辺はどうしようもないです。
言い訳はこれくらいにして、
こんな駄目な私ですが、気長に待ってもらえれば、と思います。本当にすみません。
一通り話が一段落した2人は組み手の続きを再開しようと身構えようとする。しかし、エンテは何か考えがあるかのように構えを解くと、妙なことをクロノに提案し始める。
「……思ったのですが、その短剣を使って手合わせをしてみないですか?」
「この短剣を使って……? いや、流石に危ないから駄目だよ」
「何でですか。魔術師が対面する相手というのはそういう刃物を持ったい人もいるのでしょう? だったら、今の内にやっていてもいいのではないですか?」
「……もうそこまで考えていたのか。だけど、きみにはまだ少し早いかな」
「早いも何も、少しくらいいいじゃないでですか。あの時みたいなことが今後あるかもしれないですし、軽くでもやっておいた方がいいと思います」
少し剝れるようにエンテはクロノに抗議する。クロノはエンテに抗議されたことを聞きながら、彼女の意見に同意するように頷く。しかし、同意出来るといっても危険なことに変わらないことから、クロノはエンテに諦めてもらうよう説得を試みる。
「確かに、きみの言い分はもっともだし、同意したいとは思うよ」
「分かってくれましたか。それなら、早速――」
「それでも、やっぱり危ない事には変わらない。それに、あの時のようなことはそうそう起こるものじゃないし、そもそもそういう場所にきみを連れていくつもりはないよ」
「……どういう、ことですか。私は、貴方のパートナーなんじゃ、ないのですか……?」
「パートナー――助手ではあるけど、別に危険な場所に連れて行くなんて決まりはない。きみにはなるべく安全で命の危険がない任務に着いて来てもらうつもりだ」
「何ですか、それは……。そんなんじゃ、一向に強くなることなんて出来ないじゃないですか!」
クロノの思いがけない言葉にエンテは声を荒げ、反発するように抗議をする。しかし、クロノはエンテの言葉に耳を貸すことなく、彼女を諭すように宥めようとする。
「別に、危険な任務に行くだけが強くなる方法じゃないだろう? 地道かもしれないけど、ここでこうして鍛錬をしていても強くなることが出来る。何事も近道なんてないからね」
「……私は、貴方の都合の良い鳥じゃない」
「……例えどう思われたとしても、この安全な場所に居てもらうつもりだ」
「そういうことですか……。貴方は最初から私を飼い殺そうとしていたのですね。それなら、私はここから出て行きます!」
「……っ、買い殺すつもりなんてないよ。僕はきみが心配なんだ。それに、そもそも出て行くといっても行く所なんてないだろう?」
「心配だからといって閉じ込めているのなら、それは買い殺しているのと一緒ですよ。私の自由を貴方に奪われるくらいなら何処かで野垂死ぬ方がマシです」
「そんなことは、させたくない……。きみの意思は尊重したい……だけど、きみが傷付く所は見たくないんだ。だから、危なくないと思えるまでもう少し待ってくれないか?」
クロノの言葉に失望するかのようにエンテは息を吐くと、確信めいたように彼に言葉を投げ捨てる。
「ふぅ……、貴方は私が大切なんじゃなくて、自分が大切なんじゃないですか?」
「……え?」
「貴方と話していて分かりました。何に怯えているのか分かりませんが、貴方は私を見ているんじゃない。誰かを想っているようなことを言っていますが、本当は自分しか見ていない。……あの時はそんな風に見えなかったのに――」
「そんな、ことは……」
エンテの言った言葉にクロノは図星を突かれたかのように反論することが出来ずに口籠ってしまう。そして、まるで何もかもを見透かすかのようなエンテの瞳から逃れようと、クロノは視線を逸らしてしまう。いつもならここでエンテが視線を逸らしたりする所を、クロノの内側を覗き込むように未だ彼のことを見ている。
再び険悪になってしまった2人の心象を映し出すかのように雷の音が轟響く。そして、それに合わせるようにして雨がポツリ、ポツリと静かに降り始めた。雨が降り始めてもクロノ達は意に介することなく、お互いに黙ってそこに突っ立っている。
降っていた雨は次第に勢いを増して無情にも2人へと打ち付けられる。このままではずぶ濡れになってしまうと思ったクロノはエンテと目を合わせないまま屋敷の中に入ろうと促す。
「……エンテ。雨が強くなってきたから一旦中に入ろう。話すならそこでじっくりと話せばいいだろう」
しかし、声を掛けられているというのにエンテは返事をすることなくその場に立ち尽くしている。それどころか、空を見上げると震えるように小さな声で呟く。
「あ、め……――」
何かに恐れるように怯えるような表情で顔を歪めながら1歩、又1歩とゆっくり後退っていく。いつまでも動く気配がないエンテを気にしたクロノは後ろを向くと、再度彼女に声を掛けて促そうとする。
「エンテ、話はいつでも出来るだろう。だから――……エンテ?」
エンテの様子を見たクロノはいつもとは何処か様子が違うことに気付き、心配そうに彼女の名前を呼び掛ける。しかし、当のエンテはクロノの声が聞こえていないのか、ぶつぶつと何かを呟きながら後退っていく。
「違、う……、わ、私は――わた、しじゃ、ない……。私は、彼女を――」
エンテが何かを口遊もうとした時、彼女の声と重なるようにして雷が落ちてエンテの言葉は掻き消されてしまう。それと同時に、後退っていたエンテは足を滑らせて転んでしまう。転んでしまったエンテはそのまま自分を抱くようにすると、何かを繰り返すように口走っている。
明らかに様子がおかしいエンテにクロノは近づき跪くと、彼女の肩を掴んで正気なのかを確かめようとする。
「エンテ! どうしたっていうんだ……。正気なら返事をしてくれ、エンテ!!」
「私は、違う……、私はやっていない……。違う違う違う違う違う違う違う! 何でこんなことに……、私じゃ、ない!! 私は、私は――」
「一体、何を言っているんだ……。きみは何もやっていないだろう? それとも、何かやったことでもあるのか……?」
「……私が、やったの……? わたしが、全部……全部全部全部!」
「そんなこと言っていないだろう。お願いだ、話を聞いてくれ!」
「そうだ……、そうなんだ……。わたしが、全部、やったんだ……。だから、こんなことになったんですね……」
クロノはエンテと会話をしようとするが依然として、話が通じることなく脈絡が分からないまま意味不明なことを口走るだけだった。それに加え、エンテは何処か遠くを見るように虚ろな瞳で視線も定まることなく中空を彷徨うばかりだった。
こうなってしまったことにクロノは戸惑ってしまいそうになるが、冷静に状況を把握しようと努める。エンテの尋常じゃないほどの怯えようや言動から、クロノは何となく察して彼女の言葉を必死に否定する。
「きみは何もしていない! そんな記憶は間違っているんだ! きみがそんなことするわけがないだろう……だから――戻ってきてくれ、エンテ!!」
「そう、ですよね……」
「……はぁ。戻ってきてくれたか、エンテ。良かったよ……」
「……私が全て、……やった。わたしが、彼女を殺したんだ……」
「っ、違う! そうじゃない!! きみは何も――」
「ふっ、ふふ……ははは、あーはっはっはっはっはっは」
何かを理解し納得したかのように、エンテの悲痛で苦しい笑い声がその場に木霊する。一頻り笑ったエンテは全てを吐き出したかのように、ぷっつりと事切れて意識が途絶えてしまった。
「…………」
「エンテ! エンテ!! 返事をしてくれ、エンテっ!!」
クロノの呼び掛けは虚しくも、激しくなる雨に掻き消されエンテに届くことはなかった――




