幕間 変わりゆく人形
幕間と言いつつ、この話結構物語の流れ的に必要な話なのでは?という疑惑が出ながらも書いてました。
一応、次からの話の導入の話にはなっているので、もしかしたら幕間から次の章の1小節目に変えるかもしれません。どうするのかは次の章の長さ次第ですね。計画性がなくて申し訳ないです…。
あ、ちなみに、この話の前の後書きで書いていた本の収録内容は次の章までになります。これまた内容がかなり長くなって申し訳ないです。ちょうど次の話でキリが良いというので、そこまで収録したかったのですよ。
後書きを読んでなくて本の話が分からない人向けに説明しますと、
少量だけど本出すよー!挿絵と書き下ろしもあるかもよ?内容は次の話までです!いつ出るか分からないけどね(笑)
という感じです。
我ながら適当ですね。とりあえず出す前くらいになったらお知らせしますので期待せずお待ちください!
予定が狂ってしばらく暇になったので勉強とかしながらちまちま進めることにします。
ヒルデの日記を手に入れてから二日経った昼頃、クロノは特にすることもなかったので庭園へと赴いていた。それというのも、2人で無事に帰って来たのは良かったものの、あれからエンテは眠りについたままになっているからだ。体には特に外傷は見られないが、未だに起きることがないことからよっぽど魔力を使ってしまったのだということが考えられる。ちゃんと起きるのか心配なので出来るなら側にいたい所だが、ずっと女の子の部屋にいることに気が引けたのでこうして庭園にいるのである。
エンテが起きない間にもクロノはヒルデから手渡された日記の内容を読んでみようとした。しかし、手渡された日記を読もうにもよく分からない文字であったり、文脈がバラバラだったりでまともに読むことが出来なかった。魔術師なのだから、自分に不利になることや秘密を隠したいことは分かる。しかし、それは魔導書などに限った話である。わざわざ日記にまでそんなことをするなんて、どれだけ注意深くて慎重な人だというのだろうか……。それ自体はやり過ぎなければ別に良いことではあるのだが、事今の状況に至ってはその事が仇となってしまっているのが否めない。
とりあえず、日記の内容を紐解きたいのは山々ではなあるが、屋敷にある本だけではそれも難しい所ではある。ヒルデやアインはエンテの兄弟となる子を探すために、いろいろな国を巡っていたということから、その国々の文字も使われていることが考えられる。それを調べるために教会や帝都の図書館に行きたい所だが、エンテが眠っている状態ではそれも叶わない。彼女を置いて調べるというのも1つの手ではあるが、彼女を置いて勝手に調べるのは少し違う気がしたので目が覚めるのを待っている、というのが現状である。それに、エンテにはこの屋敷にある書籍だけじゃなく、他の書籍や世界に触れてほしいと思っているので彼女が目覚めるのを待っているのだ。
それと、今回は少しの間しかいられなかったが、ヒルデ邸にもう1度赴いていろいろと調べたい、というのもある。それによってもしかすると、エンテの記憶を呼び覚ませるかもしれないと踏んでいるのだ。あくまで可能性の話でしかないが、その可能性が目の前にあるのならそれを試す他ないだろう。そのヒルデ邸に行くのも、エンテの協力が必要不可欠なのでどちらにせよ今は彼女の目が覚めるのを大人しく待つしかない。
そうして、庭で草花の世話をしていたクロノに声が掛けられる。
「――ここに、いたのですね……」
声を掛けられたクロノはその人物がいる場所へと振り返る。すると、そこには今まで眠っていたエンテが少しフラつきながら立っていた。そのことにクロノは驚くが、それ以上に嬉しさと安堵で胸を撫で下ろす。クロノはそんなエンテに優しく言葉を掛ける。
「っ……、エンテ! 良かった、……心配したよ。体はもう大丈夫そうかな?」
「……まだ、少し魔力がなくてフラフラしますが、大丈夫です。それよりも、貴方も私も無事にここへ帰って来た……ということは、あの悪魔に勝つことが出来たんですか?」
「あぁ。ギリギリだったけどね。何とか勝つことは出来たよ。……あの悪魔にはいろいろと言いたいことがあるけど――」
クロノは口惜しそうに呟き囁く。そのことにエンテは疑問を抱くが、それよりも気になったことをクロノに訊ねる。
「よく分かりませんが、私が意識を失った後にいろいろあったみたいですね。……それよりも、よくあの化け物に勝てましたね。私抜きでも大掛かりの術を発動させることが出来たのですか?」
「え、……あぁ。きみに言っていた魔術は使うことが出来なかったけど、こいつを使って何とかね――」
そう言ったクロノは腰に携えていた短剣を取り出し、エンテに見せる。
「……見た所、普通の短剣のように見えますが……、これで勝ったのですか?」
「あぁ、彼にも言われたよ。鈍らってね。確かに、この短剣は見てくれは普通の短剣のように見えるけど、少々特殊な短剣になるんだ。魔鉱石――という、鉱物を使って打たれた剣でね。魔力に反応するようになっているんだよ」
「……それは分かりましたが、それだけで勝つことなんて不可能でしょう。それに、魔術師が近距離で戦うのは極力避けた方がいいのではなかったですか?」
「そうだね。きみの言うように、近距離で戦うのは極力避けた方がいい。そもそも、ある程度そういった心得があるといっても限度がある。僕等はあくまで"魔術師"だからね。だから、近距離で戦うなんて本末転倒なことは極力避けるに越したことはないんだよ」
「……その魔術師であるはずの私は体術だけであの化け物に挑んだのですが?」
エンテは少し棘のあるような言葉をクロノに投げ掛ける。そのことに、クロノは申し訳なさそうにエンテへと言葉を返す。
「それは、本当にごめん……。あんな大物の悪魔が待ち受けているとは思わなかったとはいえ、正直少し楽観していたのかもしれない。今回は何とかなったけど、僕の考えの甘さできみに迷惑を掛けてしまった。だから、ごめん」
「…………冗談のつもりで言ったのですが、まぁいいです。それに、貴方は考えが甘かったと言っていますが、それは私も一緒です。今の自分の力でも何とかなると思っていましたが、そんなことは全然なかった。だから、お互いに甘かった……でいいんじゃないですか?」
クロノの言葉に対して、エンテは予想外な言葉で返す。彼女が冗談を言っているのもそうだが、自戒して反省を促していることにクロノは驚いてしまう。確かに、辛く厳しい戦いではあったが、それでも少なからず収穫はあったようだ。そのことにクロノは嬉しくて喜んでしまう。
「……きみが冗談を言うとは思わなかったから驚いたよ」
「私だって、冗談の1つや2つくらい言えますよ。ただ、必要ないので言いませんが」
「いいんじゃないかな。変に考えたりせずに好きなように言ったら。出来るならまたきみの冗談が聞きたいしね」
「……そんなこと言われたら言いたくなくなりますね」
「うーん、そうか……。まぁ、気が向いたら言ってくれないかな?」
「……そうですね。そんなことはもうないとは思いますが、気が向いたら言わないこともないです――そんなことよりも、彼女の日記は大丈夫なのですか?」
「ん、ああ。ちゃんと3冊、無事に持ち帰っているよ。ただ、軽く中を読んでみたんだけど内容がよく分からなかったんだ」
「内容がよく分からない……? それは一体どういうことですか」
「そうだね。ちょうど今1冊持っているからきみも読んでみるといいよ。そうしたら、僕の言っている意味も分かると思う」
そう言うと、クロノはローブのポケットから1冊の日記を取り出しエンテへと手渡す。手渡されたエンテはクロノに言われた通り、日記を1枚1枚確かめるように読み進める。読み進める毎にエンテの表情は微かにしかめてしまう。そして、最後まで読んだエンテはクロノに確かめるように言葉を吐き出す。
「……貴方の言っていた意味は分かりました。分かりましたが、そもそもこれは本当に彼女の日記なのですか? 貴方が適当に持ってきたもの、という訳じゃなく?」
「ヒルデさんの日記なのは確かだよ。実際に彼女から――いや、本の装丁からもそれが分かるだろう?」
「? ……確かに日記と書いてありますね。それでも疑わしいですが……、貴方を信じます」
エンテに疑われたクロノは咄嗟にヒルデから手渡されたことを言おうとしたが、言わない方がいいと考えて口を噤んだ。エンテにそのことを言って混乱させたくないというのもあるが、再び禁忌へと走ってしまうのを防ぐためでもある。エンテにこの話を伏せるのは気の毒ではあるが、彼女の為を思えば致し方ない。
少しでもその話題から離れるためにクロノは話を逸らし、エンテに提言する。
「そのことなんだけど、調べるために教会か帝都の図書館に行こうと思っているんだ。もちろん、きみも着いてくるだろう?」
「……そうですね。着いて行きますが、それよりも貴方にお願いしたいことがあります」
「僕に……? 何かな」
初めてエンテからの提案、それもお願いと来たのでクロノは驚いてしまう。以前までの彼女ならそんなことは到底言ったりしないことに、クロノは疑問に思いながらも頬が緩みそうになるのを堪える。そして、エンテがどんなお願いをいうのかを待つことにした。
「今から貴方と組み手をしたいのですが良いですか? あの感覚を少しでも覚えておきたいのです」
思いも寄らないエンテのお願いにクロノは面食らってしまう。それもそうだろう。今まで体術をすることに否定的で怠っていた彼女からそんな言葉が出てきたのだ。誰が聞いても驚いてしまうだろう。
そんなエンテのお願いにクロノは快く承諾しようかと思ったが、一先ず目の前のちょっとした問題を解消することをエンテに提案する。
「それは願ってもないことだけど、まずは魔力をちゃんと戻してからにしようか。きみのその言い分だと、"本気"でやらないと意味がないだろうしね」
「確かに、それもそうですね。分かりました。それじゃあ、今は魔力を戻すことに専念します。とりあえず――」
そこまで言ったエンテは言い淀むと、顔を背いて小さな声で一言こう呟いた。
「――お腹が空いたのですが……」
「っ! ……、そうだね。それじゃあ、早速ご飯を作ってくるよ」
エンテの思いがけない言葉にクロノはつい吹き出し失笑してしまう。そして、笑いを零しながらエンテのご所望通り、昼食を作るため屋敷へと入っていくのだった。




