胎動
とうとうここまで来ました。残り4小節で終わりになります。追加で書こうとしなければ、の話ですが…。
ちなみに、この次の話は書けていません。えぇ、書けていませんよ。これを投稿している時間では、ですが。あとちょっとなので、今日の20時半に再び投稿出来るはずです。何事もなければ…。
問題は明日ですね…。まぁ、今から明日にかけて私が何とかするでしょう。予測を立てても、精々1小節くらいになりそうですが…。その時はその時ということで、来年に持ち越させてもらいます。
私の攻撃は確かに悪魔へと当たった。そう、当てることは出来たのだが、何か違和感を覚えてしまう。
「(何ですか……、この感触。こんなのが肉体の感触のはずがない!)」
まるで鋼を殴りつけたかのような感触に私は困惑してしまう。人間ではないのだから当然……、いや当然なのだろうか……。その普通では考えられない硬い身体に、私の手は痛めてしまうことになった。
そんなことはお構いなし、と言ったように悪魔は私を見下ろしながら嫌らしい笑みを浮かべて警告を発する。
「いつまでも我の身体に触れていてもいいのか? なら、このまま燃やし尽くしてくれる!」
「っ!(冗談じゃない! そうなったら作戦どころではなくなってしまう……!)」
悪魔に警告されるまま私は急いで手を引っ込めて相手から距離を取ろうと後ろへ飛び退く。しかし、飛び退いた所で目の前にいたはずの悪魔の姿を見失ってしまう。まずい……、何処へ行ったというのだ。悪魔を探そうと辺りを見回そうとした時、背後から嫌な感じがしてすぐに振り向こうとする。すると、その嫌な予感は当たっていて、悪魔が今にもこちらを攻撃しようと拳を繰り出している最中だった。最早その攻撃は避けることも出来ないと察した私は、なるべくダメージを抑えようと体を縮こめて受け止めようとする。
「ぐっ!!」
それでも威力を抑えきることが出来ずに私はボールのように跳ねて転がってしまった。
まだ、だ……。まだやられてしまう訳にはいかない。転がりながらも私はすぐに体勢を整えようと足掻く。しかし、衝撃を和らげることが出来ずに辺りに聳え立っている木へとぶつかることになってしまう。
「くぅっ……!」
お陰で止まることは出来たが、転がってしまったことで服は泥や土が着いてしまってかなり無様で不格好になってしまった。自分の可能性を試すと言っておきながらこの体たらくである。自分の能力の低さに嫌気が差しそうになる。だけど、まだ私はやることが出来る。こんなことで心が折れる訳にはいかない。彼女の為にも、そして彼に後を託す為にも、私はまだ立ち上がらなければいけない!
「フン。やはり喰い応えがないな。少しは愉しめたが、所詮この程度よ。分かったのなら、身の程を弁えて早くあの男を呼び戻せ」
「……ります」
「……何?」
「断る、と言ったんです。私は、まだ負けてなんて、いません……!」
後ろにある木を支えにしながら、フラフラと私は立ち上がる。今で大体5分くらい経っているだろうか。早く戻ってきてほしいと思いながらも、まだ時間が掛かりそうなことに落胆しそうになる。だが、彼なら日記を見つけて戻ってきてくれる。そして、2人であの悪魔に吠え面をかかせてやる――そんなことを想像して気力を振り絞る。
「どうした、のですか? 私は、こんなことでは負けただなんて、思いません。私を屈服させたいのなら、殺すしかないですよ。もっとも、貴方のその弱い攻撃で出来るのなら、ですが……!」
「フッ……、血迷ったことを抜かしおる。そんなに死に急いで何になる? 我の目から見ても、お主はこれから強くなる可能性を秘めておる。それを無にするのか?」
「それは、ありがたい評価ですね。でも、私はそんなどうなるか分からない未来よりも、ヒルデが大事なんです! それを護るためなら、私は未来なんていらない!!」
「未来などいらぬ、か。過ぎ去ったことに執着するのも、また人というわけか……。だが、そんな脆い想いで我に勝つなど、夢のまた夢よ!」
悪魔の言うことはもっともなのかもしれない。だけど、私はこの想いを変えることはないだろう。自分なんかよりも、ヒルデさえ居てくれたら私は他に何も望むことはない。だから、私はこの戦いに挑むことが出来る。私が生きることさえ出来ていれば、彼女の正しさが、存在が証明されることになるから――
「そうだとしても、私は勝ちます!」
「勝つ、か……。そもそも、お主の役目は精々時間稼ぎであろう? ならば、遁げることに専念すれば良かろう。何故、そうしない?」
悪魔の言葉に私は反論する。私の選択を、正しさを示す為に――
「……確かに、貴方の言うように逃げ回ればそれでいいのかもしれないです。ですが、私はそんなことをしたくない。彼女なら、そんなことをしないと思うから――」
「ほぅ……。自らの命が懸かっているのにその選択を取るか。お主をそこまで突き動かすのは何だ?」
「さっき言ったでしょう。彼女が――ヒルデがそんな選択をしないのなら、私もそんな選択をしたくない。それに、逃げることはいつだって出来る……。それこそ、自分が脅かされるのなら逃げるべきだと思います。でも、逃げてはいけない時――立ち向かわなければいけない時に逃げたら、私が私じゃなくなってしまうような気がするのです」
「フッ……、充分な突き動かす理由ではないか。だが、遺憾にもその選択を取ることによってお主は死ぬことになる」
「――死にませんよ。彼と、約束しましたからね。だから、私は死ぬわけにはいかないのです。それと、さっきはぐだぐだと言いましたが、単純に私が自分を試したいと思っているからです。なので、貴方には付き合ってもらいます!」
木に支えられることなく、自分の足ではっきりと立ち上がり目の前の悪魔に宣言する。そんな私を悪魔は愉快に、可笑しそうに笑う。
「己の可能性を試そうという事か……。……クックック、人とは――いや、生物というモノは、何故こうも眩い輝きを放つのか。だからこそ、その煌めきがどこまで輝くのかを試さずにはいられぬのだ!」
「何を――」
「小娘――いや、確かエンテと呼ばれていたか……。お主が悪いのだぞ。お主の申し出通り、付き合ってやろう。精々その輝きを絶やしてくれるなよ!」
悪魔は言い終わると同時に私を攻撃するためにこちらへと駆け出し寄ろうする。
そんな強大で恐ろしい化け物について、私は考えてしまう。何でわざわざ私の会話に付き合うようなことをしたのか。いや、そもそもおかしいと思うことはまだある。あの悪魔の力なら私をすぐにでも仕留めることが出来るはずだ。なのに、それをすることなく遊ぶような真似をしている。それだけじゃない。彼と一緒に戦っている時にも私を狙うようなことはなかった。彼曰く、あの悪魔はそんなことをしないと言われて半信半疑だったが、確かに優先的に狙われるようなことはなかった。戦いが好きなタイプだから、とのことらしいが、それなら何故彼に対しても本気で戦わなかったのか、という疑問が出てしまう。本当に戦いが好きなんだったら、こちらを試すようなことをせず、最初から本気でこちらを攻撃していたら良かったのではないか、と考えてしまう。輝き云々というのはよく分からないが……。
そんなことを考えながらも、悪魔は私の目の前まで近寄ってくると、私目掛けて拳を振り下ろしてくる。だけど大分目が慣れてきたのか、私は悪魔の拳を避けることに成功する。その避けた拳は私の後ろに立っている木に当たると、ミシミシと軋んだ音を立てながら圧し折れてしまった。
「っ……、なんて馬鹿力なんですかっ!」
「この程度で驚いてもらっては困る。お主にはまだ動いてもらわなければ、我が愉しめんからな!」
「冗談でも、笑えないですね……」
出鱈目なことをした悪魔は私に向けて馬鹿げたことを言い放つ。本当に、冗談ではない……。だけど、どれだけ化け物なのだとしても、立ち向かわなければ――
悪魔が木から拳を引き抜くより先に、私は攻撃を仕掛ける。今なら充分当てることが出来る……!
「はあっ……!」
「ほぅ、先程よりも著しく良くはなったが、それでもまだ鈍いっ!!」
「……っ!!!!(この化け物は、どういう思考をしているのですかっっ!!!!!)」
私の攻撃に合わせるようにして、悪魔は私の拳へと自身の拳をぶつけてくる。本当に、どういう思考をしているというのだろうか……。でも幸いにも、攻撃がくることが分かっていたお陰で拳に魔力を纏わせて深手を負うようなことにはならなかった。それでも――
「くぅ~~~~~、……っ!!!!」
私はすぐさま手を引き寄せ、手を振る。どうやったって、痛いものは痛いんだ……。
「クックックッ、その程度で痛がっているようでは先が思いやられるぞ? さぁ、次はどうする? 再び殴るのか、それとも蹴るのか? いや、魔術もあるのだということを忘れておったわ」
「くっ……! 残念ながら、魔術はまだ使えませんよ。期待に沿えなくて申し訳ないですが」
「クックックッ……、ハーッハッハッ! それで我に挑んでいたとは、本当に愉快な奴よ! どれ、なれば代わりに我が使ってやろう!」
悪魔は私を嘲笑ったかと思えば腰を落とし、右手を握りしめた。そして、その右手が次第に炎が纏っていく。
「っ!(これは、あの時の……!)」
そう、あの時はその攻撃を受けることはなく、空振りとなった炎拳だ。そんなものを真面に受けてしまったら流石にタダでは済まない。いや、終わってしまう……!
そうなってしまうより先に、私は悪魔の魔術を阻止するために動く。
「我が拳は全てを滅する焔の調べ。灰燼と帰せ――落日の……」
「そんなこと、させませんよっ!!」
右、左、と動くままに悪魔へと攻撃を叩き込む。しかし、私の攻撃は軽々と避けられてしまい成す術もなくなってしまう。どうする、どうすればいい……!
考え倦ねながら攻撃していた私は泥に足を取られそうになり、転んでしまいそうになる。こんな時に彼の魔術が弊害になるなんて……! 泥……、そうか! その手があったんだ。そのことに気付いた私は、泥が着いてしまっている靴を思いっきり悪魔へと蹴り上げるようにして浴びせる。
「っ!? なるほど、泥か。なかなか良き手を打ってきおる」
「卑怯と言われても、貴方の攻撃を止めるためなら何だって使います! これで、しばらくは時間を稼ぐことが――」
「卑怯などとは言わんさ。だが、この程度で我を止められると思っているのは――心外であるがな!」
未だ炎が纏ったままの拳をこちらへ向けて放ってきた。
「っ!? 目が見えないはずなのに、どういう感覚をしているのですか!」
「ほぅ、もう少し左であったか。フッ……何、簡単なことよ。別に目などに頼らずとも、他で探り当てれば良いだけだ」
本当に冗談ではない。どういう感覚をしているのかを考えるのすら、馬鹿らしく思えるくらいに出鱈目な悪魔に私は思考を放棄しそうになる。そんな悪魔は私に向けて信じられないことを言って退けた。
「エンテよ、お主もこれが出来るはずだ。まだ不安定ではあるがな」
「……私は化け物になった覚えはないのですが?」
「クックックッ、安心せよ。我の目から見ても、お主は充分に化け物足り得るさ」
「……冗談でも笑えませんね。やっぱり、節穴なんじゃないですか?」
「さぁ、どうだろうな。まぁ、いずれ分かることよ」
悪魔の与太話に突き合いながら、私は悪魔の拳を見ていた。最初に使った時は1回で炎が消沈したが、未だに燃え続けているその拳を私は不思議に思ってしまう。非常に嫌な予感がするのだが、悪魔にそのことを訊ねてみることにした。
「1つ、聞きたいのですが、貴方のその炎は1回で消えるのではなかったですか?」
「ふむ、これか? 我はこいつが1度きりで終わるなどと言った覚えはないぞ。確かに、初めは1回で消したが、何度でも打つことが出来る」
「……インチキじゃないですか。そんなものに、どうやって対応しろっていうんですか……」
ただでさえいっぱいいっぱいだというのに、それに輪を掛けるようにして悪くなる一方な事態に、私の気力は削げ落ちそうになってしまう。だけど――
「ふ、ふふふ……」
「……何がおかしい。諦めたという訳でもあるまい。それとも、どうにもならない局面に気でも触れたか?」
悪魔の言う言葉に私は頭を振って否定する。そう、別に頭がおかしくなった訳ではない。そのことを告げるため、私は目の前の化け物を見据えて言葉を紡ぎ出す。
「いいえ、違います。ただ、何で今彼の"言葉"を思い出したのか、不思議でつい笑ってしまったんですよ」
そう、何故か彼の言葉を思い出してしまったのだ。
『お互い、生きてここから抜け出そう!』
あの言葉を思い出して、萎えてしまいそうになっていた気力が蘇ってくる。
本当に、不思議なことだ。今まで彼のことを邪険にしていたというのに、今は彼の言葉1つで力が湧いてくるなんて、滑稽で笑わずにはいられない。
「やられっぱなしなのは性に合いません。これからは反撃させてもらいます!」
気持ちを新たに意気込んで、悪魔へと挑みに行く。
その時、胸の奥底で"何か"が脈打ち動き出そうとしているような、そんな気がしたのだった。




