表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第6章 目覚め-息吹-
53/70

託す想い

正直に、書いていて思ったんですが、ここで区切れば3編構想が出来たかも…なんて思いました。

まぁ、調整と終わりの目途がようやく立ったので、その考えも無に帰したわけですが……。

 1度態勢を立て直すために必死で逃げたクロノは、考えを巡らせるために息を整えようとする。

「はぁ、はぁ……。これで、しばらくは、時間が稼げるはずだ……。その内に、次の作戦を――」

「作戦も何も、どうするのですか。今までの攻撃は全然アイツに効いていないじゃないですか」

「分かっているよ。正直に言って、あれで行けると思って無理だったというのは僕の考えの甘さなのかもしれない。でも、何とか打開策を考えるから、ちょっと待ってほしい」

 顔には出ていないが、今の危機的状況に不安そうにエンテは口遊む。そして、そのままクロノに提言する言葉を口にしようとする。

「……本当に大丈夫なのですか? もし、駄目なら貴方だけでも――」

「はぁ……、それ以上は言わないでくれ。僕じゃ至らないのかもしれないけど、最後まで一緒に戦わせてほしい」

「……至らないとは思っていないです。でも、このままやってもただやられてしまうだけですよ。そうなってしまう前に――」

「大丈夫。僕を信じてくれ――とまでは言えないけど、そんな事態にならないようにはするから。だから、きみは心配しないで思うように動いてほしい。それに、最後の策はあるにはあるんだ」

 クロノは眉を(しか)め、険しい顔になってしまう。そして、自身が考えているであろう最後の策を話す前に、エンテにその策がどういうものなのかの前置きを話す。

「魔術を教えた時のことを覚えているかな? 時間を掛けたり、込める魔力量によって威力が変わる、っていう話だ」

「覚えていますが、……それがどうしたのですか?」

「それを今からやろうと思う……。それが最後の策だ」

「……それは分かりましたが、何故最初からそれをしなかったのですか。そうすれば、貴方は危ない目に――いえ、何でもないです。続けてください」

 バツが悪いように口を噤んでしまったエンテにクロノは驚いてしまう。クロノが驚いたのは、こちらを心配するかのような言葉を口にしようとしたからだ。いや、正確に言うなら、言ったも同然なことを口遊んでいることになる。今までの彼女の言動から、彼のことを何とも思っていないように感じられるが、その実そういう訳ではないようだ。エンテ(彼女)のその言葉にクロノは喜び、嬉しい気持ちになってしまう。しかし、今はそういう状況ではない。こんな状況でないのなら素直にその感情を彼女に示すが、今はぐっと堪え作戦の説明に戻る。

「きみの言うように、確かに最初からやっていれば良かったのに、と思われても仕方ないのかもしれない。でも、これをやるにはデメリットが多すぎて実行するのを躊躇ってしまったんだ」

「デメリット? 時間稼ぎくらいなら何とかなるのではないですか? さっきも何とかなりましたし……」

 エンテは時間稼ぎが必要だということを理解していてそのことを指摘する。しかし、デメリットというのは時間稼ぎだけ、という訳ではない。そのことをクロノは説明する。

「確かに、デメリットとして時間稼ぎも必要ではある。それ以上に、今やろうとしている魔術が彼に通用するのか、というのがもう1点。そして、これをすることによって僕の魔力はなくなって動くことが困難になってしまう――ここまで言えば、何でやらなかったのか分かるかな?」

「えぇ、充分過ぎるほどには……。要は、通用しなかった時点で2人共終わり、ということでしょう?」

「……あぁ、うん。そうだね」

 エンテの言葉を肯定するようにクロノは深く頷く。しかし、彼にはまだ懸念点があるか、顔を顰めて言葉を濁す。そのことに気付いたエンテはクロノにそのことを訊ねてみる。

「……まだ、何かあるようですね? 何か不安なことでもあるのですか? もうその策にしか頼るものがないのです。何か不安があるのなら言ってください」

「うーん……。不安……とは違うんだけど、出来るだけこの作戦を使わずに終わらせたいと思ってね」

「何を甘いことを言っているんですか。それしか方法がないのなら、その術を使うしかないでしょう! 何を躊躇う必要があるんですか!」

 真っ直ぐ言葉をぶつけてくるエンテに、クロノも嘘や偽りなどを混ぜずに本当のことを彼女に伝えようとする。

「それじゃあ、言うよ。……はっきり言って、この術は規模が大きくて威力の強いものになる。そうなればこの場所がどうなってしまうのか、きみなら痛いほど分かるんじゃないのかな」

「……この場所が、なくなってしまう、ということですか――」

 エンテの言葉に、クロノは沈痛な面持ちで頷き返す。それもそうだろう。いくら忘れているといっても、彼女にとっては大切な思い出の場所なことは変わらない。それどころか、この場所に来たのはヒルデの日記(記憶の手掛かり)を探すために来たのに、自分達でそれを消してしまうのは本末転倒といえる。だからこそ、クロノはこの作戦を渋り、他の打開策を考えようとしているのだ。もっとも、その打開策も通じないのであれば、本当にこの策を使うより他ないが……。

 2人の間に思い沈黙が流れてしまう。その間にも刻一刻と時間だけが無常に過ぎていく。そうしている間に、目を暗ましていたマルコシアスの視力も回復したようで、大きな声で2人を煽るように呼び立てる。


「どこに隠れておる! まさか、勝負を捨てたわけでもあるまい。それとも、諦めて代価を支払う気にでもなったか!!」

「ふぅ……。本当に、好き放題言ってくれますね」

 マルコシアスに倣うように、エンテが言葉を吐き出す。その表情にはどこか諦めや、吹っ切れたような印象を受ける。そして、彼女はポツポツと今の自分達の置かれている現状をクロノへと確認と報告をする。

「残念ながら、時間が来たようです。貴方の言っていたように、私の強化が切れてしまいました。加えて言うなら、あの化け物も視力を回復したようですね。……どうするのですか?」

「どうする、って……彼が僕達を探し当てるまで、まだもう少しだけ時間はある。その間に違う打開策を――」

「いくら戦い慣れていない私でも、こんな状況でそんな都合の良い作戦が思いつくだなんて、思えません。貴方の言う、最後の手段以外には……」

「っ! だけど、それをしてしまったらここに来た意味がない! それに、きみだって嫌だろう! そんなことになるくらいなら――」

「……ふふ」

 クロノの言葉に突然、エンテは笑い出してしまう。一体、どうしてしまったのだろうか……。気でも狂ってしまったのか、或いは全てを諦めてしまったのか。心配に思ったクロノはそのことを彼女に確認する。

「……何で、この状況で笑えるんだ。きみにとって大切なことだろう?」

「いえ。さっきと立場が逆だな、と思って可笑しいと思ったんです」

「逆? それは一体どういう――」

「さっき、私だけここに残って貴方は逃げろ、と言った時、貴方は私を止めようとしたでしょう? 今は、私が貴方を宥めようとしている……それが、何だか可笑しく思えて――」

 彼女のそんな何気ない言葉にクロノは一瞬、思考が停止しそうになる。だが、彼女の表情から、言葉から、決してふざけて言っているのではないということが分かる。そんな彼女に困惑しながらも、クロノはエンテの真意を探ろうとする。

「きみの言いたいことは分かったよ。……だけど、今はそんな状況じゃ――」

「――ここへ来た目的は何ですか?」

 クロノの言葉を遮るように、エンテは率直に思ったことを彼へと言い放つ。エンテの言葉に言い淀みそうになりながらも、クロノは言葉を返す。

「それは……、彼女の――ヒルデさんの日記があるのかを探しに来たんだ」

「そう、あくまでヒルデの日記が目的です。それ以外はどうなってもいい。今は、貴方の……、2人の命を優先するべきでしょう! なら、何も迷う必要なんてないです!」

 迷いなく、凛とした声でエンテはクロノへと告げる。そのことにクロノは気負いながらも、彼女に確認を取る。

「……きみは、それでいいのかい? そうなってしまえば――」

「……っ、彼女には申し訳にですが、仕方ないです。それに、彼女の遺品があるのなら、私は耐えられます。なので、貴方は遠慮せずにここを吹き飛ばす勢いでやってください!!」



 極めて強気な言葉で言い繕っているが、エンテの目には悲しみが宿っていた。無理もない。必死に言い繕ったところで、感情は、心は、嘘を吐くことが出来ない。だけれど、彼女はそれを必死に堪え、2人で切り抜けることを優先させることにした。それがどういうことなのかは、彼女の表情から読み取ることが出来るだろう。

 最初に出逢った頃からクロノはエンテに対して思っていたが、彼女の心の強さに眩しさと、憧れを抱いてしまう。自分にはないその強さにクロノは恋焦がれてしまう。だからこそ、彼女のその決意に報いる為にも、この戦いを勝利へと導かなければならないのだ、と強く想ってしまう。自分にそこまでの力があるだなんて自惚れていないが、今この場でそれが出来るのが自分しかいないのならそれを熟してみせる。

 その為にも、まずはここへ来た目的を果たさなくては――



「分かった、遠慮なくきみの言葉に甘えさせてもらうよ。だけど、その前にここへ来た目的を果たさないと……。まずは、彼女の日記があるのかどうかを確かめるためにきみに――」

「……それもそうですね。そちらは貴方に任せます」

 クロノの提案にエンテは予想外な言葉で返す。エンテらしくない言葉に、クロノは彼女の真意がどういうものなのかを見極めようとする。

「っ!? きみは何を言っているんだ! 僕が探すよりも、きみが行ったほうがいいに決まっている!」

「……、忘れたのですか? 私は記憶を失っているのですよ。例え探しに行ったとしても貴方と一緒――いえ、それ以上時間を掛けてしまうかも知れません。そうなってしまえば、こちらの勝機がなくなってしまいます」

「例えそうだとしても、その間あの悪魔の攻撃をきみが凌げるはずが――」

「それも、大丈夫です……。どうやら、貴方が開いたという回路はまだ開いているようです。もう1度強化を掛ければ何とかなるはずです。それに、私は貴方達人間よりも丈夫に創られているはずです。もし、回路が閉じるようなことがあっても、多少は耐えることが出来ると思います」

 今の現状、そしてその言葉から虚栄ではないというのは分かる。しかし、それでも危険であること、そしてすぐにでも彼女が地に伏してしまうことは想像に難くない。そう推察したクロノは、彼女の意志を無視してでもマルコシアスの元へと向かおうとする。

 そのことに異を唱えるように、エンテはクロノへと確認を取ろうとする。

「――貴方は、私を信じられないのですか?」

 クロノは前に進もうと足を出そうとするが、エンテの問い掛けに足を止めてしまう。そして、動きを止めたクロノに、エンテは続けるように言葉を選びながら彼に自分の想いを零す。

「……別に、信じてくれなくてもいいです。私も、貴方を信じていないですから……。ですが、私達の家を少しでも――ほんの少しだけでも、私の手で護っていたいのです!」

 実に彼女らしい言葉を零す。彼女なりに考え出してこんなことを言っているというのが分かる。それこそ、ヒルデ(自分達)の自宅を護りたい、というのは真実(ほんとう)のことを言っているのだろう。しかし、その前に言ったクロノのことを信じていない、というのは彼女なりの虚勢(うそ)なのだと言える。何故なら、本当に信じていないのなら彼に日記を探すことを頼むはずがないからだ。

 彼女自身、そのことに気付いていないようだが……。いずれにせよ、彼女期っての願いなのだ。心苦しく思うが、それを叶えてあげる他ないだろう。

「――分かった。それじゃあ、ここはきみに任せることにするよ」

 今まで見せることのなかった彼女の覚悟と信頼に応えるためにも、クロノはエンテに託された想いを胸にしまい込む。そして、エンテにこの場を切り抜けるためにマルコシアスの相手をすることを任せる。



 各々行動を開始するために背中合わせになり、準備を整える。クロノはエンテが少しでも逃げ回ることが出来るように砂煙(目暗まし)を。エンテはマルコシアスを相手にするために強化を掛ける。

「ふぅ……、強化を掛け終わりました。いつでもいいですよ」

「それじゃあ、魔術(目暗まし)を掛けるのと同時に、お互い目的を熟すために行動しよう。エンテはとりあえずそれに紛れてしばらくは持ち堪えてほしい。まだ封印術が効いているとはいえ、くれぐれも無理はしないようにね!」

「分かりました。……、その――」

「ん? 何か問題でもあるのかな?」

「いえ、何でもありません……」

 クロノはエンテの言葉に引っ掛かりを覚えて考えてしまう。そして、エンテが何を言おうとしたのかを予想して彼女に問い掛けてみる。

「お互い、生きてここから抜け出そう!」

「、……当たり前です。私を誰だと思っているのですか。彼女の傑作なんですよ? そんなことより……、彼女の日記のこと、頼みましたよ!」

 クロノの問い掛けに少し間が開いていたが、エンテは強気に返す。そして、彼に自分の大切なモノを託す言葉を掛ける。その言葉にクロノは嬉しく思いながらも、自分の役目を果たすために彼女の補助を行うため呪文を唱える。

「それじゃあ、行くよ! 巻き上げ(すさ)ぶるは風の調べ、我等の姿を暗ませ――静かな花風(アウラ・ウィン)!」

 クロノの仕掛けた魔術(砂煙)に紛れるようにして2人は動き出す。各々の目的を果たすために――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ