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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第6章 目覚め-息吹-
50/70

作戦

これだけは先に言っておかないといけないので言っておきます。

5章の前書きで少し触れたように、どこかのお馬鹿さんが無計画過ぎていつもよりも長くなってしまうと言ったことを覚えているでしょうか?それが、この章の話になります。どこで区切ってもおかしくなってしまうので、今の所予定通りに進めていこうと思っています。


つまり、いつもなら9小節で終わりの所を今回は…あ、どこまでやるのか私自身分かっていません。一応、今月中には全部投稿できるようにするつもりです。そうすると日数的に無理、ということでいつもの投稿の法則を変えることになります。そこら辺はご了承ください、という謝罪報告です。



いや、こう言ってるけど本当に出来るのだろうか……。

 マルコシアスから距離を取った2人は悪魔()のことを気にせずじっくりと作戦会議を行おうとする。だが、肝心のエンテはクロノのことを睨むと、何か言いたそうに難しい顔をしている。しかし、言葉が思いつかないのか、彼からぷいっと視線を逸らすとただ黙ってその場に佇んでいる。相変わらずの無表情で分かりづらいが、あからさまに分かりやすい態度から彼女が怒っているということが分かる。大した相談もなく勝手に話を進めたのだからそんな態度になっても仕方ないだろう。しかし、あの状況では相談どころかまともな話をする余裕がなかったのだ、クロノが単独で話を進める他なかったといえる。

 それよりも、今はこの限られた時間を大切にしなくてはいけない。いくら話を取り決めたと言ってもまだ停戦中で膠着(こうちゃく)状態が続いている。それに、マルコシアスの性格上、2人を攻撃することはないといってもそれが守られるとは限らないのだ。警戒しておくに越したことはないだろう。じっくりと、且つ迅速に作戦を立てるためにクロノはまずエンテの機嫌を直すことを優先させる。



「勝手に話を進めたことに関しては申し訳ないと思っている。あれしか方法がなかったとはいえ、きみに確認を取るべきだった。本当にごめん」

「……貴方に言いたいことは沢山あります。ですが、貴方があの獣に決闘を持ち掛けなかったらどうなっていたか分からなかったです。なので謝らなくてもいいです。方法は気に入りませんが、そこだけは感謝します。方法は気に入りませんが……!」

 文句こそ言わないが、エンテは強調するようにクロノの取り決めに難癖をつける。エンテのそんな態度にクロノは乾いた笑いで返すしか彼女に応えることが出来なかった。

 エンテはそれで話を切り上げると、クロノに問題となるであろうことを指摘する。

「それよりも、どうするのですか? あの獣が言った条件だと、おそらく私が優先的に狙われるのではないですか? そうすれば、すぐにでも決着が着くことになってしまいますよ」

 クロノも考えていたことだが、どうやらエンテも同じことを考えていたようだ。それもそうだろう。そのことは彼女自身が痛いほどに分かっていることなのだ。考えたくなくてもそういう思考に辿り着いてしまうのも無理はないと言える。

 しかし、クロノはそのことも織り込み済みでエンテ(彼女)に話を持ち掛ける。そう、この話し合い(作戦)というのはエンテがマルコシアスと対等に戦えるようにするためのものなのだ。

「そのことなんだけど――エンテ、悪いけど一旦強化を解いてくれるかな?」

「っ!? 何を言っているのですか! そんなことをしたら――」

「僕に考えがあるんだ。……僕を信じてやってくれないかな?」

「…………、はぁ。勝率が下がって余計に不利になるだけなのでは? まぁ、何か考えがあるみたいなので解きますけど――」

 ぶつくさと文句を言いつつも、クロノの指示に従う他勝機がないと考えたエンテは目を閉じる。そして、力を抜くように口からゆっくり息を吐き出した。


「――解きましたよ。それで、考えというのは一体何なのですか?」

「うん、ありがとう。それじゃあ、もう1度強化を掛け直してくれるかな?」

「なっ!? 貴方は、一体何を言っているのですか!? さっきの強化は今までの中で一番良かったものなんですよ! それをもう1度やるなんて――」

「確かに、きみの魔力が不安定なのは分かっているよ。その上で、もう1度さっきのものを再現出来るとは思っていない。()()()()()、ね……。だから、強化を掛ける前に後ろを向いてくれないかな?」

「……何を考えているのか分かりませんが、今は貴方の策に賭けるしかなさそうですね」

 不服そうにしながらも、クロノの言葉から何かを察したエンテは彼に言われるまま大人しく後ろを向く。そうして後ろを向いたエンテの背中にクロノはそっと手で触れる。そして、静かに目を閉じるとエンテに何かをするために集中する。そんな訳の分からないクロノの行動にエンテは困惑してしまう。

「? 訳の分からないことをしていないで早くあなたの策を――」

「ちょっと静かにしてもらってもいいかな? 失敗するわけにはいかないんだ……」

 集中するためにクロノはエンテの言葉を遮る。緊迫した状況の中で時間も限られているので失敗は出来ない。焦らず、けれどこの後に作戦を伝えるためにも急ぐため更に集中を高める。そうして、クロノは彼女の中にある()()を探し出し、見つけ出すことに成功する。

「……っ! これか!」

「? 一体、何を――」

「彼の者の閉ざされし回路(みち)を開き給え――魔導の通り路(バイパス・ライン)!」



 クロノの考えたこと――それは、エンテが魔術を使うための回路が()()()()()()で閉じてしまっているからだと考えたのだ。回路が閉じられた状態だといくら魔術を使おうとしてもまともに魔力が練ることが出来なくなってしまう。結果、魔術が発動しなかったり不安定で歪な魔術になってしまうことになる。それが、今まで彼女がまともに魔術を使うことが出来ない理由だとクロノは考えたのだ。

 そこで、クロノはその閉ざされている回路を開くことが出来れば安定して魔術を使うことが出来るのではないか、と考えエンテの回路を開こうと試みたのだ。

 とはいえ、本来この回路は誰もが常に開いている状態になっているはずのものになる。こうして自分以外の人物が開こうとするのは前代未聞といえるだろう。出来たとしても、大方失敗するか、成功したとしても一時的なものになるかもしれない。だが、少しでも可能性があるのならそれに賭けるしかクロノには手段が思いつかなったようだ。

 何が原因でそうなってしまっているのかは分からないが、今はその話は置いておいた方がいいだろう。



 クロノの読み通り、そして回路を開くことが成功しているのなら彼女は問題なく魔術を使うことが出来る。果たして――

「っ!? この感覚は……。 私の身体に何をしたのですか?」

 エンテの戸惑いを見る限り、どうやら成功したことが分かる。エンテの反応を見てクロノは安堵の息を漏らす。だが、今は素直に喜んでいる場合ではない。一刻も早くエンテに強化魔術を掛けてもらうため、クロノは自分が行ったことを簡単に説明する。

「悪いけど、時間がないから説明は少し省くよ? 一応、今のきみの状態で魔術を使っても不安定にはならないようにしたんだ。でも、これは本来僕がどうこうするモノじゃないからどうしても時間が限られてしまうことになる」

「……要は、限定的なモノ、と考えていいのですね? 今は詳しく聞きませんが、その時間というのはいつまで保つのですか?」

「そうだね……、保って1時間――と言いたいんだけど、きみの場合かなり複雑なんだ。だから、30分保てば良い方なのかもしれない」

 クロノはエンテの状態や不慮な事態などを考慮し、大体の時間を割り出して彼女に伝える。それを聞いたエンテは微かに眉を顰め、今が深刻な状況だということを悟る。

「30分、ですか……。分かりました。時間を無駄にしたくありません。早速強化を掛け直します」

 切迫した状況の中、エンテはすぐさま強化魔術を掛け直すため集中するように目を閉じる。


 ただでさえ不利な条件に加え、制限時間も付いてしまうのはかなり痛手だがこればかりは仕方がない。そもそも、制限時間があるといっても、クロノが回路を開くことが出来なければその制限時間さえ存在し得ないものなのであるだけましと言える。ただ、いくらエンテの強化が安定したところで決して体術が向上するわけではない。そのことはクロノ自身がよく分かっているはずだ。そのことから、彼がエンテに期待していることは他にあるのだということが分かる。問題は、その期待していることがどれだけ達成できるのか、といった所だろう。

 冷静に現状を考え確認していたクロノはあることに疑問を抱く。それは、マルコシアスのことだ。

 おそらくだが、クロノ達が何をしているのか気付いているのだろう。それなのに何も言わない処か、こちらの話し合い(作戦)をただ静観しているだけなのだ。それは宛ら、挑戦者を待つといったようにその場所に佇んでいると言えばいいのだろうか。

 先程マルコシアス()が言っていたことを思い返すと、その行動は容易に理解出来る。それにしてはやけに余裕な態度なことが気になってしまう。いや、余裕というよりもこの状況を愉しんでいるのだろうか……。噂や書物によると、嘘を嫌い、闘うことを何よりも好んでいると言われている。加えて、クロノが感じた彼の性格は自分に相当な自信を持っているということだ。それを踏まえて考えるなら、相当な戦闘狂と言えるのかもしれない。

 だとすると、この条件では彼女が余計に危ないのではないだろうか、とクロノは考える。マルコシアス()の実力がどれほどのものなのか分からない以上、彼女に無理をさせる訳にはいかない。それよりも、彼女を戦力として数えること自体、正しい選択と言えるのか怪しいと思えてしまうくらいだ。

 クロノがそんなことを考えている間にもエンテは強化を掛け終わったのか、次はどうするのか彼に仰ごうと声を掛けようとする。だが、彼が難しい顔をしていることに気付くと彼を気遣うような言葉を掛ける。


「……また悪いことを考えているのではないですか?」

「え? いや……、そんなことはないよ」

「はぁ……。貴方は嘘を吐くのが下手ですね。素直に頼ら……いえ、何でもありません」

「? すごく気になるんだけど……、何を言おうとしたんだい?」

「もういいじゃないですか。それよりも、掛け終わりましたよ。それで――貴方の作戦というのは一体どの様なものなのですか? 個人的に、私が盾になっている間に貴方が攻撃を仕掛ける、というのが一番得策だと思うのですが」

「……冗談でもそういうことは言わないでくれ。そんなことをさせるつもりはこれっぽっちもないよ。……とはいえ、少し似たようなことをさせてしまうからそんなに強くは言えないな。そこは僕の力不足だ、ごめん」

「……謝る必要はありませんよ。それに、貴方の言葉で私がどうすればいいのか大体分かりました。なので、もう少し詳しく教えてください」

「うん。きみの強化が保っている間が勝負所になる。だから、きみには――」

 クロノは自身を主軸にしつつ、エンテに出来る範囲の作戦を彼女に伝え聞かせる。そうして"作戦会議"を終わらせたクロノ達は今でもその場所から動かない悪魔の元へと赴くのだった。

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