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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第5章 心のふるさと
48/70

愚者(勇者)

これにて、5章終了です。続きは来年…え、余裕ぶってるから続きがあるんだろうって?

…さぁ、それはどうでしょう?私次第ですね。


ちなみに、今回の小節タイトルは愚者と書いて"ゆうしゃ"もしくは、"いさむもの"とどちらで読んでもらっても大丈夫です。

 初めから勝てないことは分かっていた。

 だけど……、例えそうだとしても、ここを――この場所を侵されることはどうしても許せなかった。そう思ったら身体が勝手に動いて目の前の化け物へ襲い掛かっていた。だけど、何かに阻まれるように私の攻撃は止められ、そして吹き飛ばされることになった。

 いきなりのことだったので受身も何も取ることが出来ないのでかなりのダメージ量を考えたのだが、彼が受け止めてくれたお陰で難なく済むことが出来た。

 彼の手を借りながらも起き上がると、目の前の化け物に向って私は自分の想いを叫ぶ。

「黙って聞いていれば、好き放題言ってくれますね。ここは、この場所は――私と彼女の思い出の場所なんです! それを、貴方みたいなよく分からない獣に好き放題されるわけにはいきません!!」

 そうだ。こんなやつなんかにこの場所を穢されてたまるものか! ここは、この場所だけは絶対に手放したくない!! 例えこの身が引き裂かれたとしても、絶対に私が護ってみせる!!!


 だけど、私の後ろにいる男はこの場所がどうなってもいいと考えているだろう。何故なら、彼にはこの場所に思い入れがないのはもちろん、命を懸けてでもこの場所を護るという義務なんてものはないはずだからだ。

 現に、彼は目の前の化け物に恐れをなしている。さっき私を受け止めたのもきっと反射的に動いただけで、目の前の化け物と戦う気など更々ないだろう。今まで何の攻撃もしなかったのがその証拠だ。

 誰だって、自分の命は大切だから。自分さえ良ければ他はどうだっていいはず、だから……。微かに記憶に残っているヒルデとの会話で人間とは利己的(そういうもの)だということを知り、醜い生き物なのだと理解した。ヒルデはそういった人間の嫌なものを戦争中に嫌というほど見てきたと聞いた。だけど、次第に頼れる仲間が、信じてもいいと思える人物がいると言っていた。おそらくその人物に何かを見出したのだろう。

 だけど、私は――人間というものを信じない。後ろにいる男も"あの時"はあんな下らないことを言っていたが、本当は私の中に眠っている()()が欲しくて私を傍に置いておこうとしているのだろう。……魂胆が見え見えなのだ。私は何も持っていないというのに……。欠陥品である私が、彼女から何かを託されているはずなんてないのだから……。

 そんな下らない思考を掻き消すように、頭を振り意識を現実へと戻す。今は目の前の化け物をどうにかしなければ――



 先ほどは正面から行って無理だった。それなら、側面だったらあのバリアみたいなモノが弱いのかもしれない。そう考えた私はもう1度攻撃を仕掛けるために悪魔へと駆け出した。間合いへと入り込むことが出来た私は、そのまま攻撃をするように見せかけて悪魔の真横へ即座に移動する。そして、その勢いのまま蹴りを喰らわせるために足を振り上げる。

「ほぅ……。側面を狙うとはなかなか良い考えだが――」

「くっ!?」

「残念ながら、その攻撃は我には徹らぬ!」

 悪魔は私の動きを完全に読んでいてこちらの攻撃と同時に自身の拳を前に出し攻撃を繰り出す。それに対して私は軸足を反射的に回して回避しようと試みる。

「……っ!」

 回避するのには成功したが、無理な体勢をしてしまったせいでその場に転ぶようにして横たわってしまう。そのまま襲われ兼ねないと思った私はすぐさま体勢を整えるために即座に立ち上がる。

 どうしてだ……。こちらの行動が読まれているだけじゃなく、さっきと同じ……いや、それ以上の力で攻撃してきている。まだ本気ではないということだろうか……。

 底知れない力を持っている化け物に、私は警戒しながら間合いを取るため後ろへ飛び退く。

「フッ……。弱者を甚振(いたぶ)るのは我の趣味ではないのだが――お主がその気なら、我もそれ相応の態度で挑まねばなるまい?」

「――っ!?」

 目の前の化け物はついにやる気になったらしく、先ほどと違って戦うために構えを取った。実力差があり過ぎるとは思っていたが、いざ構えを取られるとその実力がひしひしと伝わってくる。

「そ、それが貴方の本気……ですか」

「? 何を言っている。この程度では準備運動にもならぬぞ?」

 今の状態が、準備運動……!?

 おそらく、あいつは嘘を言っていないのだろう。それほどまでの実力差があるのか、と後退りしそうになってしまう。

 そんな狼狽えて絶句している私に、化け物は嫌らしいことを言ってくる。

「ほぅ、今のお主の力は準備運動程度なのだと思っていたが……どうやら()()()全力だったようだな。その程度の実力で我に挑もうとするとは、お主は余程の(うつ)けか何かか?」

「くっ!」

 確かに、あの化け物から見たら愚か者だと思うのかもしれない。いや、あの男もおそらくはそう思っているだろう。

 だけど、ここで引いてしまったら、一体誰がこの場所を護るというのだ?

 ヒルデはいない……。あの男の祖先もいない……。だったら――私が、護るしかないだろう!!

「ここで――ここで引くわけにはいかないのです! 例え、愚か者と蔑まれたとしても、私は自分の選択が間違っているだなんて思いません!!」

 そうだ。誰にもこの選択を間違いだなんて言わせない。

 例え、自分がどうなったとしても、引けない時が――譲れないものが、私にはある!!

 ありったけの思いを込めて私は目の前の化け物へと告げる。すると、何がおかしいのか、化け物は嘲るように笑い始めた。

「ク、クックック……、ハーハッハッハッ!」

「……何が可笑しいのですか」

「いや、お主の行動が面白いと思ってな。実力では我よりかなり劣るのかもしれぬが、心意気では我より勝っているやもしれぬ。確かに、あ奴も言っていたな。想いが此処まで突き動かす、か……。ふむ……、気が変わった。普段は無礼な行いをした者の名は知りたいと思わないが、お主は特別だ。今一度、お主の名を聞いておこうか?」

「……残念ながら貴方の知りたいような名前なんてありませんよ」

「……何? またしても、愚考を働くというのか?」

「別に、馬鹿にしているつもりはありませんよ。ただ、記憶を忘れて名前が分からないだけです」

 そう、記憶のない私には名前はおろか、ここでの出来事さえ忘れている。

 私の言葉を聞いた悪魔は何やら考え出し、こちらに聞こえるかどうかの声で何やら呟いた。

「そうか。お主が()()――か。それならば、全て納得いくやもしれぬ。これが運命の巡り合わせというものか……」

 何かぼやいている今なら隙を突くことがだろうと考えた私は攻撃しようと足を前に進めようとしたが、身体が縫い付けられたようにそこから動くことが出来なかった。

「(何、ですか……、この感覚は――!)」

 思考を終えた化け物は不快そうに目を細めると、こちらを見据え腰を深く落とす。

「癪に触るが仕方あるまい。我はただ役割を果たすだけだ。娘よ、恨むなら自らの運命というものを恨むのだな!」

 来るっ!? 悪魔の攻撃を防ごうと咄嗟に身構えたが、すでに遅かった――

「がっ!?」

 気付いたら腹部に強烈な痛みと、いつの間にか空へと殴り上げられている私がいた。客観的な感想をしているが、真面な思考をすることが出来ないくらいの痛みで自分でも何が何だか分からないのだ。

 いつの間に私の間合いに入って攻撃を繰り出したというのだろうか……。いや、攻撃なんて生易しいものではない。今まで何かで抉られた経験はないが、おそらくこれは抉られるよりも酷いものなのかもしれない。その衝撃的な攻撃を受けた私は吹き飛ばされながらも何とか体勢を立て直そうと化け物との間合いを取ることを考えた。

 だが、現実はそんなに甘いものではなかった……。化け物は吹き飛ばされている私に追いつくと私の足を掴む。そして、その勢いのまま思いっきり振り下ろされてしまう。

「(不味、い……)」

 このまま振り下ろされてしまえばただで済むはずがない。一部でも壊されてしまえば、この場所を護ることすら叶わないだろう。いや、それどころか、まず意識を失ってしまうのは確実だ。何とかして逃げ出さなければ――

 藁にもすがる思いで辺りを見回し、一緒にここへ来た人物へと助けを求めようとする――が、男はすでにこの場所からいなくなっていた……。


 それも、そうか……。いつまでもこんな所にいるよりは逃げた方がいい……。

 さっき、私は自分で思ったではないか。人間は信じない、と。信じたとしても裏切られる、と……。

 その結果がこれだ。私は、少しでも彼を信じていたのかもしれない。その証拠に、こんな時にあの男に頼ろうとしたのだ。全く、我ながら馬鹿げている……。そんなことあるはずないのに……。彼が私のためにこの化け物と戦ってくれるはずなんて、ないのに……。

 振り下ろされながら私は全てを悟る。少しでも彼を信じてしまった私の負けなのだ、と……。

 もうすぐ地面だ。このまま振り下ろされた後、私は意識を失ってしまうだろう。そして、その間に全てが決している……。

 私は目を閉じ、心の中で彼女に謝る。ごめんなさい、ヒルデ――と。

 なすがままに全てを諦めた私の耳に、思い掛けない声が響いてくる。


「――粘土の王国(マッド・クレイマー)!!」


 誰かの声が聞こえた気がしたが、もうどうでもいい……。私はこのまま打ち付けられ――そう思ったのだが、私の身体は打ち付けたはずなのに何かに包まれる感覚に苛まれる。それは地面ではなく、何かいいようのないぶよぶよとした物体だった。どういうことなのか恐る恐る目を開けてみると、確かに私は地面に打ち付けられてる。だが、どういうことか、その地面は何処かおかしかったのだ。

 よく分からないが、地面がうようよと蠢いていて正直、気持ち悪い。そう思っていると突然地面は元の形へと戻っていく。

 近くにいたはずの化け物との間合いもいつの間にか取れていた。どうなっているのだ? 一体何が起こったのだろうか……。

 どうなっているのか必死に考えていた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。



「いやぁ、こんな使い方をするものじゃないんだけど、案外出来るものなんだな。賭けでもやってみて正解だったよ」

 そんな、嘘だ……。彼がまだこの地にいるはずが――

「遅くなってごめん、エンテ。()()に手間取ってしまった――なんて言い訳は今の状況だと通じないかな? だけど、何の備えもなくあの悪魔と対等に戦うというのは流石に無理だからね。とはいえ、これでもまだ少し無理があるかもしれないんだけど……」

 どうして――

「どうして、貴方はまだここにいるのですか? 貴方は……、自分の命が惜しくないのですか!?」

 私の言葉を聞いたクロノベルトは少し困った顔で私を見るとこんなことを告げてきた。

「僕がここにいちゃ駄目なのかな?」

「え?」

「確かにきみの言う通り、命は惜しいよ。だけど、きみを置いて逃げるくらいなら、僕もこの場所で死んだ方がマシだ……って、そう思ったんだ」

「馬鹿、ですよ……」

「確かに馬鹿なのかもしれないね。でも、僕はきみにこう言ったよね? 『例え何かがあったとしてもきみを絶対に死なせない』って……!」

「だからと言って――」

「ストップ! そこまでにしようか。文句なら後で幾らでも聞くから――だから、今は目の前の敵を"2人"で何とかしよう?」

「でも、いくら2人だからといって、あの化け物相手に勝てるはずが……!」

「だけど、勝つ! 勝つつもりで挑まないとその勝負はすでに負けたことになってしまうからね!」

 この男は一体何なのだ? 一体どこからそんな根拠もない自信が出てくるのだ? なぜ私なんかのために、ここまでの事をしようとするのだ……?

 分からない……。分からないが、これだけは言える。この男は私のために動いてくれている。こんなちっぽけな私なんかのために……。

 私は――


「さぁ行こう、エンテ! 彼もそろそろ痺れを切らせてる頃だろうしね!!」

 私は彼に差し伸べられた手をただ、掴む事しか出来なかった。

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