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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第5章 心のふるさと
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手紙

 アルスに手渡された手紙の裏を見てみると、確かに何も書かれていなかった。クロノは首を傾げながらもその手紙をもう1度よく確認してみる。どうみても何の変哲もない"ただの手紙"のようだ。宛名も書かないなんて不躾な人物だと思いながらも、クロノはその手紙のことが気になり開けてみようと封を切ってみることにした。

「(差出人不明、か……。少し怪しいけど、気になることもある)……とりあえず、封を切ってみようと思います。話はそれからでも遅くないと思いますしね」

 封を切りながら、クロノは考えていた。それにしても、また手紙か、と……。1ヶ月ほど前に父からの手紙で今のようなことになっているのだ。もうこれ以上の厄介事に巻き込まれるのは御免被りたい所だが、この手紙を読まなければいけないと、何かが訴えかけてきているのだ。その何かに突き動かされるように封を切り、中にある手紙を読もうとする。中に入っていたのは以前に父から送られてきた手紙同様、2通の手紙が入っていた。しかし、今回の手紙の内容を見てクロノは怪訝な表情をして固まってしまう。

「…………」

「……どうかされましたか? 何か不都合なことでも書かれていたのでしょうか」

 アルスに訊ねられたクロノは溜め息を吐くと、取り出した手紙を彼女に見せる。その内容を見たアルスは呆然とした後、クロノに手紙の有り様について訊ねてみた。

「……どちらも白紙のようですね。ただの悪戯なのでしょうか」

「いえ、悪戯という訳ではないです。どうやらこの手紙は僕以外が封を開けたとしても()()()()()()()()()()()しているみたいです」

「クロノベルト様以外に――ということは、魔術師特有の仕掛けが施さているという事でしょうか?」

「そうですね。そんな仕掛けまでして伝えたい"厄介"なことって何だろうな――」

 更に厄介なことに巻き込まれてしまうことに諦めつつ、クロノは白紙の手紙へと魔力を注いでみることにした。すると見る見るうちに、クロノが言ったように紙に反応が出始めた。

「……やっぱり魔力に反応して内容が浮き出てくる仕掛けのようですね。徐々にですが内容が浮き出て――」

 手紙に浮き出てきた文章を見たクロノは唖然としてしまう。何故なら、手紙から浮き出てきた文章というのは短くこう書かれていたのだ――


『行き躓いたのなら、一度原点へと帰ってみることだ。然すれば、道は開かれん――』


「……とても、達筆な人のようですね」

 クロノは皮肉交じりに手紙の内容にケチをつける。一見すると意味不明なことが書かれているのでそんなことを言ってしまうのも無理はないだろう。だがそれよりも、クロノは1枚だけしか魔力に反応しなかったことを気懸りに思っていた。いずれにせよ、よく分からない文章しかないのだ。アルスの言うようにただの悪戯なのだろう。

 そう思って手紙を仕舞おうとすると、不思議そうにアルスに問い質される。

「何が書いてあるのか知りませんが、手紙を仕舞われてもよろしいのですか?」

「手紙の内容を考えたいのは山々ですけど、1枚目には怪文章で2枚目には僕の魔力に何の反応も示さないんですよ? 何を意図しているのか全く分からないモノなので、考えようにも考えられないです」

「2枚目が白紙のままなのですか? …………、クロノベルト様の魔力で反応しなかったとしたら、他の――例えば、エンテ様の魔力には反応するのではないですか?」

「ははは、そんな馬鹿な。あの子が目醒めたのは最近なんですよ? そんな手の凝った仕掛けを施せる人がこの世界にいるわけが――」

 言いかけた所でクロノは1人だけ、そんな芸当が出来そうな人物がいることを思い出す。彼なら――アインハルトなら、もしかするとそんなことが出来るのかもしれない、と。何故なら、彼は死んだ後もこの世に留まることが出来たのだ。事前にエンテの魔力に反応を示す手紙を用意するのも造作ないだろう。

 そうすると、この手紙は彼が(もたら)したものなんだろうか?

 だが、そう考えると少しおかしい点が出てくる。彼はエンテの後継者がいつ現れるか知りようがなかったはずだ。にもかかわらず、ほぼ同時期に、それも行き詰るであろう時期に手紙を寄こすなんてことが出来るのだろうか。ましてや、彼の言う制限であの部屋から出ることも出来ない人物に、そんな奇跡じみたことが出来るとでもいうのだろうか……。

 彼の魔術がどういうものかよく分からないから何とも言えないが、限りなく不可能だと言い切ることが出来る。それはアインの反応からそう考えられるのだ。後継者となる人物にエンテの説明をしたり、わざわざ試すようなことをして人物像を確かめることをした。それはつまり、後継者がどのような人物で、いつ現れるのか知らなかったと言えるのではないだろうか。

 そうすると、話は振り出しに戻ってしまう。この手紙は一体、誰が寄こしたものなのか、と……。そこでクロノは1番可能性が高いと思える答えを導き出す。

 それは――彼には誰か()()()がいて、その"協力者"がこの手紙を寄こしたのだ、と。しかし、それでもまだおかしい点があることは拭い切れない。何故なら、クロノはまだエンテと共に外に出たことがなければ、アルスやディード、リシェ以外に誰かと会っているなんてことはないはずなのだ。そんな状況で、その協力者がエンテの存在や後継者のことを知ることが出来るのだろうか……。曲がりなりにも、アインの協力者なのだ。恐らく、何らかの方法で知り得たのだろう。そして、仕掛けの施した手紙を差し向けた。

 それにしても――例えそうだとして、差出人を書かない理由でもあるのだろうか……。


 そんなことよりも、今は手紙の内容だ。

 アルスの言ったように、エンテなら反応するかもしれない。アルスのアドバイスを受けたクロノはエンテに試してもらおうと彼女に起きてもらうことにした。

「…………」

「……どうかされました、クロノベルト様?」

「いえ、エンテを起こそうと思ったんですけど、どうすればいいのかと……」

 抜けている自分に苦笑しながらクロノはどうすればいいか考える。すると、何か案があるのか、アルスはクロノへと提案を持ち掛けた。

「それでしたら――食事を用意するのはどうでしょうか?」

「……? それは一体どういう――」

「簡単な話ですよ。魔力切れというのは要するに、疲れが極限まで溜まってしまった状態なのではないですか? でしたら、睡眠を取るのか、後は食事を摂るかすれば良いと思うのですが……」

 アルスの提案にクロノは納得するように頷く。魔力を補う方法はいろいろとあるが、その2つの方法は1番簡単な部類のものだ。それならば、と早速食事を用意するためにクロノはアルスに断りを入れる。

「ありがとうございます、アルスさん。それじゃあ、早速作ってきます。エンテはそのまま寝かせてアルスさんは仕事に戻ってもらって大丈夫ですよ」

「……いえ、動かして起こすわけにはいかないのでここで待っていますよ。それに、職務はほとんど終わっていますしね」

「……、そうですか。それじゃあ、エンテのことお願いします」

 アルスの言葉の真意を察したクロノは朗らかに笑うと彼女に任せて食事を作りに行くことにした。

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