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記憶の糸2

「待ってくれっ!!」

 クロノベルトは何かを掴むように腕を伸ばし起き上がる。

 しかし、伸ばした腕は何かを掴まえることはなく、行き場を失い空を彷徨う。

「はぁ……、はぁ……」

 起き上がったクロノベルトは何故だか息が荒いことに気づく。それに、眠っていたというのに微かな疲労感を覚える。それは例えるなら、全速力で100mを走った疲労感に似ているといったところだろうか。

 何があったのか思い出そうとするが、頭がぼんやりしてなかなか思い出すことができない。

 とりあえず、いつまでも腕を伸ばしているのもどうかと思い、行き場の失っていた手を自分の顔に持っていくと目を覆うようにして俯いた。次第に呼吸も落ち着き、平静を取り戻したクロノベルトは改めて何があったのかを思い出そうと試みる。すると、薄らとだが何があったのかを思い出す。

 そう、夢の中で走っていたことを思い出す。

 そして、走っている内に誰かに出会い、何かを言われたような気がする。何を言われたのかを思い出そうとするがそれだけはどうしても思い出すことが出来ない。

 そもそも、出会った人物は自分と会ったことのある人物なのだろうか?

 夢に出てくるくらいなのだ。おそらく、顔見知りの人物なのだろう。しかし、それにしてはどういう人物なのか全く思い出すことが出来ない。

 だが、自分を見つめる眼差しが、表情が、印象的だったからか脳裏に焼き付いて離れない。それはまるで、旧知の仲で自分のことを待っていたかのような表情をしていたからだ。

 夢なのだからそこまで深く考える必要はないのかもしれない。だが、どうしても気になって仕方がないといった様子だ。



 夢のことを考えていたからか、先程から胸元が淡く輝いていることに今更になって気付く。

 そのことに気付いたクロノベルトは慌てるように"それ"を確かめるように手に取る。それは眠る前にはきちんと服の内にしまっておいた首飾りだ。

 その首飾りが輝いているのを確認したクロノベルトは再び優しく手で包み込む。そして、その首飾りに祈るように、拝むように、ゆっくりと目を瞑る。

 その行動に呼応するかのように首飾りの宝石はより一層光を帯びるのだった。

 するとどういうわけか、先ほどは何も起きなかったというのに今回は頭の中に何かを示すようにある映像が次々にぼんやりと映し出される。



――まず最初は、噴水の周りを色鮮やかな花々が咲いている場所が映り出される。

 その次には、どうやらその場所を抜けたようで、木々が乱雑に並び立っているのが視える。

 そして次に映し出されたのはその木々の中なのか、それとも抜けた場所になるのか。1棟の蔵がポツンと寂しげに建っているのが視える――



 そこまで映像が映し出されると、これ以上映し出すものがないと言わんばかりに暗転し途切れてしまう。それを合図するかのように首飾りの輝きも収まる。それと同時にクロノベルトもゆっくりと目を開ける。そして、数々の映像を視たクロノベルトは考え込むように呟く。

「今の映像は一体――」

 いくら考えようとも先程視た映像が何を意味しているのか検討もつかない。一体何だというのだろうか……。

 そこでクロノベルトは1つのことを思い出す。今日あった出来事の1つを、思い出す。

 それは父からの手紙に書いてあったこと。自分に碑文を探し出し、その謎を解けということを。もしかしたら、先程視た映像はその碑文が安置している場所を指しているのではないか? と……。

 だが、そこまで考えてクロノベルトは思う。

 もし、今見た映像が本当に碑文のある場所を指し示しているのだとして、それがどうだというのか……。自分の父では解くことが出来なかった――或いは、条件を満たすことが出来なかったかもしれないものを――

 それを自分が解くことが果たして出来るというのだろうか? そんなことを考えてしまう。

 そして、考えれば考えるほど、不安が、恐れが、彼に重く圧し掛かる。

 しかしそれとは別に、1度挑戦してみたいという気持ちも湧き上がってくることが感じられた。

 例え無理だったとしても、自分に不利益なことが起きるわけではないのだ。だったら、挑戦するだけしてみるのもいいのかもしれない、とそう思い始めたのだ。


 そう思い立ったクロノベルトはベッドから起き上がると部屋を後にするように出て行くのだった。



(まずはさっき視た映像を参考に、碑文が安置していると思しき蔵を探さないといけないな)

 そう考えながら廊下を歩いていると不意に外の景色が目に入ってきた。そこには()()()から何ひとつ変わらない中庭がそこにあった。強いて言えば、当時と様変わりしてしまって荒れ果てているといったくらいだろうか。

 中央に噴水が鎮座し、それを囲むように()()()()()()()()がある。いや、正確には庭園だったのだろう。今では噴水も止まり、手入れの1つもされていない酷く寂れた庭園だということが見て取れる。

 その寂れた庭園を見るクロノベルトは悲痛な面持ちでただじっと佇んで眺めている。だが束の間、彼は当時を思い出すように目を瞑ると先ほどの映像との相違点を比べてみた。

 当時の事はもう朧げな記憶になってしまっているが、何とか思い出し比べてみるとあまり違ったところがないということに気付く。

 だとすると、脳裏に浮かんだ場所というのはこの屋敷のことを指しているのかもしれないと考える。しかし、ここまではいいとして、問題はここからなのだ。

 そう、彼にはこの屋敷のどこかに映像で視たような蔵がある、ということは全く記憶にないのだ。


 そうこう考えながらも中庭の庭園へと辿り着く。

 軽く辺りを見回してみても、周りにはもう花など咲いていない寂れた庭園が広がっているだけだ。

 脳裏に浮かんだ場所はここではないのだろうか? そう考えながらも庭園の奥へと進む。

 やがて庭園を抜けると、そこには最初から立っていたと言わんばかりに木々が乱雑に並び立っているではないか。

 その事実にクロノベルトは感嘆の声を漏らす。

「そんな……、こんな場所があったなんて――」


 驚きと困惑が入り混じる中、クロノベルトは確信に近いものを感じ取る。

 あの手紙の内容は本当のことで、おそらく碑文も存在するのだということを――

 複雑な感情のままクロノベルトは木々の中を進む。それはまるで、何かに(いざな)われるかのように――

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