秘め事
時は遡って――クロノがエンテを連れて部屋を出た後、ディードとリシェはお互いに考え込んでいた。
「なぁ、リシェはどう思うよ?」
「……どう思うって、何をかな?」
「あのチビのことだよ。何て言ったっけかな……」
「エンテちゃん?」
「そう! エンテシアだ! ……アイツの事、どう思う?」
「うぅん、そうだねぇ……。クロ君の親戚の子にしては全然似ている所がないかなぁ?」
「それは、遠縁だから似てないのも不思議ではないんじゃないか?」
「そうなんだけど。うぅん、何て言ったらいいのかな……、内面的なのが全然違うと思ったの。それに、人見知りにしてはちょっと冷たい言葉遣いだなぁって」
「ほぉ……。そんなことに気付くとはな。俺じゃさっぱりだわ。まぁ、棘のある言動なのは気になってはいたが」
「なんだか、昔のクロ君みたいだよねぇ……。あの子も昔に何かあったのかな?」
「それは……、分からねぇ。だが、1つだけ断定出来ることがある。それは、あのチビは親戚の子なんかじゃないってことだ」
「……それってどういう意味なのかな? ディード君」
「前にさ、親父に聞いたことがあるんだ。コンスタン家には親戚がいないっていう話をよ。一応、アイツとは付き合いが長いからそれなりに知っているが、確かに親戚が来ている所を見たことはない」
「それじゃあ、あの子はどこの子なのかな……?」
「分からん! 全く見当も付かねぇ……」
再び2人は考え込むように項垂れてしまった。
「あっ! そういえば――」
「……何だ? 何か分かったか?」
「ううぅん。そうじゃないんだけど……、エンテちゃんがテーブルに倒れ込んだじゃない? その時にちょっとおかしいなぁ、って思ったことがあったの」
「あぁ、確かにそんなこともあったな。……だが、何かおかしかったか?」
前置きをしてリシェは自分の考えをディードに話す。
「わたしの考え過ぎなのかもしれないんだけどね。エンテちゃんが倒れ込んだ時、食器にぶつかっていたじゃない? その時に食器が割れていなかったから、何でガラスじゃないんだろう、って思ったんだ」
「そんなの、子供だからじゃねぇか? もしもの時を考えたら不思議でもないだろ」
「うん、そうなんだけど。それにしては、用意周到過ぎないかな? まるで、前からそういうことになるのが分かっていたみたいな……」
「確かに……。言われてみれば、そうだな。それに、リシェに言われて気付いたが、怪我をされちゃ困るっていうことが言えるよな。俺があのチビを落としてしまった時も、結構な高さから落ちたのにすぐ起き上がっておかしいと思ったんだよ。あと、アイツにしては妙に落ち着いてたっていうのも気になる」
「そうだよねぇ……。いくら怪我をすることはないっていっても落ち着き過ぎだったよね。いつものクロ君だったら慌てていても不思議じゃないのに……」
「アイツらしくないっていうなら、ここに来てからそう感じていたぜ。俺やリシェに対してはいつも通りなんだけど、あのチビに対しては妙に余所余所しいっていうか……。アイツに対してだけ変に気を遣ってるのが気になったんだよ」
「わたしはそこまでクロ君とエンテちゃんが話しているのを見ていないから分からないけど、それが本当だったら少しおかしいね。仮に遠縁の子なんだとしても、クロ君だったらすぐに仲良くはずだもん」
「あぁ、アイツのそういう才能は俺も羨ましいと思うくらいだからな。それが、あのチビには通じなかったってことなのか?」
「……どうなんだろうね? 今までそんなことなかったから信じられないけど……」
「……なぁ。考えたくないが、あのチビ、もしかして悪魔ってことはないよな?」
「! クロ君に限ってそんなことないよ! だって、クロ君はいつだってわたし達の進む道を教えてくれたんだよ? そんなクロ君が悪魔なんかに――」
「悪い……。いくら答えがでないからって、最悪な想定を口に出してしまった。それに、リシェの言うように、アイツに限ってそれは考えられないよな」
最悪な想定を想像してしまった2人は思い悩むように考え込んでしまう。
何故2人がこんなにもクロノのことを心配しているのかというと、以前にある出来事がきっかけで重傷を負ってしまったことが原因だからなのだ。1歩間違えれば死んでいたかもしれない出来事だったので、2人共彼の行動には細心の注意を払っていたりする。だからこそ、悪い結末になってしまう前に何とかしてそれを解消したいと思っているのだ。それほどまでに、彼のことを大切に思っているといえるだろう。
やがて、ディードは自分達の考えをクロノにぶつけてもいいのかをリシェに確認してみる。
「……なぁ、リシェ。このことをクロノに聞いてみて答えてくれると思うか?」
「うぅん……。無理なんじゃないかなぁ? クロ君が隠し事をする時とかって絶対に言おうとしないもん」
「だよなぁ……。アイツ、ああみえて結構強情な所があるからな。聞いても話をはぐらかすか、それらしいことを言うだけだろうな」
「うん。何か、哀しいよね……。遠慮なくわたし達を頼ってくれてもいいのにね」
「だな。昔から思ってたが、そういうところはアイツの悪い所だな。俺達を大切に想ってくれるのは嬉しいが、アイツは自分自身をその勘定に入れていない節があるから質が悪いんだよ」
「……やっぱりご両親のことがきっかけなのかな?」
「それもあるだろうが、多分ガキの頃からその気はあったと思うぜ? あの時からマシになったと思ったんだがなぁ……。何にせよ、アイツが話してくれるまで待つしかない、ってことか……」
ディードは仰ぎ見ると、問題となっている少女について呟くように言葉に出した。
「はぁ……。本当に――あのチビ、一体何者なんだ……?」
ディードは疑問を口に出すが、その答えはこの場にいる彼やリシェに答えることなど出来るはずがなかった。




