協議
粗方話を終えた所で、注意事項やこれからの方針を決めるために3人で話して決めていくことになった。その中でも、注意事項を話すことにディードは気懸りがあるのか、深刻そうな顔で2人に語り掛ける。
「とりあえず、だ。何があるか分からないからアイツに纏わる情報は極力誰かに話さないこと。それでいて、アイツに関係があるかもしれない情報を集める、か……。思っている以上に難しいが、何もしなければアイツはあのままって訳だ」
今までの話を纏めるディードにクロノは異論はないといったように頷く。問題はないことを確認したディードは話を続けつつも一番の懸念点を指摘する。
「問題は――」
そこで一旦区切ると、ディードはリシェの方をちらりと見る。それに釣られるかのようにクロノもリシェの方を見つめる形になってしまった。
「えっ、わたし!? 何かな……」
2人に見られたリシェは自分が何の問題になるのか分からないといった顔で困惑する。そんなリシェにディードは言いづらそうに言葉を続ける。
「リシェ……。お前、このことを誰かに言わないって、言い切れるか?」
「ひ、ヒドいよ、ディード君! いくらわたしだって言って良いことと悪いことくらい分かってるよ?」
「いや、だってなぁ……。お前自身が言わないと言っても、隠し事とかが下手だから結果的にバレてしまうんじゃないか? それに、押しに弱いところがあるから聞かれたらあっさり答えそうだしな」
ディードの言っていることにクロノは苦笑いを浮かべつつ納得しているようだ。
「ク、クロ君まで!? そんなにわたしって信用ないのかな……」
「そういうわけじゃないよ。誰にだって得手、不得手があるからね。こういったことは苦手というだけで、リシェにはリシェの出来ることがあるよ」
「本当に……? それってどういうのかな? わたしに出来ることがあるんだったら何だってやるよ!」
「うーん、そうだね……。とりあえず、ヒルデ卿について調べてみてくれないかな? 彼女はヘレムデューケに従属していたから何かしらの情報があると思うんだ」
「それは別にいいんだけど……。何でヒルデさんのことを調べるのかな? エンテちゃんに関係があることだけど、調べても特に意味はないんじゃないかな?」
「それなんだけど、実はあの子以外に後2人の人形がいたらしいんだ」
「おいおい、マジかよ……。あのチビ以外にまだ2人もいるのか。……ん? 何か曖昧な物言いだったが、理由でもあるのか?」
「曖昧になってしまったのは、彼女達が今も動いているかも、無事に存在しているのかも分からないからなんだ。エンテは封印されていたから何処も体に異常はなかったし今も動くことが出来ているけど、他の2人が無事だとは言い切れないからね」
「要は、今も可動しているかどうかも分からないのを調べるって訳か。そんな不明瞭な存在の行方を追うなんて、相当骨が折れる作業だぞ。リシェ。大役になるが、大丈夫か?」
「うぅん……。確かに大変だし1人だから難しいけど……、でもやるんだよね? だったら、わたしに出来ることは精一杯やろうって思うよ。わたしだって出来るんだ、って所を見せたいしね♪」
重要なことを任されたからか、リシェは嬉しそうに意気込みを2人に伝える。やる気に満ち溢れているリシェにクロノは安堵の声を漏らす。対照的に、ディードはリシェのことが心配なのか、自分の方でも2人の軌跡を調査することを願い出る。
「リシェだけに任せておくのも酷だろうから、俺の方でもその2人について調べておくぜ。ヘレムデューケ出身といっても、別にいつまでもそこに留まっておくとも考えられないからな」
「ディード、リシェ。本当にありがとう。はっきり言って、"今の僕"はそこまで役に立ちそうにないからすごく助かるよ」
「……あ? それはどういう意味だ? いくら魔術師が制限を強いられるとはいえ、情報を集めるくらいなら問題ないだろ。それとも、何か他の問題でもあるのか?」
クロノは自分の現状を言い忘れていたことを改めて説明する。
「そうだね……。実は、あの子の封印を解く時に魔力を一気に放出してしまったんだ。それで、元に戻るまではいつも以上に行動が制限されるようになってしまったんだよ」
「……大変なのか、それ? 俺は魔術師じゃないから分からねぇが、魔力ってのは大体1日で戻るもんなんだろ? だったら問題ないんじゃねぇか?」
「大問題だよ、ディード君! 魔術師じゃなくても、魔力っていうのは人によって出せる量っていうのが決まってるんだよ。だから、無理に出そうとしたら身体に負担が掛かっちゃってしばらく思うように魔術を使うことが出来なくなっちゃうの。最悪、身体に支障を来して寝たきりになることもあるくらい危険なことなんだ」
おっとりとしているリシェから想像出来ないほど矢継ぎ早に危険であることをディードへと説明する。リシェに詰め寄られたディードは彼女から離れるように顔を背けると、納得するように頷く。
「ほぉ……。いまいち実感は沸かないが、危ないっていうことは分かったぜ」
「そうだね。このティーポットで例えると分かりやすいのかもしれない。普段は決められた量しか出すことが出来ないだろう? それを無理やり出そうとすれば注ぎ口が壊れてしまったり、早く注ぐために傾けることで中が溢れ出てしまったりする――今の僕はそういう状態だ、って言えば分かると思う。そして、今はその状態を治すためにあまり魔術を使うことが出来ないっていう事だよ」
「……思ってる以上にヤベぇじゃねぇか! そんなんで生活は大丈夫なのか?」
「そうだよ、クロ君! もし生活が大変なんだったらわたし達がしばらくお世話するよ?」
「ありがとう、リシェ。だけど、きみ達には仕事があるんだから気持ちだけ受け取っておくよ。それに、アルスさんもいるからそこまで大変っていう訳じゃないんだ。ただ、魔力が安定しないから容易に魔術を使えないのは少し厄介ではあるかな。前も、エンテに魔術を教えるために使った魔術が暴発してしまって威力がおかしいことになってしまったからね」
「そっかぁ……。でも、本当に何かあったら遠慮なく言ってね? いつでも駆けつけるから!」
「ありがとう。覚えておくよ」
いろいろと取り決めを行い協議も終わりに差し迫った頃、ディードを1つだけ気になっていたことをクロノに訊ねてみた。
「そういえば、お前。このことをブルワーさんに言ってるのか? 俺達にとってあの人は先生だけど、お前にとっては師匠でもあるだろ。言ったら力になってくれるんじゃねぇか?」
「師匠には、まだ言っていないよ。何て言ったらいいのか悩んでなかなか連絡が取れないんだ」
「ふーん。そうか。そんなに悩まなくても、あの人だったら何の気兼ねなく頼ってもいいと思うんだがな。まぁ、お前がやりたいようにやればいいと思うが」
「気遣いありがとう。……はぁ、なるべく近い内に連絡しないとな……」
「難しく考え過ぎだと思うが、まぁいい。ブルワーさん以外でいうなら後は、ヴィオと……アルフもか? そこら辺にも声を掛けてもいいと思うぜ」
「ヴィオは、記憶喪失について聞こうと思って連絡をしているよ。ただ、まだ返事が返ってこないからいつものことだろうけどね。でも、そうか……。確かに、アルフもこれからお世話になるだろうから話してみてもいいのかもしれないね」
「だろ? ……っていうか、ヴィオには俺らより先に話してるのかよ! 俺らの方が付き合いが長いのにちょっとヒドいんじゃねぇか!? なぁ、リシェ!」
「えっ!? あ、うん。そう、だね……?」
「あくまで記憶喪失について聞いただけで、エンテのことを言ったのはきみ達が初めてだよ。そんなに拗ねなくてもいいだろう」
「別に拗ねてねぇよ! ただ、腑に落ちないだけだ!」
「……ああっ! ディード君は一番最初にクロ君から教えて欲しかったから怒ってるんだね!」
「……っ! リシェ……、改めて言わんでくれ……。流石に恥ずかしくなるから……」
「だ、大丈夫だよ、ディード君! わたしもクロ君から初めに聞きたかったから!」
「何のフォローにもなってねぇぞぉ、リシェ……」
「ふふふ。いつもと立場が逆転してるね」
「……うるせぇ」
クロノに指摘されながら、ディードは遣る瀬無い気持ちを押し留めるのだった。
いよいよ現状で話すこともなくなってしまったのでディードは立ち上がると帰り支度を始める。
「さて、ある程度話も纏まったことだし、そろそろ俺は仕事に戻るわ。何か分かったことがあったら連絡してくれ。俺も何か分かったら報告するからよ」
「遅くまで悪かったね。本当はもっとゆっくり話せる時にすれば良かったんだけど……」
「気にすんなって! 元はといえば、俺が今聞きたいって言ったんだぜ? お前が謝る必要はねぇよ」
「うん、そうだね。ありがとうディード」
「おぅ! それじゃあな、クロノ、リシェ。あと、あのちっこいのにも言っといてくれ」
歩きながらひらひらと手を振るディードはクロノの屋敷を後にするのだった。
クロノの屋敷を出たディードは1人考えるように歩き続ける。
「(クロノのやつ、2ヶ月会わない間にあんなに良い表情するようになりやがって。それにしても――エンテ、か……。どこかで聞いたことがあるような……? まあ何にせよ、アイツには感謝しないとな)」
親友の成長に喜びを噛み締めつつ、ディードは職場へ赴くため帝都へと戻るのだった。
◆
「……行っちゃったね」
名残惜しそうにリシェは言葉を零す。そんなリシェを気遣うようにクロノは言葉を掛ける。
「大丈夫だよ、リシェ。またすぐに3人で集まることが出来るさ。ディードが言っていたんだけど、"時間なんて作ればいい"んだからね」
「……うん。ありがとね、クロ君♪」
晴れやかな笑顔でリシェはクロノに笑い掛ける。すると、そこへ空腹を知らせる腹の音が小さく聞こえてきた。その音を鳴らしたリシェはみるみると紅くなると恥ずかしそうに顔を手で覆う。真面目な話をして頭を働かせていたのだから仕方ないだろう。
「あ、あはは……。ごめんね、クロ君……。鳴らないように頑張ってたんだけど、結局鳴っちゃった……」
「ふふ。話している時にお腹を押さえてるから何かと思ったら、そういうことか。よく耐えることが出来たね」
「うん……。いつ鳴ってしまうか冷や冷やしたよ……。わたし、おかしくなかったかな、クロ君?」
「そうだね、大丈夫だったよ。でも、そうだな……お腹を空かせたまま帰すわけにもいかないし、今日は家で食べていくかい?」
「えっ!? いいの?」
「1人増えるくらい何てことないさ」
「やったぁ、久しぶりにクロ君のご飯だ~♪ それじゃあ、クロ君の所でお世話になるってお義父さんに連絡してくるね!」
「うん。家の魔導話を使っても大丈夫だよ」
「ありがと~♪」
今日の食卓は少し騒がしくなりそうだとクロノは思いながら厨房へ向かうのだった。




