疑念
さて、今回の話では饒舌?に前書きを書いたりしていますが、書き切れているのはここまでになっています。いやー間に合うんですかねー……。
まぁ、ここまで追い詰めたから本来の私の力が出せるでしょう!……多分。
眠ってしまったエンテを自室で寝かせるため、客間から移動したクロノは彼女の部屋に入るとゆっくりとベッドへと降ろした。そして、しっかりと身体を休めるように掛け布団を掛けて彼女に労いの言葉を掛ける。
「今日もよく頑張っていたね、エンテ。夕食までゆっくり休んでてて」
いつもやっているかのような口振りで彼女を労うと、優しく頭を撫でて部屋を後にするのだった。
部屋を出たクロノはディードが帰る時間が迫っていることもあったので急いで客間へと戻ろうとした。だが、先程騒ぎがあったから話は有耶無耶になったが、当然ディードのことだ。話を蒸し返すだろう。そう考えたクロノは、頭を捻らせながらも歩いて対策を講じるのだった。
「ごめん、待たせたかな?」
「お、戻ってきたか。意外に早かったな」
「時間が大丈夫っていっても、あまり待たせるわけにはいかないからね」
「んなこと気にしなくてもいいって! まぁ、でもちょうどいいか。実はな、お前があのチビを寝しに行っている間、リシェと話をするって言っただろ?」
「言っていたね。……もしかして、その話を教えてくれるのかな?」
「あぁ、教えてやるぜ。まぁ、教えるというよりも、お前に聞くことになるんだがな」
「ディード君! まだ――」
ディードが何の話をしようとしているのか察したリシェは話の腰を折ろうとディードの発言を止めようとする。だが、そうなることが分かっていたディードはリシェを手で制すると、話を続けるためにクロノをソファーに座るよう促す。
2人の様子からこれからする話の内容を凡そ理解したクロノは覚悟を決めディードの話を聞くことにした。
「――座ったな? で、話っていうのはな、あのチビっ子の話なんだ」
「チビっ子? ……もしかして、エンテのことかな?」
「そうそう、そのエンテシアの話だ。時間がないから単刀直入に言わせてもらう。……あのエンテシアって子――お前の親戚なんかじゃないだろ」
案の定、といった所だろうか。ディードが話そうとしていた内容はエンテとの血縁関係の有無についてだった。まだその程度の内容ならいくらでも誤魔化しが効くと考えたクロノは、そのまま話を続けるように見せかけて話を流そうと画策する。
「何で、そう思うのかな? 特におかしいところは――」
「おかしいもなにも、お前の屋敷に親戚が来ていたことなんて今まで一度たりともあったか? なかっただろ。それなのにいきなり押しかけて来て娘をしばらく預けるなんて、普通に考えておかしいだろ」
「それは、今まで疎遠だったからだって……」
「悪い。1つ言い忘れていた。お前も知っていると思うが、俺の親とお前の親が旧知の仲だっていうのは知っているよな。いつだったか、親父から聞いた話なんだが、コンスタン家には親戚がいない、というようなことを聞いたことがあるんだ」
「…………」
「それに、名の知れた魔術師は危険な任務に赴くことが多いっていうのは有名な話だ。一般人はおろか、下手すりゃ俺たちよりも死ぬのが早いってこともある。それを考えるとさ、もし本当にお前の親戚がいたんだとしても、もうこの世にはいないんじゃないか、ってな……」
「ディード君! いくらなんでもそれは――」
「悪い、リシェ。少し黙っていてくれ。どうなんだ、クロノ。俺が言っていること、何か間違えてるか?」
黙ってディードの言い分を聞いていたクロノは今までの言動で間違いがあることを訂正するために口を開く。
「それは……、確かにそうだね。だけど、魔術師の家系だからといって、皆が皆全員魔術師という訳ではないよ。それはきみも知っているだろう?」
「あぁ、職業柄そういうことも詳しいつもりだ。だが、本当にそうだとしたら、余計おかしいんじゃないか? 一般人がいきなり魔術師の家に娘を預けるなんて……。それも、お前の話だと最近魔術を教え始めたって言うじゃないか。魔術師にするにしては何で今更教えてやることになってんだよ。教えるならもう少し早くてもいいだろ」
「確かに、きみの言うように教えるのは少し遅いのかもしれない。だけど、あくまでそれは一般的なことだ。あの子にはそれを覆すことが出来ると思っているから教えているんだよ。別に、不思議でも何でもない」
いつものクロノらしい言動でないことにディードは一瞬たじろいでしまう。それほどまでに、エンテの"可能性"を信じているのだと窺い知れる。
だが、それでもディードは食い下がるようにして更にクロノへ言及する。
「お前の言い分はもっともだ。決めつけるなんて俺らしくないことをしてしまった。だけどな、それだけじゃないんだ。リシェが気付いたことなんだが、アイツの食器だけガラスじゃなかったのは何故なんだ? 子供だからって理由じゃないだろ。何か、他の理由があるんじゃないのか?」
「それは……」
予想外な指摘をされたことでクロノは言い淀んでしまう。このまま黙っていては肯定しているようなものなのだが、言い返す言葉が特に思い浮かばないようだ。そのまま互いに見詰め合う形になり、静寂が訪れてしまう。
このまま沈黙が続くのならディードの制限時間が切れてしまうことに気付いたクロノは卑怯だと思いながら口を噤み沈黙を貫くことを決めた。
制限時間までこのままなのかと思われた時、根負けしたようにディードが口を開かせた。
「はぁ……。止めだ止めだ! これ以上話したとしても埓が明かねぇ!」
「ディード……」
「悪かったな、クロノ。あくまで俺の推測に過ぎないのに嫌なことを言ったりして」
クロノに一言断りを入れると、ディードは難しい顔で俯き考え込むように腕を組んだ。今までの問答に決して納得したわけではないが、これ以上の覆す言葉が思い浮かばないようだ。
やがて、考えを纏めたディードはクロノへ自分が思っていることをそのままぶつけることにした。
「まあ、なんだ。誰にだって知られたくないこと、聞かれたくないことの1つや2つくらいある。だけどな、だからといって変に抱え込んだりするんじゃねぇぞ? お前の場合、前例があるから少し心配だが、もう子供じゃないんだ。それくらい分かってると思ってる。だから、俺からはもう何も言わねぇよ」
伝えるべきことを伝えたディードはすっきりしたようにクロノに笑い掛ける。クロノの性格上、口を割ることがないのなら、クロノの判断を信じ話してくれるまで待つと決めたようだ。
ここで、今まで口を挟むことなく2人の様子を眺めていたリシェも、ディードの言葉に同意すると自分達を頼ってほしいことをクロノに伝える。
「クロ君がそうやって抱え込む時って、誰かの為だって分かってるからわたしも、ディード君も何も言わないよ。でもね? もし、辛いことや悲しいこと――自分一人ではどうしようもない時があればいくらでも頼ってほしいんだ。それが友達だって思うから」
「そうだな。リシェの言う通りだ。限度はあるだろうが、話を聞くことくらいは出来る。まあ、取り返しのつかないことになる前だったらいくらでも協力するつもりだ。だから、遠慮なく頼ってこい!」
これで話は終わりだ、とばかりにディードは話を切り上げる。
この2人はいつもこうなのだ。
ディードは乱暴な物言いで他人をからかったりする所があるけれど、いつでも誰かを思いやる心や踏み込んではいけない境界を弁えている漢気の溢れた男だ。一方、リシェは一見温和で優柔不断そうに見えるが、しっかりと自分の芯を持っていて誰かを包み込むような優しさを持った慈愛に満ちた女の子。どちらもとても頼りになる大切な友人だ。
そんな2人に支えられたから今の自分がいるのだと改めて思い知らされる。そして、この2人になら話してもいいのではないかとさえ思えてくる。だが、大切な2人を自分の都合に巻き込んでしまっていいのかと思い悩んでしまう。
自分が抱えた問題は信じられないようなありえない話だ。勿論、2人なら信じて真摯に向き合ってくれるだろう。しかし、巻き込んだ結果、2人を危険な目に合わせてしまうことになるかもしなれないと考えてしまう。もし、そんなことになってしまったら自分は冷静でいられるのか、と――
あれこれと考えている間に時間が来てしまったのか、ディードは立ち上がると帰り支度を始めた。急いでいる所を見ると、ギリギリまで時間を粘ってくれたのだろう。
「そんじゃ、俺はそろそろ行くわ。また何かあったら連絡してくれ。まあ、なくても時間が出来たら来るつもりだがな!」
「あっ、じゃあわたしは玄関まで送ろうかな! ……いいかな?」
「いや、いいって! 子供じゃあるまいし……。久しぶりなんだし、クロノと話しとけよ。いろいろ話したいこともあるだろ?」
いつものようにおどけた口調で言っているが、どこか物悲しさを感じさせる。彼なりに何か思うことがあるのだろうか……。
2人の様子を眺めていたクロノは自分なりの考えを纏めると、2人に向けてはっきりと宣言する。
「今日は無理だけど後日、またこうして集まることが出来たら2人に聞いてもらいたいことがあるんだ。その時に今日の……、エンテの話をしようと思う」
クロノの突然の申し出にディードとリシェは呆気に取られる。だが、クロノの真剣な眼差しと物言いから複雑な話なのだろうと察した2人は顔を見合わせ頷くとクロノに向き直る。そして、今まさに帰ろうとしていたディードはソファーへと腰を掛けるとクロノに呆れながら愚痴を零す。
「……ったく、遅ぇんだよ、お前は。まぁ、お前にしては成長した方か?」
「いや、ディード。仕事は――」
「あ? 確かに仕事は大切だ。だがな、友達であるお前はもっと大切なんだよ! だから――今お前が抱えているものを俺達に話せ!!」
ディードはクロノに笑い掛けると、力強い言葉でクロノに話をすることを促すのだった。




