リッシェル
キャラの言葉遣いを完全に把握していないから少し時間は掛かりましたが、会話パートは結構楽だなぁという感想です。こんなに頭を悩ませているのは主に、エンテのせいなんじゃないですかね…。
それはさて置き、ネーミングセンスがないのは重々承知なのであまり突っ込まないであげてください…。
クロノが退室してから少し経った頃、ディードは何もすることなく暇を持て余していた。急な訪問だったので特に何も持ってきていないことが仇になってしまったようだ。しかし、ディードは何かを思い付いたかのように懐を探り出すと"それ"を取り出す。取り出したものは手に少し余るくらいの塊だった。その塊を弄り始めたかと思ったら、不意に塊を耳へと押し当てるとじっと動かなくなってしまう。それから少しして、何を思ったのか独り言のように話し始めた。
「……よぉ、リシェ。俺だけど、今大丈夫そうか? …………いや、クロノを待ってる間暇だったんで掛けてみたんだが、忙しそうなら切るぞ。えっ……、そうなのか? だったら、ちょうどいいな。この後予定がないんだったらクロノの屋敷に来いよ。お前のことだから、あんまりクロノに会ってないんだろ? それに、面白いのが見れるぞ。え、……何が面白いのかって? そんなの、言ったら面白くないだろ。まぁ、来てみりゃ分かるよ。…………って、何だ。元々来る予定だったのか。おぅ……それじゃあ、待ってるぜ!」
用件が終わったのか、ディードは独り言を止めると塊を耳から離した。
一部始終ディードの行動を見ていたエンテは不思議そうに、或いは冷ややかに彼の持っている塊を見つめる。エンテの視線に気付いたディードは手に持っている塊をぶらぶらと揺らすと得意気に彼女へ自慢をし始めた。
「どうだ、最新のやつだぞ。羨ましいだろ? ……っても、まだ試作段階のやつなんだがな。こいつが上手くいけば今以上に連絡が楽になるからアイツには頑張ってもらわないとな!」
「…………」
ディードが自慢をしている間に、エンテは顔を背けていたのか再び本に視線を戻していた。
「はっ、本当に可愛げのないガキだな。ま、別にいいけど」
それから少しして、お茶を持ったクロノが姿を見せる。
「ごめん、少し待たせてしまったね。お茶請けを探すのに手間取っちゃって……」
「んなもん、適当でいい。適当で」
「いくら気の知れた友人だと言っても、そういうわけにはいかないだろう。それよりも……、リシェが来たんだけど、呼んだのはディードかい?」
「おぅ! そうだが……、来たのか?」
「おじゃましま~す。ディード君、"久しぶり"だね」
クロノの後ろから窺うように笑顔が眩しい女の子が顔を出し挨拶をする。
歳は成人しているのか怪しいほどに幼く、そのことについて彼女も気にしているようだ。白みがかったブロンドの髪は肩に届く程で、緩やかな波を打つように巻かれている。整えられている髪は光を帯びることで更に輝きを増すかのような奇麗な色を放っている。幼い外見とは反対に、緩やかな服でも分かるほどの不釣り合いな胸をしている。また柔和な性格なこともあってか、年齢の割に独特な雰囲気を醸し出しているのが特徴だ。
その訪問したリシェの対応をしていたであろうクロノはディードへと苦言を呈する。
「まったく、呼んでいたんだったら前もって伝えて欲しいんだけど。対応も出来ないだろ」
「悪い悪い! ちょっとしたサプライズのつもりだったんだよ。それに、こういう機会でもなきゃ3人揃う事なんてないだろ? なぁ、リシェ」
「え? う、うん。そうだねぇ。……あっ、そうだ! ディード君。魔導話で言ってた面白いものって結局……あれ? 女の子? 女の子がいる! クロ君、あの子は誰なのかな!?」
「あー……、順を追って説明するから少し落ち着いて貰ってもいいかな?」
「クックックッ、いつも通り、予想していた反応で安心するな。いや、いつもより興奮してるか……?」
「そ、そんなことないと思うよ? ただ、クロ君のお家に知らない女の子がいて驚いただけだから!」
「はは、そういうことにしとくか。とりあえず、クロノが困ってるから少し落ち着けって」
「う、うん。ごめんね? クロ君」
「いや、いいんだ。ディードにも言ったけど、あの子は――」
興奮していたリシェを落ち着けると、クロノはディードと同じようにそれらしい事情を説明する。説明されながらリシェは興味深そうにエンテを見つつ、納得するように頷いている。
「へぇ~、そうなんだねぇ。女の子だし、大変だったりしない?」
「リシェ。それは俺が聞いた。……ってか、俺ら考えること結構一緒だよな」
「……そうかなぁ? そんなことないと思うよ、うん」
「いや、そんな即否定されると流石に傷つくな……」
リシェの言葉に凹んだと言わんばかりにディードは項垂れるように顔を伏せる。そんなディードを気遣うようにリシェは動揺しつつ言葉を正そうとする。
「えっ!? あ、……そ、そんなつもりで言ったんじゃないんだよ? ホントだよ?!」
一連の流れを眺めていたクロノはディードが本気でないことをリシェへと意見する。
「リシェ……、いつものディードの冗談だよ」
「え……」
「……クックックッ。いつも騙されてくれて助かるよ」
「……! もうっ、ディード君! 本当だと思ったじゃないっ!」
「悪い悪い! だけどよ、リシェ? いくらシスター様でも、清廉すぎるのは任務で支障が出るんじゃないか? こうやって嘘や冗談を交えることによってそれを見破れるか、っていうのを俺は試してるんだ」
「そうだったんだ……。ごめんね、ディード君。吐きたくもない嘘を言わせたりして……」
「おぅ……」
リシェの言葉にディードは神妙な顔で返事をすると俯頷いてしまった。2人のやり取りにクロノは溜息を吐くと、再びリシェに意見する。
「……リシェ。騙されちゃいけない。さっきディードが零した言葉を思い出したらそれが分かるよ」
「えっ……? …………、あっ。ディード君! わたしが学ぶためのものなのに、騙してるディード君が助かるのはおかしいよね!?」
「おいおい、クロノ。いきなりバラすのは駄目だろ。もうちょっと楽し……、んん゛! そんなことよりも!」
からかっていたのがばれて都合が悪くなったディードは咳払いすると、話を逸らすためにエンテの話へと戻そうと試みる。
「気を付けろよ、リシェ。そのガキ、不愛想なだけならいいが、すごい生意気だからな」
「…………」
悪口を言われたエンテはディードを一睨みするが、そのことを特に気にした様子もなく鼻であしらう。その様子を見ていた3人は顔を見合わせると感嘆の息を漏らす。そのことにクロノはフォローするように言葉を投げ掛ける。
「はぁ……、今のはディードが悪いよ。誰だって自分を悪く言われて気を良くする人なんていないだろう?」
「それはそうだが、実際その通りなんだからフォローのしようがねぇだろ」
「それは、……」
事情を全く知らないディード達にとって、エンテは普通の人間の女の子として映っている。クロノ的にはディードが発言した言葉を否定したい所だが、下手なことを言って彼女の正体を知られてしまうわけにはいかないというのがある。ただでさえ、ディードは勘の鋭い所があるから今まで言葉を選びながら話していたのだ。それをふいにしてしまう訳にはいかない。
押し黙ってしまったクロノを見たリシェは何かを決意するように意気込む。
「……私に任せて!」
「リシェ……?」
「これでも子供の扱いには慣れてるんだ~。それに、"昔のこと"もあるし、ね? だから、あの子の心も開かせることが出来ると思うの!」
「おおぉっ! これは期待出来そうじゃないか!? な、クロノ!」
「うん。リシェならなんとかなりそうな予感がする。……任せてもいいかな、リシェ?」
「うん!」
エンテの場所まで行ったリシェは彼女の目線と同じになるように膝を折ると、極めて警戒されないようにゆっくりと優しく話し掛ける。
「初めまして、わたしはリッシェル・クロムウェルって言うんだ。えっと、エンテちゃん……で良いのかな? よろしくね! わたしのことは気軽にリシェって呼んでほしいな♪」
「…………」
「何の本読んでるのかなぁ? 私も結構本を読んだりするから仲良くなれそうだね!」
「…………」
窺うようにエンテの目線でリシェは話し掛けるが、肝心のエンテは一向に見向きもせず反応をすることはない。それでも、リシェは諦めずにエンテのことを誘い出そうと試みる。
「あのね? 今からお茶を飲むんだけど、向こうで一緒に――」
「はぁ……。さっきからうるさいです。貴方は本を読むのを邪魔されて良い気分になりますか? 少なくとも、私は良い気になりません。なので、もう話し掛けないでください」
「ご、ごめんね。でも、1人でいるよりもみんなでいる方がきっと――」
「余計なお世話です。貴方達はそうなのかもしれませんが、私は1人でも問題ありません。だから、放っておいてくれませんか」
「そんな哀しいこと、言わないでほしいな……。独りでいて平気な人なんて、どこにもいないよ。だから……!」
「……貴方に、私の何が分かるというのですか。何も知らない癖に、私に口出しするのは止めてください!」
「……はぁ。リシェでも駄目だとはな」
いつの間にか2人を覆い隠すほどの影が降りてきていた。その影の正体はディードだ。おそらく心配に思ったので2人の様子を見に来たのだろう。そのディードは申し訳なさそうにリシェへと語り掛ける。
「悪いな、リシェ。お前に任せておきたかったんだが、気になってな。お前のやり方が悪いっていうつもりはないが、相手が悪い。こういう我が儘なやつは多少無理にでも言い聞かせないと駄目だ」
そう言ったディードは片手で乱暴にエンテのことを抱き抱えると、自分達の居た場所へと戻ろうとする。その様子を見たクロノはディードの行動に抗議し押し留めようと試みる。
「ディード! 流石にそれは――」
「クロノ。お前にとってこいつがどういうやつなのか知らないがな、このままじゃ――」
「……してください」
「あ? 何か言ったか?」
「離せ、と言っているのです。離さないのならこのまま……!」
「あっ、おい、馬鹿! 暴れるなって! そんなことしなくても離して――」
ディードが離そうと手を緩めた瞬間、暴れていたエンテはすり抜けてしまい50cmほどの高さからそのまま打ち付けることになってしまった。即座に駆けつけていたクロノがエンテを抱き起そうとするが、彼女はその行動を制止するとふらふらとしながら起き上がる。
「……これで気は済みましたか?」
「いや、そういうつもりはなかったんだ。……そうじゃねぇな。悪かった。そういうつもりじゃなかったとしても、やっぱり無理やり連れて行こうとしたのは良くなかったよ」
「……そんなこと、どうでもいいです。これに懲りたらもう私には関わらないでください。お互い、それが良いことだと思いますので」
エンテはそれだけ言い放つと、再びソファーへと腰を掛け何事も無かったかのように本を読むのだった。




