寂れた庭で
今回の話でこの章は終わりになります。詰め込み過ぎで少し重い話でしたが、いかがだったでしょうか?
次の章も説明や紹介などを予定しています。非常にゆっくりペースで申し訳ないですが、もう少しお付き合いください。それが終われば楽しめる展開になる…と思います。絶対とは言い切れないので…。
あと、次の章はまだ書いている最中なので再びお待ちしていただくことになります。10月中には投稿出来るように調整するのでしばし辛抱を願います。焦らすコメントがあれば勢いが増すかもしれないのでよければ試してみてください(笑)
今日も私は庭園に来ている。
自分の部屋にいても何もすることがないというのはある。だが、それ以上にここにいると何故か落ち着く気がするのだ。詳しいことは知らないが、ここはかつていろんな花が咲き誇っていた場所なのだろう。今ではそんな景色を見ることも出来ないほど寂れた場所だが……。
だからだろうか?
かつて彩られていたこの場所と、自分を重ねることで心が落ち着くことが出来るのは……。今では荒れ果てて庭園と呼べないここは、私の心と言っていいほど寂しく空虚な場所なのかもしれない。だがそれでも、この場所は私と違うところもある。私は記憶がなく空っぽだが、この場所にはかつての光景や未来のことを想い馳せることが出来る。それが出来るこの場所に少しもやもやしてしまう。私には何もないのに、と……。
もやもやしながらも、かつての光景を、或いはこういった花々が咲いていたら良いと空想に耽るために瞳を閉じる。春先らしく、少し冷たい風が心地よく頬を撫でる。緩やかで長閑な時間が流れるのを感じながら、いつまでもこの時間が続けばいいのにと思ってしまう。しかし、そんな安穏とした時間は1人の人間が現れたことで呆気なく終わりを迎えてしまう。
「エンテ、ここにいたんだね。……最近よくここに来ているようだけど、気に入ったかな?」
この屋敷の主のクロ……、なんと言っただろうか。彼に興味がないから名前を忘れたが、私が目醒めてから今までしつこく話しかけてくる人間だ。彼と約束をした以上それを守るつもりだが、必要のない会話をするつもりはないと昨日の内に伝えたのにそのことを忘れたのだろうか……。そんなことを考えていたが、どうやら彼の用事は会話という訳ではなく、魔術の鍛錬をするから呼びに来たというものだったのだ。
それだけなら良かったのだが、私の体調のことを聞いて来たり、挙句の果てには魔術を教える話をなかったことにしようとしたのだ。ただでさえ全く魔術を使うことが出来ないのだから体調の心配などせずにやることを詰めていけばいいのにと考えてしまう。自分の身体のことはまだよく分からないが、人間よりも丈夫に出来ているはずだからちょっとの無理をしても平気のはずだ。そのことを彼に告げても聞く耳に持たないと悟った私は自分の意見を曲げて言うことを聞くことにした。
助手の話ははっきり言ってどうでもいいが、魔術を教えてもらえなくなるのは正直困ってしまう。少しでも早く私はヒルデに近づかなくてはならない――いや、ヒルデ(彼女)を超えるくらいにならなくてはならないから……。創造主を超えるなんておこがましい考えだと思うのだが、何故だかそうならなくてはいけないと強く思ってしまうのだ。それに、そうすれば彼女のことを――
そんな私の思惑を彼に告げることなく、鍛錬を行うために場所を移動することになった。
「あっ、そうだエンテ。ちょっといいかな?」
すると、何を思ったのか彼は思い出したかのように私に問い掛ける。一体何だというのだろうか……。
「……手短にお願いします」
「分かった。1つ聞きたいこと――いや、提案したいことがあるんだけど」
「提案? ……一体何ですか?」
「いやね、きみはこの庭園を気に入っているようだから元の……花が咲いていた頃に戻そうと思ったんだ。とはいえ、恥ずかしながらこういうことには詳しくないから良かったら一緒に学びながら戻さないか、っていうお誘いだよ」
なんと、目の前の男はこの庭園を元に戻してみないか、と言い出したのだ。それも私と一緒に。彼と一緒にというのは正直不平だが、この場所にまた彩りが戻るのは願ったり叶ったりだ――
「……そんなことをして私に何の得があるのですか? そんなことをするよりも少しでも魔術を使えるようにする方が大事です」
願ったり叶ったりではあるのだが、私にはそんなことをしている余裕も、暇もない。一刻も早く魔術を使えるようにならなくては――その一心で彼の提案を撥ね退ける。
私が断ったことに彼は意外そうに驚く。しかしそんな表情も束の間、微笑みながら私に語り掛ける。
「確かに、きみの言うことはもっともだね。きみの得にはならない。それどころか、魔術を覚える方が大切なのかもしれない」
「…………」
「昔の、母が生きていた頃の景色をきみにも見てもらいたいと思ったんだ。きみがこの場所を気に入ってくれたんだと思って嬉しくてつい舞い上がってたのかもしれないね。……押し付ける訳にはいかないからこの話は忘れてくれ」
そんなことを言う彼に、私は自然と口から零れ落ちるように言葉を返す。
「…………ます」
「え?」
「やる、と言ったんですよ」
「……いいのかい? 魔術を覚える上で必要のないものだけど――」
「見せたいんでしょう? 私に、昔のような光景を」
「うん……、うん! 一緒にやってくれるかい?」
「……言っておきますが、息抜きでやるだけですからね?」
「それでもいいよ! 今日から……は流石に道具とかがないから無理かな? 明日には揃えておくから明日から早速始めようか!」
意気揚々とそう告げる彼は何処か幼い子供のように見えるのだった。
一度は断ったはずなのに、何故彼の提案を受け入れようと思ったのか分からない。分からないが、彼の言葉に、表情に応えたいと思ったのだ。何故応えたいと思ったのかまでは分からないが、深く考える必要はないだろう。何故ならこれはただの気まぐれなのだから。欠陥品らしく理解の出来ない気まぐれもあるのだろう。
そうじゃなきゃ説明出来ないから――そうですよね、ヒルデ?




