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庭園

 明くる朝。

 昨日言っていたように魔術の鍛錬をする予定だったのだが、朝食を終え後片付けをしている間にエンテの姿は消えてしまっていた。最近の行動の傾向から大体の見当は付いていたのでクロノは真っ先のその場所へと向かった。


「エンテ、ここにいたんだね。……最近よくここに来ているようだけど、気に入ったかな?」

「…………」

 話しかけられたエンテはクロノを一瞥すると、いつも通り返事もせずに庭園へと視線を戻した。少女の変わらない態度に小さく息を吐きつつも、クロノは話し掛けるのを続ける。

「今日から魔術の鍛錬をしていくけど、体調は大丈夫かな?」

「……別に、どこも悪いところはありません。私のことは気にせずに貴方のやりたいようにやってください」

「そういう訳にはいかないよ。魔術をやる上で体調管理は最も徹底して行わなければいけないからね」

「……そもそも、私は人形なのでそんなことを考慮する必要はないのではないですか」

「いくら人形だと言っても"精神面"はその時々で変わったりするだろ? だから、それを確かめるためにも聞いておきたかったんだ。下手したら危険を伴うかもしれないからね」

「はぁ……。昨日も言いましたが、別に貴方にそんなことは関係ないじゃないですか」

 自分のことはどうでもいいといったように投げやりにクロノへと吐き捨てる。そんなエンテの態度を見たクロノは深く溜息を吐くと、頭を抱えながらもエンテに言葉を返す。

「なるほど、きみの考えは分かったよ。そういう考えなんだったらきみに魔術を教えることは出来ない」

「っ! どういうつもりですか! 私を助手にするという話だったのではないですか!?」

「約束したように助手の仕事はしてもらうつもりだよ。ただ、魔術を使う仕事にきみを連れて行くわけにはいかないっていう話だよ。さっきも言ったように、魔術は危険と隣り合わせなんだ。きみがそんな投げやりだと僕にも危険が及んでしまうかもしれないからね」

 尤もらしい理由を付けて助手の件を反故にしようとするクロノだが、彼の目的は別にあるようだ。確かに自分に危害が及ぶ可能性があることは否めない。だが、それ以上にエンテ(彼女)の身を案じた発言に他ならないのだ。その証拠に、わざわざこういった発言をしたことにある。こう言うことで彼女がどういう答えを出すのか、数日の間でクロノは学んでいたのだ。

 少しの間エンテは考え込むが、これといった答えを見つけられないまま小さく息を吐く。無表情ではあるが、どこか悔しそうな声音でクロノに言葉を返す。

「……分かりましたよ。今後は自分の体調も気遣います。それでいいですか?」

 不服そうにしているエンテを余所目に、クロノは納得するように頷く。そして、鍛錬をするために場所を移動しようとした時、まるで今思い出したかのようにクロノはエンテに話し掛ける。


「あっ、そうだエンテ。ちょっといいかな?」

「……手短にお願いします」

「分かった。1つ聞きたいこと――いや、提案したいことがあるんだけど」

「提案? ……一体何ですか?」

「いやね、きみはこの庭園を気に入っているようだから元の……花が咲いていた頃に戻そうと思ったんだ。とはいえ、恥ずかしながらこういうことには詳しくないから良かったら一緒に学びながら戻さないか、っていうお誘いだよ」

 クロノの提案というのは、2人で庭園を作り上げようというものだった。これは連日、エンテが庭園に通っていたというのもあるが、昨日聞いた彼女のヒルデに対する悪い想いを少しでも晴らすために考えたことなのだ。勿論、彼自身この庭園に思い入れがあるので純粋に戻したいという想いもあるのかもしれないが、総じて彼女を想っての提案になる。

 こんなことでエンテの気が休まるとは到底思えないが、それでも何もしないよりかはした方がいいと考えたのだ。例え、偽善だとか独善だとか言われたとしてもクロノはそんな言葉に振り回されることはないだろう。断られたのなら仕方ないが、その時はその時だ、と。

 クロノは彼女にしてあげられる精一杯のことを模索し続けるのだった。

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