2つの約束
それから少女――エンテシアとの約束を終えたクロノベルトたちは朝食を摂る前だったことを思い出し、2人で席に戻ることにした。
「それじゃあ少し遅れたけど、食べようか」
「……いただき、ます」
「あっ、そうそう! 一応、料理の腕にはそこそこ自身があるんだよ! 特に今日の出来はかなり良いんだけど――」
「……不味い、です」
「は、ははは。やっぱり冷めてしまったものだと味が落ちてしまうか……。というよりも、きみの味覚に合わなかったかな?」
「どうでもいいです。例え不味かろうと、食べれば魔力が満たされるみたいですし」
「いや、そういうわけにはいかないよ。一応これでも食事を任されている身だからね。どんな人でも美味しいと思ってほしいじゃないか」
クロノベルトの言葉に違和感を覚えたエンテシアはそのまま思った疑問を彼へと投げ掛ける。
「……こんなに広い屋敷なのに使用人は1人もいないのですか?」
「ん、あぁ1人だけ居るよ。とはいえ、その人以外は辞めてもらったんだけどね。ちょうどその人が今日帰ってくるから紹介するよ」
「……別に興味ありません」
「ははは、そう言うと思ったよ。でも、一応形だけでも一度会っておかないかな?」
「……言っておきますが、あなたとあんな約束をしましたがあなたの言うことを聞くとは――」
「はは、それもそうだね。まぁ無理にとは言わないよ」
「……分かりました、会います! 会えばいいんでしょう!! ですが、会うのはただこれからお世話になるかもしれないからです!」
「まぁ、それでも充分な理由になるよ」
そこからしばらく静寂が訪れてしまう。
その静寂を破ったのは意外にもエンテシアの方からだった。ちょうどエンテシアがパンケーキを半分ほど食べた頃、先程から気になっていたことをクロノベルトに問い掛ける。
「それより……」
「ん?」
「私ばかり食べていますが、あなたは食べないのですか?」
「あぁ、そうだったね。きみにいつか美味しいと言わせるのを考えていて食べるのをすっかり忘れていたよ」
「……どうでもいいですが、私が美味しいと感じたものはヒルデの作ってくれた料理です。彼女の作ってくれたものは何でも美味しかった――」
エンテシアはヒルデを想い馳せるように虚空を眺める。そして、どことなく寂しげな表情で悲しそうに呟く。
「ですが、もう彼女の食事は食べることが出来ないのですね……」
「うーん……それなら、僕が彼女の料理を作れるようになったらエンテは美味しいと言うわけだ!」
エンテシアの発言から着想を得たクロノベルトは生き生きした様子で彼女に笑い掛ける。そんなクロノベルトの思い付きに、エンテシアは馬鹿馬鹿しいといったように言葉を返す。
「あなたに作れるわけがありません。そもそも、彼女の料理を食べたことがないので作りようがないじゃないですか」
「それは、そうかもしれないけど……。だったら、きみがどういう感じだったのか詳しく教えてくれないかな?」
「……伝えたところで彼女の味に近付くとは思えませんがね」
「……確かに。僕も母さ……母の作ったものを再現しようとしても未だに出来ないからね。だったら、そうだな……よしっ! それなら僕と勝負をしよう!!」
「? 何を言って――」
「これから僕はきみに食事を作ったりするよね? その時々に美味しいと言わせたら僕の勝ち。不味いままだったらエンテの勝ちという感じでどうかな? とはいえ、絶対に言わせたいから……僕が死ぬまで、ってことでどうだろう?」
クロノベルトは自信あり気にエンテシアへ自分が優位になるような勝負の提案をする。彼なりの意地なのか、それとも彼女を絆す為なのかは定かではないが、何処か楽しそうに彼女とやり取りをしている。
当のエンテシアは彼の行動を理解できないというように呆れながら言葉を返す。
「はぁ……そういう風に言うということは、あなたが勝つまで続けるつもりなんですか?」
「ははは、そうなるね。まあでも、そこまで言ったからには必ず美味しいと言わせるよ!」
「どう考えてもあなたに利点はあるように見えませんが……いいでしょう、受けて立ちます」
「よーしっ! そうと決まったら今日からヒルデ卿の料理を超えるつもりで頑張るか!」
そう言ったクロノベルトは晴れやかな笑顔をすると、これからのことを考えて意気込むのだった。




