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アイオライトの魔導人形(エンテシア)  作者: 七瀬朔夜
第2章 遠い日の約束
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目醒め

 ……元居た場所から移動してどれくらい眠っただろうか?

 鳥の囀りが聞こえる――そのことからおそらく今は朝なのだろうということが分かる。それが分かると、段々と意識がはっきりとし出すのを感じる。

 意識がはっきりとするのを確認すると、次は瞼を開けようと試みた。しかし、久しぶりに瞳を開けることになるからか、しばらくの間視界が白んでぼやけてしまう。それでも、瞬きを繰り返す内に段々と視力を取り戻すことに成功する。そして、視力を回復させた私は、次に辺りを見回し今自分の置かれている状況を確認することにした。


「ここは……、どこ? 私は……」

 視力の時同様、しばらく声を出すことをしていなかったせいか、かなり掠れた酷い声をしている。しかし、声を出す内に次第とまともな声をするようになった。辺りを見回して分かることはどうやらどこかの部屋で眠らされていたようだということだけだ。

 そういえば、私をここに連れてきた男は今も私の側に居るのだろうか? ……声も聞こえないし、気配を感じることが出来ない。そのことから考えられるのは、おそらく側には居ないのだろうということだ。

 とにかく情報が少ない……。情報を得るために次に行う行動は自分の足で動くことだと考えた私は起き上がろうと試みる。だが、やはり視力や声の時同様、身体に力を入れてもどうにも上手い具合に動かすことが出来なかった。



「…………っ!?」

 しばらく四苦八苦し必死に藻掻いた結果、ベッドから転落し顔を強く打ち付けることになってしまう。だが、打ち所が良かったお陰か、ぎこちなくだが動き出すことが出来るようになった。何とか苦労しながらも立ち上がった私は、部屋に備えてあった姿見を見て違和感を覚える。

「私は、こんな姿だったでしょうか……?」

 記憶と少し違うような気がする。それに、着ている服のサイズが全く合っていないからか、少しでも動くとずれ落ちてしまう。どこか不具合があるのかと身体を動かしたりもしてみるが、これといった問題は見当たらない。

 ……おそらく、記憶違いなのだろう。そうでなかったら説明がつかない。

 そこまで考えてよくよく考えてみると、自分が『欠陥品』だったことを思い出し、今の身体の状態に納得する。


 そうこうしている内に何やら匂いが漂ってくることに気付く。何の匂いだろうかと考えていると、今の時間帯のことを思い出す。

 そうか、朝食か。

 そこで彼女に言われていことを思い出す。『例え人形でも食事をすることが出来るのだから一緒に食べましょう』と。いつも一緒に食べることが出来たという訳ではないが、それでも彼女と一緒に食べた食事はとても美味しく楽しいものだった……のだと思う。

 彼女との記憶を思い出そうと記憶を探っていると、この匂いに覚えのある懐かしさを感じ取る。これは一体何だっただろうか……?



 いろいろと考えていて重要なことを忘れていた。

 そういえば、私をここに運んだ男は今どこに居るのだろう? そもそも、その男に聞けばいろいろと分かるのではないか? それに――何となくだが、その男にはお礼を言っておかなくてはいけないような気がする。

 そう考えた私は匂いの元に居るのかもしれないと思い、部屋の外に出て探すことにした。






 封印を解いてから二日経過したが、少女が目醒める気配はなかった。

 今朝も様子を見に行こうと思ったが、まずは朝食を摂ってからでも遅くないと思ったクロノベルトは朝食を作っている最中だった。朝食を作っていてふと、今日アルスが返ってくることを思い出す。

(そういえば、いつになるのか聞かなかったけど、今日アルスさんが帰ってくるんだったな。そうすると、あの子の事は当然バレるだろうし、どう説明するか……)

 そんなことを考えていると、後ろで何やら気配を感じ取る。もしかしたら、アルスが帰ってきたのだろうと思ったクロノベルトは少し乱暴な口調で後ろにいる人物に話しかける。

「帰ってきていたんだったら声くらい掛けてくれてもいいじゃないですか、アルスさん――」

 クロノベルトが後ろを向くとそこにはアルスではなく、代わりに昨日まで眠っていたはずの少女が立っていた。その少女は何をするでもなく、クロノベルトのことをただただ静かに見ているだけであった。



 そうしてしばらくの間、お互いに見つめ合う形になってしまう。

 ガラス玉のような異なる2つの紫眼に見詰められていると、まるでこちらのことを見通しているかのような錯覚に陥る。

 少女のそんな瞳と視線に耐え切れなくなったのか、沈黙を破るためにクロノベルトは何か言葉を発さなければいけないと思い考える。そして、無難なことを少女に話し掛けることにしたのだった。

「や、やぁ、おはよう。なかなか目を醒まさないから心配したよ」

 不信感を抱かれないように言ったつもりだったが、少女はクロノベルトの言葉を無視するかのように歩き出す。少女とは思えないほど整った顔なのに無表情なことから、少女がどの様に思っているのかが全く読み取ることが出来ない。

 クロノベルトがいる場所から少し離れたところまで近づくと、彼の様子を伺うように少女は話しかけた。

「……何を、しているのですか?」

 少女にしてはとても落ち着いた声音でクロノベルトに訊ねる。鈴の音が鳴り響くような透き通るその声に、思わずクロノベルトは呆けてしまう。しかし、その声音にクロノベルトは少し違和感を感じてしまう。

 言葉を返さないクロノベルトを気にした少女は再び彼に言葉を掛ける。

「? 聞こえなかったですか? あなたは今、何をしているのですか?」

 もう一度少女に問い掛けられたクロノベルトははっとするように、自分が今し方何をやっていたかを思い出す。

「あっ! マズイ、そろそろ焦げて、……っ!! はぁ、間に合わなかったか……。仕方ない、いくら焦がしたものでも自分の責任だからちゃんと食べないとな……。――っと、そうだ! そういえば、きみも食べることが出来るんだよね? だったら一緒に朝食を食べないかな?」

 クロノベルトに問い掛けられた少女は何かを考えるように少し逡巡する。

 また沈黙が訪れるのかと思われたが、その沈黙を破るように少女は口を開ける。

「……いただきます」

 駄目元で聞いたつもりだったが、少女はあっさりとクロノベルトの提案に承諾する。意外にも受け入れたのでクロノベルトは一瞬唖然としたが、落ち着いて少女の分の朝食を作り始める。

「ん……それじゃあ、少し時間が掛かるからそこの椅子に座って待っててもらってもいいかな? すぐにきみの分も作るよ」

 そう言ったのだが少女は座ろうとせず、じっとクロノベルトのしていることを見続けている。

 そんなに疑わしいのだろうかと思っていると、後ろから声が微かに聞こえてくる。

「あなたが……」

 呟くようにそう口にすると、少女は促されるように椅子に座ると再びクロノベルトのことを静かに見続けるのだった。



 少女に見られながらも、ここまで会話を普通にしている自分に驚きつつ、少女のことを考える。

 その考えたことというのは、会話は通じてはいるが少女の声に感情が籠もっていないように感じるということだ。いや、正確には感情は籠っているのだが、何故か物悲しい声に聞こえるのだ。

 どうしてそう感じてしまったのか分からないが……。

 そんな少女を気になりながらも、少女の分の朝食が出来上がったのでテーブルに持っていくことにするのだった。

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