日記
数ある本の中から目ぼしいと思える本を十冊ほど屋敷に持ち帰ったクロノベルトは落ち着いて読むために自室へと向った。
(これくらあればあの子について書かれたものがあるだろう……。他にも気になる本はあったけど、今はあの子のことを調べることが先決だ)
魔導書も気になったようだが、まずは少女について詳しく知りたいと思ったクロノベルトはアインハルトの言っていた日記を数冊手に取る内容を確かめるために読み始めた。
その日記ではアインハルトとヒルデの出逢った経緯や戦場での苦悩、どうすれば戦争を終わらせることが出来るのか、というようなことが書かれていた。
その中でも特に目を惹いたのがヒルデのことだ。
どうやらアインハルトから見たヒルデは戦いをすること――人を殺すことを辛いと感じているように見えたということだ。
幾度かの交戦をしたアインハルトがその事をヒルデ指摘してみた所、完全に否定された上に殺されそうになったということが書かれている。しかし、殺されそうになったのにも関わらず、アインハルトの彼女を案じる思いは変わらなかったという。
そこからしばらくは彼女には会うこともなく、戦争が激化していくことになる。
そして、激化した戦場で再びヒルデと出会うことになってしまった。
最後に別れた時から随分経ったのもあったのか、大分印象も変わってしまい以前よりも殺伐とした雰囲気が漂っていたと書かれている。
その姿を見たアインハルトはこれ以上彼女が変わってしまうことを恐れ、彼女に接触することにした。
ここで気になったのは、その時には"2体の人形"を引き連れていたということだ。
その人形に邪魔されながらも彼女と会話をすることを諦めなかったアインハルトは、何とか彼女に取り持ってもらえるように1体の人形と接触することを試みる。
1度目はアインハルトの言葉を歯牙にも掛けず一蹴してしまうが、2度目には彼の本意が届いたのか話を聞いてもらうことが出来たようだ。
そして、ヒルデの人形の協力の元、穏便にとはいかなかったが一先ず話を聞いてもらえることになる。
しかし会話の結果、自分の言い分を押し通したいのなら決闘で屈服させることを条件に戦うことを強いられる。
文字通りのお互いの命を懸けた戦いに意味などないと思いながらも、彼女の心を開けるためには戦うしかないと考えその決闘を引き受ける。
戦いの中でヒルデの戦う理由や想い――それを聞くことになり胸を痛めるが、彼女の苦しみを少しでも理解し向き合いたいと考えながらも戦う。1時間、1日、いや何日も戦っているかのような錯覚に陥るほどまでに長く辛い戦いだったということが記されている。
そんな長いと思った戦いも終わりを迎えることになる。そう、アインハルトの敗北という結末を――
敗北したことにより死を覚悟したが、ヒルデは殺すことを選ぶことはなかった。殺すことよりも、アインハルトの考え――"両国の和平の使者になる"ことを選んだのだった。
戦いを通したことでお互いの気持ちが通じ合うことが出来た2人は奇妙な間柄――敵だけど心を許せるような関係になった。
そこから僅かながらに信頼関係を築いた2人は両国の使者として和平の懸け橋になるための行動を起こしていく。ヒルデを引っ張りつつ、和平に賛同する者や一緒になって動いてくれる仲間を増やしながら両国の使者として纏め上げていく。
途中、和平に反対する者の妨害、アクシデントなど数々の困難に見舞われるが、アインハルトやヒルデ、その仲間たちとともそれらを乗り越えていく。そして、両国に無事調書が届けられることになり、戦争を停戦させることが出来た。
しかしその過程で、数多くの仲間や1体の人形を喪失うという犠牲を払うことになってしまった。
戦争の終結まで読み終えたクロノベルトは一息を吐き、今までの考えを纏める。
「――ふぅ……。アインさんがヒルデ卿を引っ張っていた、か……。意外と言えば意外だけど、あの人にはそういう力があるように感じたから納得出来るかもしれないな。それにしても――」
アインハルトの話で2体の人形がいることは分かっていた。しかし、その内の1体が戦争で喪失っているとは思わなかった……。
残りの1体はまだ動いているのだろうか? もし、動いていたとしても二百年という月日が流れているのだ。流石に動きを止めていてもおかしくはないだろう……。まだ動けるのなら話を聞いてみたかったが――
残念に思いながらも続きを読もうと次の日記を掴んだ時、日記から一枚の紙らしきものが床に落ちた。
床に落ちた紙を拾ったクロノベルトは何か文字が書かれていることに気付く。何が書かれているのか見てみると、そこには"戦を終わらせた記念とし、ここに我らの姿を残す"と書かれていた。
その文字を見て、この紙が写真なのだと思ったクロノベルトは裏返してどういう姿だったのかを確認する。
そこには先ほど見た通り自分に似た男、アインハルトとその隣には短髪の女性が立っているのが分かる。何処となくだが人形の少女に似ていることから、この女性がヒルデなのだろうと考えられる。
どちらも笑顔ではあるのだが、かなり対照な笑顔なのが印象的で目を惹いてしまう。アインハルトは嬉し泣きなのに対し、ヒルデは笑うのが苦手なのかぎこちない笑顔をしている。
そんな対照的な2人だが、この写真を見る限り心から信頼し合っているということが伝わってくる。この写真を見ていると当事者でないが、こっちまで2人の気持ちが何故だか分かるような――そう思えるような写真だった。
写真を再び日記に戻したクロノベルトは続きを読み進めることにした。
2人の活躍によって戦争が終わり、平和な日々が続くことになる。
戦争で人形を喪失ったヒルデは創りかけで完成させなかった人形を創ることにしたようだ。とはいえ、原型は殆ど出来上がっていたのでそれを動けるように調整したりするものだったらしい。
戦争時代に創ろうとしていたものだったので、魔導具が取り付けられたままだったというのはアインハルトの話にも出ていた通りのようだ。それを取り外そうとも考えたが、無理に取り外そうとすると人形の精神がもう一度壊れてしまうことになると考えたので取り外すのを止めたようだ。
そのことに対して、ヒルデは『自分の身勝手な行為でこうなってしまったのだから仕方のないことだ』と言ったようだ。その時の表情は今まで見た中で一番辛く悲しそうな表情だったということが書かれていた。
そしてしばらく経ったある日、調整が無事終わり人形が完成することになる。
その間に、喪失ったと思っていた人形の残骸や魔導具が見つからないという報せが届く。その報せを受けたヒルデは一縷の望みに賭け、アインハルトと共に捜索をするようになる。しかし、捜索するのも空しく、一向に手掛かりの一つも手に入れることが出来なかったようだ。
ここまで読んで彼女――眠っている少女のことを思い出したクロノベルトは、次の日記の内容を読んでから様子を見に行くことにした。だが――
(……あれ? いきなり日記が途切れてしまっている? ――どういうことだ……あの人の性格を考えると3日以上日記を書かない様なことはないはずだけど……)
そう思いページを進めていくと再び日記が記されている日を見つける。
しかし、日記の内容を見たクロノベルトは驚きと不安で日記を取り落としてしまった。何故ならその日記の内容には――
『僕が……ヒルデを殺すことになってしまったのかもしれない――』
信じられないような内容で短く、そう書かれていたのだった……。




